第68話:弟皇子から勲章と領地を貰った

「レイクさん、この度は本当にありがとうございました。あなたのおかげで、この国の平和は保たれました」

「いやいや、そんな大したことはしていないよ。アフタル君こそ、俺に頼んでくれてありがとう」

〔ダーリンは相変わらず謙虚で素敵だわ〕

〔ウチも見習わないとね~〕


 俺たちは今、王宮のバルコニーにいる。

 三大魔卿から国を守った功績を称えたいということで、アフタル君が表彰してくれているのだ。

 眼下の広場にはたくさんの国民たちが。


「レイクさん! 国を守ってくれてありがとうございました! おかげでこの先もずっと安心して暮らせます!」

「三大魔卿に支配されてたらと思うと、今でもゾッとします! レイクさんがいてくれて本当に良かったです! 来てくれてありがとう!」

「アフタル様も素晴らしい傭兵を呼んでくださり、心から感謝します! さすがはアフタル様です!」


 みんな、笑顔で拍手しては讃えてくれていた。

 魔族は人類の敵だ。

 国民たちの平和で幸せな生活が、この先もずっと続くことを祈る。


「では、レイクさん。そろそろ表彰式に移りましょう」

「なんだか緊張しちゃうな」

〔堂々としていればいいの。ダーリンが主役なんだから〕

〔レイクっちは緊張しぃだよね~〕


 服の裾を伸ばしたりしていると、バルコニーが騒がしくなった。

 アフタル君は目を見開いて、俺の後ろを凝視している。


「アフタルや……そちらがレイク殿かえ? ワシにも挨拶させてくれんかの?」

「ち、父上!」


 父上と聞いて勢い良く振り返ると、初老の男性が衛兵に抱えられながら立っていた。

 長い白髪に、白色の長い髭。

 アフタル君と同じエメラルドグリーンの瞳は、ややくすんでいるが宝石のように輝いていた。

 年齢はカタライズ王より十歳ほど年上に見える。

 賢者のような風体だけど、アフタル君の父上ということは……。


「エ、エンパスキ皇帝ですか!?」

「いかにも。ワシがそうじゃよ。今は病気でほとんど寝たきりじゃがな……ごほごほ……失礼。胸の病気がなかなか良くならなくてな」


 マジか。

 そんな偉い人と会えるなんて驚いた。

 しかし、だいぶ具合が悪そうだ。

 胸の辺りを抑えてしきりに咳込んでいる。

 アフタル君は急いでエンパスキ皇帝に駆け寄った。


「父上、寝てなくていいのですか。まだ体調が悪いのでしょう」

「いやいや、寝ているわけにはいかんよ。レイク殿は国の救世主なのだ。挨拶せねば失礼というもの……ごほごほっ。レイク殿、死ぬ前にお主のような立派な人間と出会えてよかったぞよ……」

