第56話:逆恨みしないでくれ
「え、えーっと、あんたは誰ですかね?」
念のため尋ねることとする。
どことなくあのやらかし勇者に似ているが……。
いや、まぁ、あり得ないだろ。
きっとただの人違いだ。
「私はマウント・エゴーだ! カタライズ王国の偉大な三大名家、エゴー公爵家のな!」
「……ということは、セルフィッシュのお父さんってことで……?」
「そうだ! 貴様のせいで息子は投獄され、爵位が没収されたんだぞ! どうしてくれる!」
「い、いや、逆恨みしないでくれよ」
おいおいおい、マジか。
なんか見覚えあるなぁとは思ったが、まさか本当にあいつの父親とは。
というか、なんでこんなところにいるんだ?
〔クリッサ。どうして、あのオジサンがいることを教えてくれなかったの?〕
〔いえ、私が索敵したときは確かにあの男はいませんでした。おそらく、<ワープ>の類のスキルや魔法を使えるのでしょう〕
「〔はぁ~、なるほど〕」
クリッサが<ワープ>と言うと、マウントはドキッとしていた。
「ど、どうやら、勘の良いヤツがいるようだ。そうだ、私は<ワープ>のスキルを有している。だから、特殊な結界で囲まれたこの教会にも自由自在に侵入できたのさ」
「お前は“神聖霊教会”の人たちを誘拐していたそうだな。この門を作らせるためか?」
「もちろん、その通りだ。教会の連中は結界の生成に長けた人間が多いからな。こいつらの能力を応用させた」
まったく、親子揃って迷惑極まりない。
どうしてそう悪い考えを持ってしまうのだ。
「魔界に繋がる転移門らしいが、誰に命じられたんだ? 魔族か?」
俺は後ろにある門を指しながら聞く。
魔族とこの男が関わっていることはまず間違いないはずだ。
「すんなりと教えるはずがないだろうが。ククク、私に勝ったら教えてやるとでも言っておこう。言っておくが、私の<ワープ>は強いぞ!」
そう言うと、マウントはヒュンッ! ヒュンッ! と姿を現しては消えだした。
<ワープ>のスキルを使っているのだ。
「「くっ……あの能力のせいで私たちは連れ去られたのです」」
イノセンティアさんたちは悔しそうだ。
たしかに、<ワープ>は厄介だな。
どうしようか。
そうだ、闇魔法で未来を予知したらどうだ?
いくら<ワープ>で瞬間移動できても、どこに出てくるか分かれば簡単に対策できる。
よし、【闇の魔導書】来い!
念じると一瞬で転送されてきた。
自然にページがめくられる。
<ダークネス・プリディクション>
ランク:SSS
能力:未来を予知する
これだ!
「<ダークネス・プリディクション>! 対象はマウント・エゴー!」
その瞬間、マウントの未来が手に取るようにわかった。
2回姿を現した後、俺の背後に出てくるらしい。
「そこだ! レイクパンチ!」
「う゛っ……!」
2回数えて後ろを振り向く。
予知通りマウントが出てきたので、加減しつつ腹を殴った。
今度は中指の先を角みたいにとんがらせておいたから威力は倍増だ。
マウントは吹っ飛ばされて壁に激突した。
「「す、すごい……! あの強力な<ワープ>相手に無傷で倒してしまうなんて……!」」
〔さすが、ダーリン! 未来すらわかってしまうのね〕
〔おみごとでございます、マスター〕
みんなが褒め称える中、マウントに歩み寄る。
「ご……がっ……どうして……?」
「未来を予知したからな。どこから出てくるかわかっていたというわけだ」
「あ、あり得ん……そんなことが……」
マウントは息が絶え絶えになりつつも、信じようとはしていないようだった。
「さあ、誰に命じられたのか教えてもらおうか」
「わ、私はまだ……負けていない……! ゴホっ……」
「ふざけたことは言ってないで降参してくれ」
マウントは腹を抱えてうずくまっている。
誰がどう見ても、これ以上戦うのは不可能だ。
〔ダーリン、まずはこの門を壊しましょう。私がやってもいい?〕
「うん、いいよ」
ミウはスタスタと門の前に歩いていく。
そういえば、ミウの攻撃を見るのは久しぶりな気がするな。
マウントは見下したように高笑いしていた。
「はっ、はははは。こんな小娘に何ができるというのだ。その門は並みの攻撃じゃ傷一つつかな……」
〔ふうううう……〕
直後、転移門はどす黒い炎に包まれた。
煙すら出さずに、あっという間に燃え尽きてしまった。
「…………は? どういうことだ……も、燃えた? そ、そんな、それでは私はもう……」
マウントは目が点になっている。
SSSランクなんて見たことも聞いたことも無かったんだろう。
呆然として魂が抜けてしまったかのようだ。
「おおお、さすがはミウだ。一瞬で壊しちゃったぞ。というか、消えてなくなったな」
〔おみごとでございます〕
「「や、やったー! これで魔界と繋がることはなくなりました!」」
教会の人たちも嬉しそうに手を取り合って喜んでいる。
これで魔族がこの世界にやってくることはなくなった。
良かった良かった、と思ったときだ。
突然、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
「な、なんだ? なにかおかしいぞ」
〔みなさんは私たちの後ろに隠れて!〕
〔マスター、お気をつけください。他の魔族とは明らかに違う反応です〕
ぬるりと何者かがでてきた。
魔族にしては小型だけど、やけに大きな角が異様な雰囲気を醸し出している。
こいつは並みの魔族ではない。
イノセンティアさんたちが息を呑む音が聞こえてくる。
「「こ、これは、まさか……メ、メフィ・ステシア……!?」」
三大魔卿のメフィ・ステシアが姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます