第59話:教会の特等司教に任命される

「レイク・アスカーブさん、あなたを“神聖霊教会”の特等司教に任命いたします!」

「あ、ありがとうございます」

「「わあああ! レイクさーん! おめでとうございまーす!」」


 その後、教会では宴が開かれていた。

 とは言っても、豪華ではなく小さな感謝祭みたいな感じだ。


〔おめでとう、ダーリン!〕

〔マジレイクっち、最高だかんね~!〕


 ミウやクリッサも嬉しそうにパチパチと拍手している。

 その隣では、ラミーナちゃんも小さな手を振っていた。

 イノセンティアさんに気になっていたことを恐る恐る聞く。


「特等司教ってどんなことをするんですか?」

「私とほぼ同じ権限を持っていますが、特に教会の仕事はありませんよ。レイクさんに“神聖霊教会”を救っていただいた証のようなものです」

「あっ、そうなんですか」


 別に仕事はないと言われてホッとした。

 ラミーナちゃんみたいに自分を律せる自信なんてまるでないからな。


「それでは、レイクさん。これをお受け取りください。特等司教の証である天使の像です。レイクさんへの感謝の気持ちを込めて、みんなで作りました」

「ありがとうございます。これはまた立派な物を……」

 

 イノセンティアさんが小ぶりな像をくれた。

 羽が生えた天使の彫刻だ。

 小さいけどずっしりと重い。

 セインティーナさんのときは首飾りだったけど、あれよりもっと大きな物だ。

 白をベースとしたデザインに、金色のアクセントが美しい。

 これも大切に飾っておこう。


「その像には教会の魔力を練り込んであります。この先も、レイクさんを助けてくれるでしょう」

「そこまでしていただいて、本当にありがとうございます。でも、教会の魔力ってとても貴重なものだと聞いていますがいいんですか?」

「レイクさんには命を救われたのですから、この程度じゃ足りないくらいですよ」


 そんな俺たちを見て、教会はさらに盛り上がる。


「じゃあ、そろそろ俺たちは失礼します。あまり長居しても良くないんで」

「レイクさん、もう少しゆっくりしていってもよろしいんですよ? 何もこんなに早くお戻りにならなくても」

「それは大変嬉しいんですが、ちょっと依頼が溜まっていましてね。こうしている間にも何人の依頼が来ているのか」


 なんかまた依頼人がぞろぞろ来ている気がする。

 もちろん、頼ってくれるのはありがたいけどな。

 そして、人だかりの中からラミーナちゃんが出てきた。

 ぺこりと丁寧にお辞儀をする。


「レイクさん、この度は本当にありがとうございました。お礼のしようもございません」

「いやいや、ラミーナちゃんが教会の危機を知らせに来てくれたおかげだよ」


 ラミーナちゃんは教会の規則を破ってしまったわけだが、むしろ多大な評価を受けていた。

 階級も見習いから一般修道士に昇格していた。

 なんでも史上最年少だそうだ。

 名誉の証として、彼女は太陽マークの小さなピンバッジをつけていた。


「私は今回のことをずっと忘れることはないと思います。レイクさんに出会えて本当に良かったです」

「俺たちもラミーナちゃんと会えてよかったよ。これからも修行頑張ってね」


 ミウとクリッサも、ラミーナちゃんの小さい手を握っていた。


〔あなたなら、きっとセインティーナさんみたいな立派な聖女さんになれるわ〕

〔今度来たとき、また飴ちゃんあげるかんね~〕

「私は絶対にレイクさんのような人徳にあふれた人間になります」


 ラミーナちゃんの表情も、さらに大人っぽくなってきた気がする。

 彼女ならこの先もきっと大丈夫だろう。

 さて、そろそろ頃合いだな。


「では、俺たちはそろそろ家に帰ります」

「そうですか、寂しいですね。でも、レイクさんの助けを求めている人も大勢いるんでしょう。せめて、出口までお送りします」


 修道士たちは、教会の入り口まで見送ってくれた。

 みんな名残惜しそうな顔をしている。


「「レイクさん、お元気で! ぜひまた遊びに来てくださいね!」」

「ありがとうございます、みなさん」

〔また来るわね〕

〔マジ寂しいんよ~〕

「<ダークネス・テレポート>! 行き先はグランドビール!」


 一秒後、俺たちはグランドビールのギルドに着いた。

 いつものように、セレンさんのところに行く。

 その顔を見るだけで肩の力が抜ける。

 それにしても、この安心感はなんだろう。


「セレンさん、ただいま帰りました」

〔ただいま、ダーリンは今回もすごかったわよ〕

〔レイクっち、マジやば~い〕

「おかえりなさい、みなさん。よかった、今回も怪我とかはないみたいですね」

「ええ、おかげさまでピンピンしていますよ」 

 

