第5章:【西の教会】編
第52話:次なる策略(Side:ムノー②)
『また失敗か!』
例のごとく、余は大会議室で怒鳴り散らしていた。
出席者は魔将軍の面々と三大魔卿だ。
しかし、グリワ・メイモンは不在だった。
レイク・アスカーブに倒されたからだ。
『あのグリワ・メイモン様がやられるなんてありえないことだ……』
『しかも、たった一撃で倒されてしまったそうじゃないか……』
『あいつはそんなに途方もない力の持ち主だというのか……』
魔将軍たちの間には戦々恐々としている。
だが、余はグリワ・メイモンがいなくなろうと、そこまで焦ってはいなかった。
代わりなどいくらでもいる。
そもそも、魔界は弱肉強食の世界。
弱い方が悪いのだ。
この世で最強の存在は余なのだから、三大魔卿がいくら倒されても問題ない。
だが、人間界侵略がまた遠のいてしまったのもまた事実。
このままでは、魔界のエネルギー問題は解決されない。
――さて、どうしたものか……。
『ご心配なさらずに、魔王様。私が素晴らしい案をご用意しております』
考えていると三大魔卿の一角、メフィ・ステシアが出てきた。
山羊を思わせるほど大きくカールした角に、ギョロリとした巨大な目。
ユーノ程ではないが、こいつも魔族にしては小型だ。
しかし、魔力の扱いに非常に長けている。
その類まれな幻想魔術と特殊な魔道具の製作技術から、三大魔卿に名を連ねていた。
『ふむ、言ってみろ』
『人間界に通じる道を作れば、もう魔族を人間界に送るのにエネルギーは必要ございません』
『どういうことだ。詳しく話せ』
余が問いただすと、メフィ・ステシアはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
『“転移門”で魔界と人間界を繋いでしまうのです』
“転移門”とは異世界同士を繋げるゲートのような物だ。
それぞれの世界で造らないと意味がないので、製作はほとんど不可能とされていた。
『なるほど……だが、魔界ではお前が作るとして人間界での製作はどうするのだ』
『結界を作ることに長けた聖女や聖人を誘拐して、魔界と人間界を繋げる門を作らせるのです』
『ほう……』
なかなかやるではないか。
メフィ・ステシアは薄気味悪く笑っている。
さすがは、魔界きっての策士だな。
『人間どもと私の能力を合わせれば、門の製作など容易いです。すでに門の元は出来上がっておりますゆえ。多少お時間は頂きますが、それほど時間はかからないと思います』
『だが、どうやって聖女やら聖人を誘拐するのだ。余計なエネルギーは使いたくないぞ』
『ご心配はいりません』
メフィ・ステシアはクックックッと笑っている。
『愚かな人間を利用して、すでに計画は始めております。門ができれば部下たちを率いて人間界に侵略できましょうぞ。その第一陣は、是非とも私が努めさせていただきたく存じます』
『ふむ、それは良い案だ。この作戦はお前に任せよう』
『ありがとうございます』
転送にエネルギーを使うのであれば、いっそのこと世界同士を繋げてしまえばいい。
一度“転移門”が起動すれば、魔界と人間界は一体化したも同然だ。
『ム、ムノー様。恐れ多くも意見を述べさせてください。“転移門”の製作は絶対におやめください』
『……チッ』
と、そこで、またユーノが出てきた。
いちいち面倒なヤツだ。
『魔界と人間界が繋がれば、人間たちも魔界に来れるということです! あのレイク・アスカーブが、軍勢を率いてきたらどうするのですか!?』
『魔王様、どうぞご心配ならさず。人間は通れないように設定できます』
余が何か言う前に、メフィ・ステシアがユーノの前に立ちはだかった。
『でしゃばるな、ユーノ。この私がそのようなヘマをするわけがないだろうが』
『し、しかし……!』
『今この場で貴様を八つ裂きにしてやってもいいんだぞ』
『っ……!』
メフィ・ステシアがすごむと、ユーノはすごすごと引き下がった。
戦闘においては大した力もないからな。
もはや、ユーノに発言権などなかった。
『魔王様は玉座にお座りになって、悠々とお待ちくださいませ』
『よし、レイク・アスカーブを倒してこい』
メフィ・ステシアは静々と会議室から出て行く。
――さて……。
余は賛成しているフリをしていたが、あいつの内心は見え透いていた。
この機に乗じて、人間界を支配するつもりなのだ。
おそらく、グリワ・メイモンが言っていた人間どもと手を結ぶという案もヤツが出したに違いない。
もしかしたら呪われた即死アイテムを奪おう、などと考えているのかもしれない。
元々、魔族は野心が強いからな。
魔王の座を奪おうとする者どもをたくさん見てきた。
――フンッ、愚か者め。貴様の本心など見ただけでわかるわ。
だが、余はあえてメフィ・ステシアを人間界に送り出すことにした。
あやつがレイク・アスカーブを倒せば良し。
呪われた即死アイテムを奪い、余に反旗を翻すのもまた一興。
退屈しのぎにはちょうどいい。
さてさて、お手並み拝見と言ったところだな。
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