第62話:第一王子と会う
「じゃあ、さっそくエンパイア帝国に行くか」
〔どんなところなんでしょうね〕
〔ウチも楽しみ~〕
さて、と【闇の魔導書】を出そうとしたら、アフタル君に引っ張られた。
「レイクさん、こちらの馬車へどうぞ。国で一番の早馬を集めてきました。一週間もあれば帝国に着くはずです」
「ん? 馬車?」
外に出ると、豪華な馬車がズラリと並んでいた。
落ち着いた赤色に金の装飾が施されている。
そこら辺の貴族が乗る物よりすごいな。
馬だって毛並みがツヤツヤだ。
もしかしたら、俺より良い物を食ってるかもしれん。
「いや、せっかくだけど馬車だと時間がかかるから転送魔法で行こう」
「て、転送魔法ですか? ……申しありません、レイクさん。帝国まで行けるほど手練れの魔法使いたちは、兄上が全て支配していまして……連れてこれなかったのです。僕がもっと権力を持っていれば……」
アフタル君は拳を握りしめ、悔しそうな顔をしている。
「大丈夫だよ、アフタル君。転送魔法使うのは俺だからさ」
「えっ! レイクさんは転送魔法まで使えるのですか? さすがはカタライズ王国の英雄ですね」
〔すぐ着くから安心してね〕
よし、【闇の魔導書】来い!
念じた瞬間、ヴンッ! と俺の手元に魔導書が来る。
相変わらずのどす黒いオーラだ。
「ど、どこから出したんですか!? しかも、そんな禍々しいオーラを放った本を……」
「これは“呪われた即死アイテム”って言ってね。すげえ強いアイテムなんだ。使わないときは亜空間にしまっているんだよ」
「あ、亜空間……“呪われた即死アイテム”……そんな言葉初めて聞きました」
アフタル君も護衛もポカンとしている。
何はともあれ、さっさと帝国へ向かおう。
「では、みなさんも集まってください。転送魔法使いますよ」
「「は、はい」」
お付きの人たちも俺の周りに集める。
「<ダークネス・テレポート>! 行き先はエンパイア帝国の宮殿!」
一秒後、俺たちはめちゃくちゃでかい建物の前に来た。
カタライズ王国の城と同じか、少し大きいくらいだな。
シックで落ち着いた赤色の王宮だった。
窓枠とかは深い茶色で、それがまたオシャレな雰囲気だ。
「えっ!? もう着いたのですか!? しかも、呪文の詠唱すら必要ないなんて……さ、さすがカタライズ王国の英雄は格が違いますね」
「「お、おい、ここはエンパイア帝国の宮殿だよな? こ、こんな簡単に転送魔法が使えるのか……」」
アフタル君はめちゃくちゃに驚いていた。
護衛の人たちもあぜんとして佇んでいる。
馬も目玉が飛び出そうだった。
「“呪われた即死アイテム”は性能がヤバイんだよ」
〔なんといってもSSSランクだからね〕
〔そこら辺のアイテムとは格が違うって~の~〕
「SSSランクですって!?」
またもや驚きまくるアフタル君なのであった。
「ごほんっ! では、気を取り直して兄上の元に参りましょう」
「戦争なんて止めるよう説得するよ」
「お願いします、レイクさん。兄上は王の間にいます。ご案内しますのでついてきてください」
ということで、俺たちは宮殿を進んでいく。
「そういえば、アフタル君。お兄さんはなんていう名前なんだ?」
「あっ、すみません、まだお伝えしていませんでしたね。兄はプライオルという名前です」
「プライオルね」
宮殿の中はこれまた豪華極まりなかった。
よくわからんがすごそうな絵や、よくわからんがすごそうな壺とかが置いてある。
俺にはまったく良さがわからなかっただ、こういうのを芸術というんだろう。
〔カタライズ王国のお城もすごかったけど、ここもすごいわね〕
〔見たこともない物がいっぱい~〕
「俺は骸骨とか悪魔の方が好きだが……というか、ドラゴンの飾りが多いんだな」
天井にはドラゴンが飛んでいる絵が描かれていたり、竜の置物が飾ってあったりもした。
やたらと竜関連の物が多いのだ。
