第57話:三大魔卿に圧勝する2

『さて、貴様がレイク・アスカーブか。魔界で見ていた通り、まぬけな面をしているな』


 いきなり、俺をまぬけな面とか言ってきた。

 ったく、こいつも失礼なヤツだな。


〔は? なにアイツ。ダーリンに向かって舐めた口を聞いてくれるわね〕

〔殺しましょうか?〕

「ちょ、ちょっと待ってね。もしかしたら、魔族に関する情報が手に入るかもしれないからさ」


 ミウやクリッサにかかったら即死は免れないだろう。

 とは言え、こんなに三大魔卿が頻繁に出てくるなんて滅多にないはずだ。

 今後、また別のヤツに襲われる可能性もある。

 できれば何かしらの情報をゲットしたいところだが……。


「ハハハハハ! メフィ・ステシア様が出てきたからには、貴様たちはもうおしまいだ! 今さら後悔してももう遅いぞ!」


 そして、三大魔卿が出てきた瞬間、マウントはめっちゃ強気になった。

 しきりに俺たちを挑発しまくっている。

 と、思いきや、メフィ・ステシアの指先から小さな稲妻が出てマウントを直撃する。


『黙れ、役立たずめが!』

「がふっ……な、なにを!」


 マウントはあっけなく気を失ってしまった。

 さて、さすがに戦闘態勢に入った方がいいだろうな。

 とりあえず【怨念の鎧】と【悪霊の剣】来い!

 俺は瞬時に装備する。


『ふむ、それが呪われた即死アイテムとやらか。恐ろしく禍々しいオーラを持っているな』

「そうだ。最高のデザインだろう」

『それが手に入れば、私に歯向かえる者はこの世に存在しないことになる。まさしく、私が待ち望んでいた最強の力だ』

「……なに? お前は呪われた即死アイテムが欲しいのか?」

 

 メフィ・ステシアは意味深な笑みを浮かべていた。

 呪われた即死アイテムを欲しがる魔族がいるとは。

 まぁ、それもそうか。

 何といっても最高にカッコいいデザインだからな。

 その気持ちは痛いほどよくわかる。


『ああ、そうだ。貴様から奪って私の物にしてやる。その力を使って、魔界や人間界……さらには天界まで支配するのだ』

「世界の支配ねぇ……」


 なんか、魔族ってみんなこういう感じなのか?

 いったい世界を支配してどうしたいのだ。

 わからん。

 人間とか魔族にカッコいいアイテムを造らせたいのだろうか。

 すると、メフィ・ステシアはマウントを空中に浮かべた。


『さあ、レイク・アスカーブよ。こいつを返して欲しければ、私の世界に来てもらおうか』

「私の世界?」

『なに、来ればわかる。<ワールド・デポーテーション>!』


 メフィ・ステシアが叫んだ瞬間、俺は荒廃した大地に来ていた。

 地面はひび割れ、草がチラホラ生えている。

 広い空は毒々しい赤紫色だった。


「ん? ここはどこだ? さっきまで洞窟にいたのに……」

『ここは私が造った世界だ。魔界や人間界に比べたらまだまだ狭いがな』

「なるほど……」


 たしかに、雰囲気が人間界とはまるで違う。

 まだ行ったことはないけど、魔界もこんな感じなのかな。

 あれ? そういえば……。


「異界を行き来するのって、特別なゲートとかが必要なんじゃないのか?」


 ついさっきも、転移門を破壊したばかりだ。

 異界同士をこんな簡単に移動できるのだろうか。


『私は魔力の扱いに長けているからな。単独であれば異世界を自由に往来できるのだ。と言っても、そう頻繁には移動できないが。そして、このことは魔王様……いや、魔王も知らん』

「ふーん」

『私は三大魔卿などに収まるような器ではない! 私は絶対魔王になるのだ!』


 メフィ・ステシアは手を広げて喜んでいる。

 何がそんなに嬉しいんだ。


『さて、呪われた即死アイテムを私に渡せば貴様らの命だけは見逃してやろう』

「絶対渡さないけど、どうしてそんなに欲しいんだ。自分で修行を積めばいいだろ」

『魔王になるには力がいる! 魔王は無能だが、私ではまだ勝てない。だから、貴様の呪われた即死アイテムを奪って新たな力を手に入れるのだ!』


 さっきからやたらと勝ち誇っているぞ。

 どうやら、何か仕掛けがありそうだ。


「いや、盛り上がっているところ悪いんだが、呪われた即死アイテムは俺以外が持つと即死してだな……」

『何も心配はいらない。私はあらゆる魔法に精通しているからな。私はずっと機を伺っていた。呪われた即死アイテムを手に入れ次第、この世界を拠点に人間界と魔界とに侵攻を始めるのだ』

「は、はぁ……」

『そして、貴様には悪い知らせがある。この世界では全てが私の思い通りだ! 私が願った通りに運命が決まる! これがどういうことがわかるか?』


 メフィ・ステシアはめちゃくちゃにすごんでくる。

 もう勝利を確信しているようだった。


「す、すまん、わからん」

『私が死ねと言ったら貴様は死ぬのだ! 死ね、レイク・アスカーブ!』


 その瞬間、俺の体には何も起こらなかった。

 痛みもないし意識を失うような感覚もない。

 気まずい時間が流れる。


『死ね!』

 

