第61話:ある王子からの依頼を受けた

〔ほら、ダーリン。お話を聞くんでしょ? ガイコツの置物はもういいじゃない〕

「う、うむ……わかってはいるのだが」


 仕方がないので、新作のガイコツフィギュアを棚にしまう。

 楽しい時間はおしまいだ。

 新しい依頼人が来たからな。

 というか、今回の依頼人は一味違うんだが。


〔なんか王子様って感じぃ~〕


 サラサラの赤い髪に、かなり珍しいエメラルドグリーンの瞳をした美少年。

 とんでもなく育ちが良さそうだ。

 そしてその後ろには、筋肉が盛り上がりまくった男たち。

 圧がヤバい。


「で、では、まずは自己紹介をお願いできますかね」

「はい、僕はエンパイア帝国の第二王子、アフタルと申します。レイクさん、この度はお時間を割いていただきありがとうございます」


 ……マジか。

 本当に王子様なのかよ。

 これまたすごい依頼人だな。

 たしかに、王子様オーラがビシバシ出ている。

 美少年はアフタル君というのか。

 俺よりちょっとだけ年下かな。

 そんなことを思っていたら、ミウがこそっと聞いてきた。

 

〔ダーリン、エンパイア帝国ってどこ?〕

「カタライズ王国のすぐ隣にある大きな国だよ。互いに同盟を結んでいるはずだ」


 王子様が直々に来るなんて、きっと難しい依頼なんだろう。

 心してかからないとな。


「まさか、エンパイア帝国の王子様だとは思いませんでした。すみません、もっと豪華なお部屋の方が良かったですね」

「お気になさらないでください。それと、どうぞ楽にお話しください。レイクさんの方が僕より年上でしょうし」

「い、いや、そういうわけにはいかないですって」


 帝国の王子様だぞ。

 おいそれと軽口を叩いていい相手ではない。


「いえ、いいんです。その方が僕も話しやすいです。レイクさんのご活躍は、僕よりずっと素晴らしいものなんですから」

「そ。そうですか。で、では、お言葉に甘えまして、アフタル君と呼んでも……いいかな?」

「好きにお呼びください」


 なんて成熟している少年なんだ。

 俺より大人だ。

 きっと、ゾンビだとかガイコツのフィギュアには興味がないんだろうな。


「じゃあ、俺たちも自己紹介するね。こっちにいるのがミウで、そっちにいるのがクリッサだ。二人とも俺の大切な仲間だよ」

〔よろしく、ミウよ。だけど、私は仲間じゃなくてダーリンの奥さんね〕

〔クリッサってんの~、よろ~〕

「よろしくお願いします。レイクさんのお仲間ということは、お二人ともすごく強いんでしょうね」

 

 ミウたちもアフタル君と握手を交わす。

 さて、依頼を聞くかな。


〔アフタルっち~、お菓子いる~?〕


 と、思いきや、いきなりクリッサがいつものノリで話し出した。

 さ、さすがにまずい。


「こ、こら、クリッサ! 失礼だろ!」

〔アンタは早く【バトルモード】になりなさい!〕

〔えええ~、なんでよ~〕


 ミウと一緒に小声でたしなめていたら、アフタル君が笑いながら言ってきた。


「いえ、結構ですよ。どうぞ、その調子でお話ください。レイクさんたちは賑やかでいいですね」


 馴れ馴れしいクリッサを見ても、アフタル君は怒ったりしない。

 これが王子様か。

 俺もこういう余裕のある少年になりたいな。

 いや、もう無理か。


〔はい、そういうことでお菓子あげるね~〕


 クリッサがアフタル君に菓子を薦める。

 俺たちはドキドキしながら見ていた。

 頼むから失礼なことはしないでくれ。


「もしかして……レイクさんも食べているお菓子ですか?」

〔レイクっちはいつも美味しそうに食べているよ~〕


 アフタル君は神への供え物を受け取るように、丁寧に菓子を受け取る。

 と、思いきや、めちゃくちゃ大事そうに食べる。

 一口食べた瞬間、顔がぱぁぁぁと輝いた。


「なんて美味しいんだ……これで僕もレイクさんに近づけている気がします」


 俺たちはホッと一息つく。

 アフタル君が話しやすい人で良かった。

 

「それで依頼というのはなにかな?」

「はい、少し変なお願いではあるのですが……僕の兄を……第一王子を止めてほしいのです」


 アフタル君は伏し目がちに呟いた。

 キレイな顔にも暗い影が差している。

 その様子を見て、事の重大さがわかるようだった。


「何か事情があるんだね。詳しく聞かせてほしいな」

〔元気出して。ダーリンならどんなに困っていることでもすぐに解決してくれるわよ〕

〔レイクっちに任せておけば万事楽勝っしょ~〕


 俺たちがそう言うと、アフタル君も少し元気を取り戻したみたいだ。

 ちょっとだけ笑顔になった。


「兄上は幼少期より我が強いと言いますか……言葉を選ばずに言うと乱暴な性格でして。父上である国王陛下が病床に伏してから、より凶暴さが酷くなってしまったのです」

「〔なるほど……〕」


 エンパイア帝国は大きな国だ。

 想像以上に王族の権力が強いんだろう。

 

「それだけではありません。どうやら……他国との戦争を画策しているようなのです」

「えっ!? 戦争!? マジかよ」

〔ずいぶんと物騒なことを考えるお兄さんなのね〕

〔ウチ、戦争反対~〕


 エンパイア帝国は周辺国との関係や、内情も安定している国だと聞いていたけどな。

 ずいぶんと好戦的な考えの持ち主らしい。

 おまけに、エンパイア帝国はカタライズ王国のすぐ隣だ。

 互いに良好な関係のはずだが、ひとたび戦争となればどうなるかはわからない。


「兄上は第一王子であるのを良いことに、それはもうやりたい放題でして。目下の者へ怒鳴り散らしたり、少しでも気に入らないことがあったら殴りつけたり……。僕たちも心底困っていたのです」

「そうだったのか……そいつは大変だったな」

〔世の中には乱暴者が多いわねぇ〕

〔ウチも暴力反対よ~〕


 当たり前だろうが、第二王子より第一王子の方が権力が強いんだろう。

 アフタル君も逆らえないんだ。

 というか、せっかく王子に生まれたんならもっと優しく接すればいいのに。

 世の中には色んなヤツがいるんだな。


「僕たちに対する行いは目をつぶるにしても、国民たちへも同じ態度でいられるのは困るのです。国がいくら大きくても、国民たちがいてこそです。兄上は……そのことをよく理解していないのです」


 アフタル君はギュッと手を握っている。

 その顔も険しい表情だった。

 きっと使命感の強い人なんだろう。


「やっぱり平和が一番だよな。俺も本当にそう思うよ」

「ですので、レイクさん。どうか……どうか兄上を止めてください。このままでは戦争が起きてしまいます。僕は何としてもそれだけは避けたいのです」


 アフタル君は姿勢を正す。

 その目は本当に真剣そのものだ。

 将来は立派な王様になるんだろうな。


「大丈夫、俺が何とかするよ。一緒に平和を守ろう」

〔ダーリンが行けば乱暴なお兄さんも改心するはずよ〕

〔レイクっちに任せておけば万事解決マジあげぽよ~〕


 もちろん、答えは一つだ。

 平和に暮らせるのが一番だからな。


「ありがとうございます、みなさん! これで我が国も安心できます!」


 アフタル君も護衛の人たちも嬉しそうだ。 

 というわけで、俺たちはエンパイア帝国へ向かうことになった。

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