第71話:いざ、魔界へ

「さてと、魔界ってどうやって行けばいいのかな?」

『ええ、それが少々手間がかかります。我々は特別なゲートを使っていました。人間界にはないので、もちろん準備が必要です。まず、“ベースメントの地底”に眠る<水鏡の宝玉>という秘宝を入手し、それから“ブルームーン山岳地帯”の奥地にあると伝わる<世界樹の種>をすり潰し、その油を……』


 ユーノさんは長々と魔界に行く方法を説明し始める。

 どうやら、たくさんの貴重なアイテムが必要なようだ。

 恐ろしく複雑で時間がかかりそうだな。


「ユーノさん、すみません。魔界に行くには、そんなに手順を踏まないといけないんですか」

『はい。人間界について研究を重ねた結果、今ご説明したようなアイテムを入手いただければ魔界に行けることがわかりました』

「ちょっと時間がかかりすぎそうなので、闇魔法でテレポートしましょう」

〔その方がいいかも〕

〔ウチも賛成~〕


 そう言うと、ユーノさんは固まった。


『テ、テレポートですか……? 失礼ながら、異界を行き来できる魔法など聞いたことがありませんが……』

「いや、それがあるんですよ。【闇の魔導書】こい!」


――――――――――――――――――――――――

《ダークネス・テレポート》 

ランク:SSS 

能力:全世界のあらゆる場所へ自由に行ける

――――――――――――――――――――――――


 この全世界というのは、魔界も含まれているはずだ。

 今回もこの魔法に頼らせてもらおう。

 ユーノさんが慌てた様子で話す。


『レイクさん、異界に行くのはただでさえ大きな負荷がかかります! 巨大な魔族であれば別ですが……きちんとした手順で行った方がいいです!』

「いえ、大丈夫ですよ。俺の身体もSSSランクのアイテムでパワーアップしてますし、ミウやクリッサもSSSランクなんですから。……そうだ、ユーノさんはバリアで守りましょう。《ダークネス・ネオバリア》、対象はユーノさん」


 呪いの精霊を倒したときと同じように、黒いバリアがユーノさんを覆う。

 闇魔法が誇る最高峰のバリアだ。

 これなら傷つくことはないと思う。


〔じゃ、行きましょうか〕

〔夕ご飯はお家で食べようね~〕

「《ダークネス・テレポート》! 行き先は魔界!」

『待っ……そんな軽く……!』


 いつものように一秒経つと、俺たちは見知らぬ土地にいた。

 赤黒い空にひび割れた大地、遠方には険しい山々がそびえる。

 木々はゴツゴツとした皮に覆われ、どれも葉っぱがほとんどついていない。

 荒れ果てた土地、といった表現がピッタリの場所だった。


「ここが魔界かぁ……悔しいが良いセンスをしているじゃないか」

『ま、まさか、本当に魔界に着いてしまうとは……レイクさんは想像以上です……』

〔これが闇魔法なのよ〕

〔レイクっちの魔法はどれも超一級品だからね~〕


 ユーノさんは呆然と佇む。

 いやぁ、闇魔法は本当に便利だな。


「あとは魔王を倒すだけだけど……どこにいるのかな」

『あそこの城にいるはずです。通称、“魔王城”です』


 ユーノさんは俺たちの後ろを指で差す。

 エンパスキ帝国の王宮より、さらに高い城が建っていた。

 城門は固く閉ざされており、全体的に薄黒い。

 城を構成する塔の先っぽは尖っていることもあり、人間界の城とはだいぶ様相が違うと感じた。


「ふむ……デザインは悪くないな」

〔いつも通りのダーリンで安心したわ〕

〔それでこそ、レイクっちね~〕

『では、城までご案内します。警備の魔族に気づかれない隠しルートがありますので、それを使いましょう』

「そんなのがあるんですね。ぜひ、お願いします」


 ユーノさんの後を追い、“魔王城”へと向かう。



□□□



 十分か十五分ほど歩いたら、城の手前に着いた。

 この辺りは木々がたくさん生えており、身を隠すようにして進んでいた。

 ユーノさんは小声で言う。


『皆さん、こちらです。静かについてきてください』

「〔了解〕」


 こそそそ……とついていくと、城の側面にあたる壁で止まった。


『待っててください。今、暗号の呪文を……なっ!』

「ど、どうしたんですか、ユーノさん」


 ユーノさんは愕然としたかと思うと、次の瞬間にはガックリと崩れ落ちた。


『見たこともないバリアを張られており、通り抜けることができません……。きっと、私を追放してから新しく展開したのでしょう。すみません……レイクさん』

「なんだそんなことですか。具合が悪いのかと思って心配しましたよ」

『そ、そんなこと……と仰いますと?』


 ジッと見ると、たしかにバリアが張ってあり、城全体を四角く覆っていた。


「やたら高度な魔法だが……壊せないほどではないな」

『いや、壊すって不可能です! おそらく、これは魔王が展開した結界! だとすると、ランクも魔王と同じと思われます!』

「そういえば、魔王って何ランクなんですか?」


 俺が尋ねると、ユーノさんはかつてないほど真剣な顔になった。


『いいですか? 落ち着いて聞いてくださいね?』

「は、はい」


 な、なんだ?