 セレンさんは無事な俺たちを見てホッとしている。

 まったく、セレンさんは心配性だ。

 でも、心配してくれる人がいるってありがたいことだよな。

 みんなで話していると、カウンターの奥からマギスドールさんが出てきた。


「お疲れ、レイク。その顔を見ると依頼は上手くいったようだな」

「マギスドールさん、お疲れ様です。聞いてください、今回の敵はセルフィッシュの父親だったんですよ」

「「ええ!?」」


 俺が言うとマギスドールさんもセレンさんも驚きまくっていた。

 そのまま、“神聖霊教会”での出来事を話す。


「……ということがありまして、結局みんなは無事だったんですけどね」

「そうだったのか……まさか、あいつの父親が暗躍していたなんてな」

「そんな強敵をあっさり倒してしまうなんて、レイクさんは本当に強い冒険者になりましたね」

「いやいや、それほどでもないですよ」


 <ワープ>持ちは厄介だったが、倒せたのも呪われた即死アイテムのおかげだ。


「王様もレイクに非常に感謝していた。いずれきちんとした宴を開いてもてなしたいそうだ」

「え? 宴ですか? どうして……あ、そうか、ノーザンシティのギルドを救ったからですね」

「それもそうなんだが、この前三大魔卿のグリワ・メイモンを倒してくれたじゃないか」

「あぁ~」

 

 そういえばそんなこともあった。

 三大魔卿って言っても、なんか印象が薄いんだよな。


〔ねぇ、ダーリン。今回のことも伝えた方がいいんじゃない?〕

「ん? 他に何かあったっけ?」


 俺はもうゾンビのフィギュアで頭がいっぱいだった。

 早く帰って遊びたい。

 いや、待てよ?

 三大魔卿といえば……そうだ、メフィ・ステシアだ。


「ところで、マギスドールさん。今回も三大魔卿が関わっていました。メフィ・ステシアがセルフィッシュ父を利用して、“神聖霊教会”の修道士たちを誘拐させていたんです」

「なに!? 三大魔卿が!? それはまずいな……すぐにでも対策を練らないと……」

「それで、案の定俺たちを攻撃してきたんで倒しときました」

「「ええ!?」」


 倒したと言った瞬間、ギルドは静まり返った。

 シーン……と静寂が支配する。


「あ、あの、マギスドールさん? セレンさん? ど、どうしました?」


 二人は唖然とした様子でこっちを見ている。

 次の瞬間、すごい勢いで俺に掴みかかってきた。


「メフィ・ステシアを倒したって本当か、レイク!? お前はどこまで強くなるんだ!」

「一体倒すだけで伝説級の功績なのに、二体もなんてすごすぎます! しかも、この短期間で!」

「あ、いや、ちょっ」


 二人が大騒ぎするので、他の冒険者たちも集まってきた。


「また三大魔卿を倒しちまったのかよ! そんなヤツ人類で初めてじゃないか!?」

「いったいどうやったらそこまで強くなれるんだ!? 少しで良いからお前の強さをわけてくれ!」

「お前みたいな男と同じギルドにいられるだけで誇りを感じるよ!」


 あっという間に、ギルド中が祭りみたいになってしまった。

 小声でミウとクリッサに話しかける。


「こ、困ったな、またか」

〔まぁいいじゃない、みんなダーリンが好きなのよ〕

〔レイクっちが褒められて、ウチもマジアゲぽよ~〕


 マギスドールさんが嬉しそうに、大きな声で宣言する。


「今日は宴だー! お前ら、すぐに飯と酒を用意しろ! 王様にも手紙を出すんだ!」


 ということで、またもやギルドでどんちゃん騒ぎが始まるのだった。



□□□



 結局、俺たちが【呪いの館】に帰ってきたのは日付が変わったくらいだった。

 ガチャリと玄関を開ける。

 特に変わりはなさそうだな。

 色んなところを旅するのも楽しいけど、やっぱり自分の家が一番落ち着く。

 周りのイカつい武器やらお気に入りのコレクションやらを眺めていると心が安らぐのだ。


「教会の人たちはみんな良い人で良かったな」

〔ええ、また会いに行きたいわ〕

〔ラミーナちゃん、マジかぁいかったね~〕


 天使の像をコレクション棚に置いて、真っ先にゾンビのフィギュアを確認する。

 うっすらと埃が積もっていた。


「やっぱり、埃がついているな。さすがにしょうがないか……」


 とは言え、毎日掃除をするのはさすがに手間がかかる。

 ただでさえ屋敷の掃除だけで大変なのに。

 ケースに入れるのが定番だろうが、できれば素のまま飾っておきたい。

 どうすればいい。


〔ダーリン、三大魔卿を倒したときより真剣な顔をしているわ〕

〔マジ、レイクっちはこういうの好きよね~〕


 俺にとっては重大な問題なのだ。


「あっ、そうだ。闇魔法でコーティングできないかな。きっとすごい魔法があるぞ」

〔それもいいけど、今日はもう寝ましょう〕

〔マジ眠いし~〕

「ちょ、待っ」


 【闇の魔導書】を出そうとしたら、ミウとクリッサに引っ張られた。

 そのまま寝室に連行される。

 仕方がない、今日はもう寝るか。

 というわけで、ベッドに横になるわけだが……。


「あの~、やっぱりまだ別室の方がいいんじゃないかな」

〔今さら何言っているのよ〕

〔レイクっちとミウっちと一緒がいい~〕


 彼女らが部屋を出て行くわけもなく、ぎゅうぎゅうになってベッドに横たわる。

 もしかして、ずっとこの調子で寝ることになるんだろうか。

 別に嫌なわけではない。

 ただ、ちょっと不健全な気がするのだ。

 でも、まぁ、また今度話せばいいか。

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