3品目[あなたのための平凡な朝食]
ここはお客様のどのようなご注文にもこたえるレストラン[わがままレストラン]、今日も夢のメニューを求めてお客様がやってくる。
「あの、ご飯とキュウリの浅漬……焼き魚に……みっ、味噌汁……を」
お客様の男性、
「あ、やっぱり、トーストと目玉焼きと牛乳を……」
細身選人は注文を言いなおす。
「大変失礼をいたしますがお客様? もしかしてアレルギーをお持ちですか?」
[わがままレストラン]ウェイターは何度もこの経験をした、食べれないものがある事でレストランに迷惑がかかると思ってしまうお客様がいるのだ。
「はあ、まあ……」
細身選人は気づいてもらえた嬉しさと気恥ずかしさに顔を赤らめる。
「大豆ですか?」
[わがままレストラン]ウェイターは優しく微笑む。
「え?!」
細身選人は驚く、まだ何かとは言ってないのに。
「お客様が最初におっしゃられたご飯とキュウリの浅漬には好みにもよりますがあまり大豆が関わりません、しかし少し口ごもっておっしゃられた焼き魚は、もちろん塩でもお出し出来ますが醤油、大豆製品を使う事が多いメニューです、更におしゃられた味噌汁にいたりましては味噌はもとより豆腐も油揚げも大豆製品になりますので」
[わがままレストラン]ウェイターは常にお客様を思い、お客様のご注文に耳を澄している。
「はあ、そうなんです、子供の頃は食べれたんですが大人に成ってアレルギーが出ましてね、最初から食べれなければこんなに食べたいと思う事もなかったかもしれませんが、時折どうしても食べたくなるんです」
食べたいものが食べれないのはつらい。
「大丈夫です、今一度ご注文くださいお客様」
[わがままレストラン]ウェイターが静かに注文を待つ。
「あ、じゃあ、ご飯とキュウリの浅漬、さんまの焼き物に……味噌汁を」
細身選人はおそるおそるそれを注文する。
「納豆と玉子かけご飯もお出しできますが、いかがいたしますか?」
大豆にアレルギーがあれば当然食べれないメニューだ。
「え? 本当ですか」
細身選人は驚く。
「はい」
[わがままレストラン]ウェイターは静かにこたえた。
***
「[あなたのための平凡な朝食]でございます」
「これは……」
お茶碗に盛られたご飯、おわんに豆腐と油揚げの味噌汁、さんま用の長皿に焼いたさんまと大根おろし、小皿にキュウリの浅漬、更に納豆と生玉子二個、納豆と玉子かけご飯用と思われる出汁のソースの入った注ぎ口のある器とさんま用の醤油さし、そこには子供の頃は普通に食べれた平凡な朝食があった。
「ん?」
「いや、豆腐が薄い緑? 味噌は少し赤い? あっ、納豆は
細身選人は少し驚く。
「ご説明いたします、まず納豆と味噌汁の味噌、納豆と玉子かけご飯用の出汁のソースとさんま用の醤油は小豆で造られたものです、そして、味噌汁の豆腐とお揚げはそら豆を使用しています、味は保証いたしますが、もしお気に召さないようでしたら別メニューをご用意する事も可能です」
[わがままレストラン]ウェイターはまず安全なメニューだと
「いえ、いただきます、美味しそうだ」
細身選人はこのての食べ物に飢えていた、おそらく味がどんな物であれ美味しと思って食べただろう。
しかし違った、[わがままレストラン]ウェイターの言葉、「味は保証いたします」は
当然である、ここはお客様に料理を提供し、お金をいただくレストランなのだ、不味いものなど出しはしないのだ。
「美味しい、美味しい、美味しい、美味しい」
細身選人は平凡な筈のこの朝食を一品一品丁寧に食べた、今でも食べられるご飯もさんまに大根おろしと醤油で食べると格別、味噌汁は細身選人の心をあたため、キュウリの浅漬もたからかな音をたてる。
「納豆も玉子かけご飯も何年ぶりだろう」
そして細身選人は何度もご飯と味噌汁をおかわりして納豆と玉子かけご飯を食べきった、納豆にいたっては出汁のソースだけのものと、更に玉子を混ぜたもの二種を作り、おなかがいっぱいに成るまで食べた。
「ごちそうさまでした……」
細身選人は泣きそうなほど嬉しかった。
***
「味、思い出したよ、本当にありがとう」
細身選人のシルプルで素直な言葉だった。
「それはようございました、またのご来店お待ちしております」
[わがままレストラン]ウェイターは深々と頭を下げる。
ここはお客様のどのようなご注文にもこたえるレストラン[わがままレストラン]、今日も夢のメニューを求めてお客様がやってくる。
わがままレストラン~料理は人を幸せにする~ 山岡咲美 @sakumi
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