 ユーノさんはやけに気合を入れているぞ。

 そうか、相手は魔王だ。

 そこら辺の魔族とは訳が違う。

 どんなランクが飛び出してくるのか。

 覚悟を決めた瞬間、ユーノさんは必死になって叫んだ(小声で)。


『魔王のランクは…………SSなんですよ!』

「〔SS!?〕」


 大変だ。

 ものすごい高ランクじゃないか。

 さすがは魔王。

 格が違う。


「……ということは、このバリアもSSってことですか」

『そうです(小声)!』

〔ダーリンなら一撃で壊せそうね〕

〔いっけー、レイクっち〕

『え? ちょっ、待ってください、レイクさ……!』

「超レイクパンチ!」


 全力でバリアを殴ると、木っ端微塵に砕け散った。

 やっぱり、中指の先を尖らせておくと威力が倍増するんだな。

 力が一点に集中するから。

 肉体が強化されてなかったら骨折しそうだけど。

 叩き割った瞬間、大音量の鐘が鳴り始める。


『あわわわわ……』

「鐘? どうしたんだろう?」

〔侵入者を知らせる警報が鳴っているのよ〕

「なるほど」

〔念のため、【バトルモード】起動しよ~……マスター、全部で35体の魔族が襲い掛かってきます〕


 魔王城が騒がしくなり、大量の――といっても、たったの35体か――魔族が塔から飛んできた。


『おい、レイク・アスカーブだ! 魔界に乗り込んで来やがったぞ!』

『殺せ! 魔王様のご命令だ!』

『地の利はこっちにある! 魔界における魔族の力を見せてやれ!』


 大きい個体から小さめの個体まで選り取り見取りだ。

 人間界を侵略しに来たときと違うのは、ヤツら全体を紫のオーラがまとっていることだ。


〔マスター、彼らは土地や空気から魔力を吸収しています。魔界は彼らにとって良い環境のようです〕

「へぇ~、そうなんだ。さすが魔界。では、《ダークネス・ブラッ……」

〔いえ、ここは私たちに任せて。いつもダーリンばかり戦っていたら疲れちゃうわ〕

〔たまにはクリッサも戦います〕


 ということなので、ここは彼女らに任せた。


『『ここに来たことを後悔させてや……!』』

〔ふぅぅ……〕

〔死んでください〕

『『ぶぎゃああああ!』』


 魔族たちは全身が地獄の業火で焼かれ、頭や心臓を打ち抜かれる。

 ボトボトと死骸が落ちてくると、ユーノさんは顔が引きつっていた。


『お、お二人も大変に強いのはわかっていましたが、実際に見ると桁違いですね。まるで、伝説に聞いた神々の戦争を想像します』

「いやぁ、これが日常なんですよ、ははははは」

『これが日常……』

「じゃあ、行きましょうか、ユーノさん。魔王もやっぱり一番上に住んでいるんですか?」

『え……? え、ええ、そうです。頂上の階にいるはずです。すみません、色々と規格外過ぎてボーッとしてしまいました』


 俺たちはユーノさんを引き連れ、魔王城を進む。

 いったい魔王はどれくらい強いのか、今から楽しみになってきた。


□□□


『レイク・アスカーブ! 貴様の命もここで終わりだ!』

『ユーノまでいるぞ! とうとう裏切ったか!?』

『魔族こそが人間界を支配する存在!』


 城を上へと進むたび、魔族が襲い掛かってくる。

 その度、ミウに焼かれてはクリッサに打ち抜かれていた。


〔まったく懲りないわねぇ。さっさと降参すればいいのに〕

〔おそらく、目の前の現実が信じられないのでしょう〕


 積み上げられる魔族の死体。

 そのままだと帰り道が面倒なので、ミウが焼いてくれていた。

 窓からは魔族が逃げて行く様子が見える。

 勝ち目がないとわかった者から撤退しているようだ。


「ユーノさん、逃げていくヤツも倒した方がいいですかね?」

『いえ、魔王の討伐を優先してください。魔王さえ倒せば、過激派の意志も潰えますので。……そして……あそこが魔王の間です』


 ユーノさんは遠方の重厚な扉を指す。

 いよいよ、全ての魔族を統治し誰も勝てる者は存在しないと言われる人類の永遠なる世界最強の敵――規格外の超絶ランク“SS”を誇る魔王との戦いが始まろうとしていた。

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