第7章:魔界編

第69話:予期せぬ事態(Side:ムノー④)

『ま、まさか、あのコカビ・エルケノスまで……』


 三大魔卿の最後の一角が落ちた。

 いとも簡単に、あっけなく……。

 まるで、他の魔族たちと変わらないほど圧倒的に倒された。

 大会議室は静寂に包まれる。

 誰も何も話さなかった。

 余の次に強いはずの、魔族の中でも最高峰の強さを誇る三大魔卿が全員倒された。

 あり得ない事態に、さすがの余も焦りが生まれる。


『おい、ユーノを呼んでこい! 何か策を考えさせるのだ!』


 こういうときこそユーノの出番だ。

 正面突破が難しいのであれば、搦め手を使うのみ。

 穏健派の理念は腹立たしいが今は頼らざるを得ないのだ。

 だが、いつまで待ってもユーノは来ない。

 来ないどころか、会議に参加さえしていなかった。


『なぜ会議にも出ていない! あいつは幹部だろう!』

『『ユ、ユーノはいません……』』


 魔族たちはぼそぼそと呟く。

 ユーノがいない?

 こいつらは何を言っているんだ。


『いないはずないだろうが! 探して捕らえてくるのだ!』

『『魔王様が人間界に追放されたと思いますが……』』

『……なに?』


 人間界に追放した……?

 この余が……?

 記憶をたどる。


(ユーノ、貴様は追放だ!)


 た、たしかに、あいつは人間界に追放しておったわ。

 すっかり忘れていた。

 だとすると、策略を余が考えねばならないのか。

 これは面倒なことになった。


『『魔王様、今後の計画はいかがいたしましょうか……』』

『ええい、うるさい! 今考えておるわ!』


 余のずば抜けた優秀な思考回路を、目まぐるしく稼働させる。

 ユーノなどに頼らずとも、最高の策略を考えてやるわ。


『……まずは魔王城の守りを固めろ!』

『『しょ、承知しました!』』


 魔族たちは慌ただしく会議室から出る。

 結論から言うと、レイク・アスカーブを倒せそうな策略は何も思い浮かばなかった。

 あいつは余より弱いが、人間にしては強い。

 それは認めてやろう。

 下手したら魔界に来る可能性も捨てきれない。

 だから、まずは一度体勢を立て直す。


 ――レイク・アスカーブに必ず勝つ!


 震える拳を握り締めた。

 ククク……武者震いに身体が震えておるわ。

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