 何も起こらない。


『ま、まぁ、いいだろう。これくらいで死んでもらったら楽しくないからな』

「もうやめとけって」


 メフィ・ステシアは強がっていたが、明らかに動揺している。


「それより、魔王とか魔族の情報を教えてもらおうか。人間界侵略の計画でも動いているのか?」

『うるさい! 力ずくで奪い取ってやるわ! <カオス・デッドライフ>!』


 メフィ・ステシアが叫ぶと、周りの地面から気持ち悪い骸骨がボコボコ出てきた。

 さすがに三大魔卿クラスとなると、無詠唱で魔法が使えるようだ。

 そして、骸骨たちは剣とか槍を持っている。

 なかなか良いデザインじゃないか。

 しかし、肉の破片とかが中途半端にくっついているせいで台無しだ。


『その骸骨は黄泉の国から召喚した死者たちだ。そやつらが持つ武器は魔力でできた非実体剣だ。鎧など簡単に貫通するぞ』


 骸骨が持っている剣や槍は、独特の黒いオーラをまとっている。

 なるほど、たしかに特殊な装備らしい。

 だが、呪われた即死アイテムの禍々しさに比べると赤ちゃんみたいだ。


「どうせなら、もうちょっとカッコよくした方がいいと思うんだが」

『黙れ! 私の力はまだまだこんなものではない! <カオス・ギガパラリティス>!』


 メフィ・ステシアが叫んだ瞬間、俺の体を黒い霧が覆った。

 体が動かなくなる。

 金縛りにでもあったかのようだ。

 骸骨はじりじりと近づいてくる。


『ハハハハハ! その武器は触れただけで肉体を腐らせるぞ! 今ならまだ、呪われた即死アイテムを渡せば見逃してやる!』

「それは不可能極まりない注文だな」

『ふんっ……まあいい! 貴様を殺して奪い取る! さあ、蘇りし死者たちよ! レイク・アスカーブの体を切り刻め!』


 四方八方から骸骨が切りかかってきた。

 が、俺に武器が当たるや否や、骸骨たちはすごい勢いで朽ち果てていく。


「おおお、さすがは666倍の反射だ」

『なっ……にっ……! 効かないだと……!』


 いくら斬られてもまったく傷つかない。

 もちろん、俺の体が腐るようなこともなかった。

 きっと魔法攻撃の一種だったんだろうな。

 まぁ、身体能力が666倍に強化された俺の体が傷つくとも思えないが。


――というか、本当に動けないのか? ちょっと試しに、あっ……!


 そして、体が動かなかったのは気のせいで、少し力を込めたら普通に動いた。


「なんだ、動くじゃん」

『なっ……!?』


 歩いて近づいているだけなのに、メフィ・ステシアはめちゃくちゃビビっている。


「さあ、観念するんだな」

『ま、待て! 少しでも動いたらこいつの命はないぞ!』


 いきなり、メフィ・ステシアはマウントの首元にナイフを突きつけた。


「人質を取るなんて卑怯だろうが。それでも三大魔卿かよ……」

『こうなったら手段など選んでなれるか!』


 やがて、マウントが目を覚ました。

 状況を確認すると、大慌てで助けを求めてくる。


「お、おい、そこのお前! ぼんやりしてないで私を助けろ!」

『暴れるな! 今すぐ殺してもいいんだぞ!』


 マウントはギャアギャアと騒いでいる。

 【怨念の鎧】を着ているから、俺だとわからないらしい。

 あんなヤツでも一応人間だから、とりあえず助けることにした。


「マウントを離せ」

『呪われた即死アイテムと交換だ』

「いや、交換って言ったってさ……」

 

 もういいや、思いっきりダッシュして適当に倒すか。

 ふと、【悪霊の剣】を見ると、ニチャアァァ……と笑っている。

 ……たぶん合図だ。


『早くしろ。この男が殺されたいのか?』

「おい、何をやっている! さっさと私を助けろと言っているんだ!」

「じゃあ、この【悪霊の剣】を……あっ」

『ふん、さっさと渡せ』


 【悪霊の剣】を差し出したら、ふわふわとメフィ・ステシアの手元に飛んでいった。

 

「な、なぁ、やっぱりやめた方がいいんじゃないか?」

『往生際が悪いぞ、レイク・アスカーブ! ハハハ、この剣も嬉しそうに笑っているではないか! どうやら、私を新しい主人と認めたようだな!』


 いや、それはたぶん違うんだ。

 メフィ・ステシアは嬉しそうに柄に手をかける……。


「い、一応、俺は止めたからな」

『よし、これで私は世界を支配ぃぃぎゃぁあああ!』


 その直後、メフィ・ステシアの体は真っ二つに引き裂かれた。

 呪いを直に喰らっちまったらしい。

 だから言ったのに。

 と、そこで世界がグニャグニャしてきて、気づいたら俺たちは“ミリティスの洞窟”にいた。

 マウントもちゃっかり異界から戻ってきたようだ。


〔ダーリン、おかえり!〕

〔マスター、ご無事で!〕

「「レ、レイクさん! 大丈夫でしたか!?」」


 ミウやクリッサ、修道士たちが駆け寄ってくる。

 すぐそばには、メフィ・ステシアの死体が転がっていた。

 やれやれだな、まったく。

 と、空中にはなぜか俺の映像が映し出されていた。


「え? なんだこれ」

〔クリッサがダーリンの戦いを見せてくれていたのよ。修道士のみんなもダーリンの勇姿を目に刻んでいたわ〕

〔マスターの魔力をたどれば、どんな世界にいようと状況を把握することができます〕

「マジかよ……ヤベぇな」


 つまり、やろうと思えば俺のことを常に監視できるってことだ。

 そういうと、ほんとに監視されそうなので黙っておいた。


「「レイクさん、本当にありがとうございます! あなたのおかげで我々の命は救われました!」」


 イノセンティアさんを筆頭に、修道士たちからお礼を言われまくる。

 ミウやクリッサも嬉しそうで何よりだ。

 というわけで、2体目の三大魔卿も簡単に倒しちまった。

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