第53話:ある修道女からの依頼を受けた
〔ほら、ダーリン。ゾンビのフィギュアは置いといて依頼を聞かないと〕
「あ、ああ、そうだったな」
名残惜しくて仕方ないが、ゾンビの人形を棚にしまう。
僅かな隙間を縫って、コレクションを買い集めていた。
例のあの店だ。
広告を見て以来、ずっと入荷を待ち望んでいた。
だが、ようやく買えたのにまだ少ししか遊べていない。
ポージングを考えていたら、次の依頼人が来てしまったのだ。
「じゃ、じゃあ、自己紹介してくれるかな」
「はい。私は“神聖霊教会”の見習いシスター、ラミーナです」
何しろ、連日のように新しい依頼人がやってくるからな。
どんどんこなしていかないと、いつまで経ってものんびりできない。
「ところで、君はとても小さいけど今何歳なの?」
「今年で6歳になりました」
目の前にいるのは幼い女の子だ。
金髪に緑色の目をしたキレイな顔つきで、将来は美人になるのを予感させる。
しかし、その表情はキリッとして力強さがにじみ出ていた。
きっと、毎日厳しい修練を積んでいるんだろうな。
――まだ小さいのになんて偉いんだ。
気を抜くと涙が出そうだった。
と、そこで、さっそくクリッサが絡み始めた。
〔かぁいぃねぇ~、飴ちゃんいるぅ~?〕
「いえ、結構です。甘い物を口にしてはいけませんので」
〔じゃあ、ウチが全部貰っていい~?〕
「どうぞ」
〔うぇ~い! テンション爆アゲ~!〕
クリッサは嬉しそうに飴をなめている。
〔……アンタの方が子どもっぽいわね〕
まったくその通りだな……って、話を進めないと。
ラミーナちゃんが言った教会の名前に、俺は聞き覚えがあった。
「“神聖霊教会”って言うと、セインティーナさんがいたところか」
「はい、おっしゃる通りです」
「確か、西の方にあるんだっけ?」
「ええ、霊山“オーヴェスト山”の中に、私たちの教会はあります」
“オーヴェスト山”は、それ自体に特別な魔力が籠もった山だ。
冒険者はおろかギルドマスターでさえ、特別な許可がないと入れない。
「もしかして、ラミーナちゃんは一人でここまで来たの?」
まさかとは思うが、俺は確認する。
「はい。許可なく霊山から出るのはご法度なので。人目を盗んで出てきました」
「マジか……本当に一人で来たのかよ……」
〔一人で来るのは大変だったでしょうに……〕
ミウも憐れむような顔をしている。
「ご存じのように、“神聖霊教会”は聖人・聖女が集まっている教会です」
「どんな訓練をしているの?」
「主に、結界の生成訓練です。教会で力をつけてから、各地のギルドに派遣されます」
結界は外と中の世界を区切る能力だ。
何でも、素質のある人間じゃないとできないらしい。
結界の生成には、恐ろしく繊細な魔力のコントロールが必要と聞いたことがある。
まぁ、俺は逆立ちしてもできないだろうな。
「あっ、ちょっと待って。もしかして、セインティーナさんも行方不明になっているんじゃ……?」
〔そうよ。あの大聖女さんは無事なの?〕
「いえ、セインティーナ様はご無事です。今もまだ各ギルドを周遊中ですので」
無事と聞いてホッとした。
俺たちにも良くしてくれたからな、心配だったんだ。
「ですが、修道長ですら姿を消してしまいました。仲間達も混乱し教会内はパニック状態です。閉鎖的な環境ゆえに、恐怖心や不信感が募りやすいのです」
「なるほど……そいつは大変だな」
「仲間達のことを思うと……心配で夜も眠れないのです。このままでは、教会中の仲間がいなくなってしまいます……」
ラミーナちゃんは、厳しい顔で俯いている。
その様子を見て、俺たちも胸が締め付けられた。
幼い子が苦しそうな様子を見るのは心が痛む。
「行方不明に関して何か心当たりはある? 事故が多いとか」
「いえ……それが、全くわからないのです。私も独自で調査はしていたのですが……」
「う~ん、誰かがさらっているのかな?」
〔行方不明が多発しているのなら、そう考えるのが妥当でしょうね〕
〔さらっているのは、モンスターとか魔族の可能性もあるねぇ~〕
だが、考えたところでそんなことはわからん。
さっさと現地に行くのが一番だ。
「“神聖霊教会”は、厳重に人の出入りが管理されています。ですので、そう簡単には部外者は入ってこれないはずなのですが」
「だとすると、なおさら怪しいな」
〔内通者でもいるのかしら〕
「お願いします。もう他に頼める方がいないのです」
ラミーナちゃんは小さな頭を必死に下げている。
もちろん、答えは一つしかない。
「依頼を受けるよ。消えてしまった仲間も俺たちが必ず見つけ出す」
〔ダーリンに任せておけば万事安心よ。私たちもいるからね〕
〔ウチもいるかんねぇ~、安心しぃ~〕
「ありがとうございます……みなさん……」
ラミーナちゃんは、グッと涙を堪えていた。
ということで、俺たちは“神聖霊教会”へ向かうことになった。
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