第75話:マスター(Side:クリッサ①)

 ずっと落ちている感覚があった。

 暗闇の中を。

 誰かが起動してくれるまで、ウチは動けない。

 いつまでもこんな感じなのかなと思っていた。

 でも、憎んだり悲しく思ったことはない。

 それが“呪われた即死アイテム”の宿命だとわかっていたから。


 永遠にも続くと思われたあるとき、強い衝撃を受けて身体が止まった。

 ああ、どこかに落ちたんだなと感じた。

 ようやく落下は終わったらしい。

 今度はどこかの地面で時を過ごすのか……ある種の諦めを感じたときだった。


「か、《解呪》!」


 おでこに何かが触れて、声が聞こえた。

 急速に意識がはっきりとし、目が覚めた。

 闇が払われ世界が飛び込んでくる感覚……今でもよく覚えている。


 目を開けると、人間の男の子が見えた。

 この人が私の主だ。

 直感でわかった。

 彼の後ろには“呪われた即死アイテム”の女の子が……。

 あのときは驚かせてごめんね。

 嬉しくて、つい勢い良く近寄ってしまった。


「レ、レイク・アスカーブ……です」


 マスターは名前を教えてくれた。

 初めて見る人間の男の子。

 不思議と怖くなかった。

 分析する間でもなく、見ただけでレイクっちの優しさは伝わってきたよ。

 女の子はミウっちだって。

 やっぱり、彼女も“呪われた即死アイテム”だった。

 レイクっちに出会えて、ウチら良かったね。

 その後、みんなで色んなところに言って、たくさんの楽しい経験をした。


 ――ウチはみんなを殺しちゃう殺戮人形。


 いずれ、目覚めたらそんなことをしなくちゃいけないのかな……。

 この世に生まれたときから、心の底でぼんやりと考えていた。

 でも、レイクっちやミウっちのおかげで、今日も楽しい毎日が送れている。

 こういうのを奇跡って言うのかな。

 ありがとう、みんな……。

 レイクっち、大好きだよ~。

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