もしかしたら、エンパイア帝国では特別な存在なのかもしれないな。
「代々、僕の一族は竜にまつわるスキルを得ることが多いのです。そのため、僕たちは竜を神聖視しています。兄も僕もまだスキルは出ていませんが」
「竜にまつわるスキルねぇ。カッコよさそうでいいな」
〔ドラゴンの技が使えるとかかしら。強そうじゃないの〕
頭の中で想像を膨らませる。
剣に竜なる力を注ぎ込み、どんな敵も一撃で葬り去る。
衝撃波でモンスターが木っ端みじんになる光景が目に浮かんだ。
うん、カッコいいな。
〔ウチ、かぁいいドラゴンっちがほしい~。毎日かぁいがってあげるんよ~〕
〔あんたにスキルが出るわけないでしょ〕
俺たちが話していると、アフタル君もちょっと笑顔になってくれた。
やがて、巨大な扉の前に着いた。
両脇には衛兵が立っている。
ここが王の間っぽい。
「では、レイクさんたちは僕に続いて入ってきてください。まずは僕から兄上に話しますから」
「ああ、わかった」
アフタル君はギイイ……と扉を開ける。
歩いてきた廊下も豪華だったが、王の間は一段と豪勢だった。
天井は高く、大きなシャンデリアが吊り下がっている。
壁にはドラゴンの頭の剥製が飾られていた。
こういう飾りがあるのも、国の威厳を示すためだろう。
そして、奥の玉座に座っているのが……。
「アフタルてめえ、今までどこ行ってやがった」
アフタル君より濃い赤髪に緑の瞳。
体もがっしりしている。
その表情から全然良いヤツではないことがよくわかった。
性格の悪さがにじみ出ているぞ。
こいつがプライオルで間違いないな。
だが、それよりも俺たちは男の後ろにいる存在に目が釘付けになった。
〔ダーリン、あれ〕
「マジか」
「そ、そんな! ……どうして、グラスコーチ・ドラゴンがここに!?」
深い緑色の鱗に覆われた巨大なドラゴンが床に伏せている。
グラスコーチ・ドラゴン。
見渡す限りの草原を簡単に焼き払うほど、強力なブレスを放つドラゴン。
ぶっちぎりでSランクモンスターだ。
その目は充血していて息も荒い。
俺たちを敵だと認識しているのは間違いないな。
「ヒャハハハハ! どうしてって、俺がテイムしたに決まってんだろぉ? <ドラゴンテイマー>のスキルでなぁ!」
プライオルは心底楽しそうに高笑いしている。
なんかこういうヤツが多いな。
「ド、<ドラゴンテイマー>!? ですが、兄上はスキルを持っていなかったはず……!」
「だから、お前が姿を消している間に授かったんだよ。というか、アフタルよぉ。俺にはわかるぜ? お前の浅はかな考えがなぁ」
「な、なにをっ……!」
プライオルはククク……と笑いながら、アフタル君を指さす。
「お前、俺を国から追い出したいんだろ? わかってんだよ。連れてきたそいつに殺させようってかぁ? はっ、身分の低いヤツが考えることは怖いねぇ」
「ち、違います、兄上! 僕はただ戦争を止めてほしいだけなんです! 父上も国民もそのようなことは望んでいません!」
「うるせえよ、出来損ないのクソ弟が。見てろ、今からそいつをぶっ飛ばしてやるからな」
また、この流れか……。
と、そこで、ミウとクリッサがこっそり話かけてきた。
〔なんか、想像通りって感じね〕
〔レイクっち~、手加減無用だよ~〕
アフタル君も申し訳なさそうな顔で俯いている。
「すみません、レイクさん。今、この国では兄上に逆らえる人はいないんです。説得できれば良かったんですが……」
「気にしないで、アフタル君のせいじゃないよ」
「おい、なにコソコソ話してやがる。宮殿の前にでかい広場があるだろ? そこで、戦ってもらおうか。俺がテイムしたSランクモンスター、グラスコーチ・ドラゴンとなぁ」
「ああ、いいよ。勝負しようか」
ということで、俺たちは大広場へ向かっていく。
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