第54話:神聖霊教会

「さてと……じゃあさっそく、“神聖霊教会”に向かうとするかな」

〔もうこんなにダーリンの依頼を待っている人が来ているわね〕


 ギルドの部屋から出ると、相変わらず依頼人がわんさか集まっていた。

 ラミーナちゃんを羨ましそうに見ている。


「レイクさんはいつもこんなにたくさんの依頼をこなしているんですか? さすがはカタライズ王国の英雄ですね」


 ラミーナちゃんは感心した様子でいた。

 幼い子どもなのに俺より大人びて見える。

 さっきまでゾンビのフィギュアをいじっていたのが恥ずかしくなってきた。


「よ、よし。さっさと転送魔法で向かうとするか」

「はい、お願いします。レイクさん」


 さらりと言ってもラミーナちゃんは驚いたりしない。

 本当に肝が据わっている子どもだ。


〔ラミっちは大人っぽい子だね~、かぁ~い~〕

「レイクさんはカタライズ王国の英雄ですから。何があっても驚きません」


 クリッサがよしよしと撫でまくっても表情一つ変えない。

 何となくわかっていたが、精神的にとても大人な幼女らしい。


〔ダーリン、いきなり教会の中に入るのは危険な気がするわ。慎重に行動した方がいいかも〕

「そうだな。何があるかわからんから教会の入り口に行こう。<ダークネス・テレポート>! 行き先は“神聖霊教会”の入り口!」


 一秒後、俺たちは森の中に着いた。

 目の前には岩壁があり巨大な扉が埋め込まれていた。

 何やら空洞の入り口を塞いでいるような感じだ。 

 

「こんな一瞬で着いてしまうんですか。カタライズ王国の英雄はできることが規格外ですね。さてレイクさん、この扉の向こうに“神聖霊教会”があります」

「へぇ~、山の中にあるんだ」

「モンスターや魔族の襲撃を万が一にも防ぐため、洞窟を利用して造られたのです」


 扉にはうっすらと目立たないように、しかし強固な結界が張られていた。

 近寄って目を凝らさないと見えないが、Sランクなのは間違いない。


「この結界は通り抜けるのが難しそうだな」

〔魔族たちも苦労しそうね〕

〔きっと、合言葉とかあるんよね~?〕

「合言葉はありませんが、この扉を開けるには特殊な魔力が必要なのです」

「〔特殊な魔力?〕」


 俺たちが聞き返すと、ラミーナちゃんは丁寧に教えてくれた。


「“神聖霊教会”では洗礼を受けるとき、教会で錬成されている魔力の一部をいただきます。私の中にある教会の魔力と扉の魔力が合致することで、結界が解除され扉が開くのです」

「そんな複雑な仕掛けが……」

〔要するに、鍵と鍵穴の関係みたいということね〕

「ミウさんのおっしゃる通りです。そこで、レイクさん。山全体にはモンスターや魔族を弾く結界が張られていますが、念のため周囲に敵がいないか確認いただけますか?」


 確かに、ラミーナちゃんの言う通りだな。

 この異常事態では警戒しすぎることはない。


「よし、じゃあさっそく【闇の魔導書】で……」

〔レイクっち~、ウチが調べてあげるよ~〕

「え? いや、俺がやる……」

〔【バトルモード】起動。索敵開始〕


 と、言おうとしたら、【バトルモード】になっちゃった。

 クリッサの右目がキュインキュインしたかと思うと、すぐに元に戻った。


〔“オーヴェスト山”の中、周囲には敵の姿は見られません。安全は保たれていると考えられます……【バトルモード】終了……通常モードに戻ります〕

「な、なるほど。ということで、大丈夫みたいだよ、ラミーナちゃん」

「ありがとうございます。それでは、扉を開きます」


 そう言いながら、ラミーナちゃんは扉に手をつけた。

 目を閉じて魔力を高めているようだ。

 彼女の体が黄色いオーラをまとっていく。


「おお、これが教会の魔力なんだ」

〔見ているだけで心が落ち着くわ〕

〔マジキレ~〕


 やがて、結界が消えた。

 ラミーナちゃんがゴゴゴ……と扉を押し開ける。


「それでは、“神聖霊教会”にご案内いたします」


 いよいよ、教会の中に入る。

 あのセインティーナさんがいた由緒ある教会だ。

 緊張してきたぞ。


「し、失礼しまーす」

〔こんにちは~〕

〔よろぴく~〕


 意外なことに教会は木造だった。

 高い天井はアーチ状で、広い空間をさらに大きく見せる。

 両脇には長椅子がズラリと並んでいて、正面には大きな祭壇があった。

 奥の壁にはステンドグラスがはまっている。

 不思議なことに、光は差し込んでいないはずなのにぼんやりと光っていた。


「「あ、あなたたちは誰!?」」


 中に入った途端、修道女や修道士らしき人たちがいっせいに俺たちを見た。

 見たところ、ほとんど大人がいない。

 ラミーナちゃんみたいな子どもや、若い少年少女ばっかりだ。


「皆さん、大変ご心配をおかけしてしまいました」

「「ラミーナ!?」」


 ラミーナちゃんが前に出ると、みんないっせいに駆け寄ってきた。


「どこ行っていたの!? 探してもいないから、みんな心配していたんだよ!」

「ラミーナまでいなくなっちゃったら、私はどうしようかと思ってた!」

「無事なんだよね!? 怪我はない!?」


 やっぱり、教会の人たちも心配だったんだろう。

 状況も状況だが、こんな小さな子が一人で出て行ってしまったんだもんな。


「黙っていなくなってしまい申し訳ありませんでした。カタライズ王国からレイク・アスカーブさんをお呼びするため、教会から出て行ったのです。現状が把握できない以上、誰にも言えませんでした」

「「え? レ、レイク・アスカーブさん? あの英雄の……」」


 みんなポカンとした顔で俺を見ている。

  

「レイクさん、彼らは教会の見習いたちです。少しでも実力のある人たちは、みんないなくなってしまいました」

「なるほど、そうだったのか……初めまして、俺がレイクです」

〔私はミウと言います〕

〔ウチはクリッサ~って~の~、よろ~〕


 名乗るや否や、見習いたちはダダダダッと俺たちの周りに集まってきた。


「「お願いします、修道長たちを見つけてください! どこに行ってしまわれたのか、誰にもわからないのです!」」


 みんな、必死にお願いしている。


「大丈夫、俺たちが必ず見つけだすよ」


 ラミーナちゃん、ひいては“神聖霊教会”のみんなのために、俺はどんなことでもするつもりだった。

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