「あ、いえ、俺も皇帝陛下とお会いできて光栄です」


 エンパスキ皇帝は苦しそうにしながらも、俺と会えたことを感謝してくれた。


「アフタル、ワシがいなくなっても悲しむでない。お前はすでに立派な男じゃ。この国を導いていける」

「父上……」


 アフタル君とエンパスキ皇帝は硬く抱き合う。

 国民たちもまた、悲しそうな顔で静かに見守っていた。

 病気で寿命が短いのか……それなら……。


「あの~、もしよかったら俺が治しましょうか?」

「「え……?」」

「俺の闇魔法だったら、エンパスキ皇帝の病気を治せるかもしれません」


 そう言うと、アフタル君もエンパスキ皇帝も目を白黒させていた。


「し、しかしですね、レイクさん。父上の病気は不治の病なんです。どんなに高名な医術師でも秘薬でも、改善させることさえできなかったのですよ」

「そ、そうじゃよ。国中の医術師が力を尽くしてくれたが、終ぞ治ることはなかったんじゃ」


 二人とも諦めた口調で語る。

 やはり、だいぶ深刻な病のようだ。


「でも、闇魔法ならきっと治せると思います。ちょっと探させてください」

〔ダーリンに不可能はないの。大船に乗ったつもりでいればいいわ〕

〔レイクっちにお任せあれ~〕


 アフタル君はしばし悩んでいたが、やがて納得したようにうなずいた。


「……たしかに、レイクさんなら治せるかもしれませんね。あの三大魔卿ですら簡単に倒してしまったんですから……父上、ここはレイクさんに任せましょう」

「い、いや、しかしだな……」

「ちょっと待っててくださいね」


 エンパスキ皇帝は半信半疑だったが、【闇の魔導書】を転送させペラペラとページをめくる。

 少し探すと良い魔法が見つかった。



――――――――――――――――――――――――――――

《ダークネス・ヒーリング》

ランク:SSS

能力:不治の病を癒す

――――――――――――――――――――――――――――



 まさに、この状況にピッタリじゃないか。


「エンパスキ皇帝陛下、あなたの病気を治す魔法が見つかりました」

「なに!? もう見つかったのかね!?」

「さすがレイクさんだ。仕事がお早いです」

「じゃあ、さっそくいきますよ。……《ダークネス・ヒーリング》! 対象はエンパスキ皇帝!」


 魔法を唱えると、エンパスキ皇帝の全身を淡い黒い光が包み込んだ。


「お、おおっ! なんじゃ、これは!? 胸がすっきりしていくぞよ!」

「これが闇魔法なんです。もう少しで終わると思います」


 五、六秒ほどで光は消えた。

 エンパスキ皇帝の見た目に変化はないが……。


「お身体の具合はどうで……」

「うおおおお! 元気いっぱいじゃあああ!」


 突然、エンパスキ皇帝は叫び、全身に力を込めた。

 バーン! とローブが弾け、分厚い筋肉が現れる。

 そのまま、バルコニーの淵に立ち、次々と色んなポーズを決め始めた。

 また一段と盛り上がる国民たち。


「皇帝陛下の復活だああああ! あの肉体美またが見られるなんて、俺たちは幸せ者だな!」

「レイクさん、あんたは救世主どころじゃねえ! 超救世主だ!」

「皇帝陛下、ばんざーい! レイク、バンザーイ!」


 ……少々治し過ぎたのかな。

 あまりの変わりように呆然としていたら、アフタル君が感動した様子で俺に抱き着いてきた。


「レイクさん、ありがとうございます! 父上が復活しましたよ! ああ、レイクさんは本当に僕たちの恩人です!」

「い、いや、元気になられて俺も良かったよ。エンパスキ皇帝って肉体派だったんだね」

「父上はああ見えて、歴代最強の戦士なんです。どんな敵も拳一つで倒してきました」

「へ、へぇ~、そうなんだぁ」

〔人は見かけによらぬ、ってヤツね〕

〔ウチもびっくりしたんよ~〕


 賢者みたいな風体だから魔法使いかと思ったが違うらしい。

 エンパスキ皇帝がひとしきりパフォーマンスした後、アフタル君がこほんっと咳払いした。


「では、改めまして。レイクさんに救国の栄誉を授けたいと思います!」

「「おおおおー! レイク! レイク! レイク!」」


 そういえば、まだ表彰式の途中だったんだよな。

 エンパスキ皇帝のインパクトで忘れてしまっていた。


「さあ、レイクさん、お受け取りください。エンパスキ帝国を象徴する、竜の飛翔図です。レイクさんがこの竜のように飛翔され活躍されるのを、僕たちはずっと応援しております」

「ありがとう、アフタル君。大事に飾るよ」

〔あら、カッコいい絵〕

〔レイクっち、好きそうね~〕

「「いいぞー! レイク、バンザーイ!」」


 国民たちの大歓声の中、アフタル君は両手で抱えるほど大きな絵を渡してくれた。

 強そうな黒龍が悠々と飛んでいる絵だ。

 額縁は赤。

 くぅぅ、素晴らしいじゃないか。

 【呪いの館】にピッタリだな。


「それと、レイクさんにお渡ししたい物は他にもあるんです」

「え、そうなの?」


 アフタル君は懐から一枚の紙を取り出した。

 一目見ただけで、高級な羊皮紙だとわかる。


「実は……レイクさんに領地の経営を手伝っていただきたいのです」

「領地の経営!?」

「はい。東の海にエンパスキ帝国が管理する島――アペイロン島があるのですが、未開拓の領域が多く……島民の暮らしは厳しいものがあります。彼らも思い入れが深く、ずっと島で暮らしたいとのことで……。レイクさん、当主になって島民の生活を改善してくれませんか?」

「む、無理だよ! 領地の経営なんて難しいこと!」


 経営と聞いた瞬間、頭が痛くなった。

 モンスターや魔族を倒すことはできても、経営などできるはずがない。


〔まあまあ、やってみないとわからないじゃないの。やってみたら案外向いているかもよ? 領地経営〕

〔初めてだから不安になってるだけだって、レイクっち〕

「たしかに……言われてみれば……」

「じゃあ、決まりですね! ありがとうございます、レイクさん! 本当にお優しい方だ!」


 結局、ミウとクリッサに圧され了承。

 本格的な領地経営は、一通り俺の依頼が終わってからということも決まった。


「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るよ。依頼も溜まっているし」

「そうですか……寂しいですが仕方ないですね。レイクさんは世界的な実力者ですから。引く手あまたなんでしょう」


 アフタル君たちから離れ、転送の準備をする。

 と言っても、魔法を使うだけだ。


「じゃあね、アフタル君。楽しかったよ……《ダークネス・テレポート》! 行き先は俺の家!」

「レイクさん、本当にありがとうございました! 絶対にまた会いましょう!」


 一秒後、家についた。

 見慣れた黒い壁に床。

 【呪いの館】だ。

 さっそく、黒龍の飛翔図をロビーの壁に貼る。

 ……う~ん、素晴らしい。

 黒に赤の組み合わせは最高だな。


〔ダーリン、今日はもう寝ましょう。疲れちゃったわ〕

〔うちも超疲労~。一緒に寝るんよ〕

「あっ、ちょっ、待っ……!」


 二人に手を引かれ、いつものように同じベッドに潜り込む。


 ――次の依頼はなんだろうな。


 そんなことを思っているうちに、俺は眠っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る