第51話:北方ギルドのエースに任命される

「「レイクさーん! あんたこそエースにふさわしい冒険者だー!」」


 その後、俺はノーザンシティのギルドで表彰されていた。

 魔族化ナメリックの暴走を止め、三大魔卿のグリワ・メイモンを倒したからだ。

 見渡す限り、冒険者だけじゃなく街中の人たちまで集まっていた。

 どうやら、“大レイク祭”という祭りにしてしまったらしい。

 ノーザンシティの伝統行事としてこれからも称えるそうだ。


〔ダーーリーン! ほんとに凄い功績だわー!〕

〔レイクっちマジあげぽよ~〕


 ミウやクリッサも笑顔で手を振っている。

 やらかしエースと迷惑な魔族に壊された街も、今やすっかり直っている。

 闇魔法を使ったから、一瞬で修復できた。


「さあ、レイク! 受け取ってくれ! これがノーザンシティのエースの証だよ!」

「ありがとうございます。カッコいいですね」

「「レイクさーん! あんたは最高だー!」」


 ライブリーさんから大きなハンマーを貰った。

 観客たちがまた一段と盛り上がる。

 ハンマーは銀製のようでとても重い。

 装飾品だけど武器としても使えそうなところがノーザンシティっぽかった。


「ほんとはずっとここに居てほしいんだけど、そういうわけにもいかないさね」

「何かあったら来てください。すぐに駆けつけますよ」

「その時はまたワイルを送るよ」


 ライブリーさんと固い握手を交わす。

 心と心が通じ合っていた。


「レイクさん。俺たちはあんたみたいな冒険者を目指して、これからも精進するよ!」


 ワイルさんともガシッと握手を交わす。

 冒険者や住民たちの中には、泣いている人までいた。

 みんな、最後の見送りに来ていた。


「グランドビールから来てくれて、本当にありがとうございました! あなたの勇姿は一生忘れません!」

「レイクさんの活躍はずっと語り継いでいくよ!」

「いつでも遊びに来てくれよな! 街中総出で歓迎するぜ!」


 右も左も笑顔ばかりだ。

 自分のやったことがみんなのためになっていて、得も言われぬ充実感に満たされた。


「じゃあ、そろそろ帰るか」

〔そうね〕

〔帰る~〕

「<ダークネス・テレポート>! 行き先はグランドビール!」


□□□


 ということで、俺たちはグランドビールに帰ってきた。

 ちょうどギルドの前だ。

 見慣れた建物だったが、不思議と懐かしく思えた。


「離れていた時間は短いのに、ずいぶんと久しぶりな感じがするな」

〔まぁ短い分、色々と濃い出来事があったからね〕

〔ここがレイクっちのいた街かぁ~、今から楽しみ~〕

 

 さっそく、ドアを開けて中に入る。

 いつものように、冒険者たちがワイワイして活気に溢れていた。

 ノーザンシティも良いところだったけど、やっぱりグランドビールの方が落ち着くな。

 まずは馴染みの人のところに行く。

 セレンさんだ。

 いつものショートヘアと銀縁眼鏡が本当に安心する。


「ただいま帰りました、セレンさん」

「お帰りなさい、レイクさん、ミウさん。ノーザンシティはどうでしたか?」

「怖そうな人が多かったですけど、みんな良い人でしたよ。ご飯も美味しかったですし。まぁ、ちょっと寒かったですけどね」

〔ダーリンと一緒ならどこに行っても楽しいわ。まさか、空からこの人が降ってくるとは思わなかったけどね〕

「この人?」


 クリッサが後ろからスッと出てきた。

 ふにゃあ……とした雰囲気のまま話しかける。


〔ウチはクリッサってんけどね~、レイクっちの仲間になったんよ~、あなたもかぁいいねぇ~〕

「は、はあ、どうぞよろしくお願いします」


 セレンさんは眼鏡をかけ直しながら、クリッサとぎこちなく握手を交わす。


「おっ、レイクじゃないか。もう依頼は終わったのか? 相変わらず、ずいぶんと仕事が早いな」


 ちょうど、奥からマギスドールさんも出てきた。


「はい。無事に依頼を達成してきました。キメラモンスターの討伐だったんですよ」

「ほぅ、キメラモンスターか。そいつはまた難敵だったな。またいつもの即死アイテムで倒したのか?」

「いや、今回は新しい仲間ができまして」

「新しい仲間? 確かに、こっちのお嬢さんは見かけない顔だな」


 マギスドールさんは、不思議な顔でクリッサを見ている。


「この子はクリッサと言って、こう見えても呪われた即死アイテムなんですよ」

「なに、この娘が!? どこからどう見ても人間の女の子なんだがなぁ」

〔キメラモンスターを倒しに行ったとき、空から降ってきたわ〕

〔ウチ、クリッサってんだけど~マジよろぴく~〕


 クリッサは相手がマギスドールさんでも相変わらずのノリだ。

 ギルドマスターでも物怖じするどころか、友達のように接している。

 

「う、うむ……なかなか元気そうな娘じゃないか」

「ミ、ミウさんとはまた違った感じの人ですね」


 クリッサの勢いに、二人ともタジタジとしていた。


「コ、コラ、クリッサ。もっと丁寧に話しなさい。あと俺にくっつかなくていいから」

〔ダーリンから離れなさいよ〕

〔ええ~、ミウっちは厳しすぎるんよ~〕


 二人が俺の体を引っ張り合う。

 それもまた、日常の光景になりつつあった。


「ハハハ、レイクはモテモテだな」

「みなさん、仲が良くて羨ましいです」


 ギルドのみんなも温かい目で俺たちを見ている。

 さすがに恥ずかしくなってきた。


「じゃ、じゃあ、俺たち帰りますね」

〔また来るかんね~〕


 そのとき、ミウにくいっと服を掴まれた。


〔ねえ、ダーリン。アイツを倒したこと言わなくていいの? それと、クリッサはダーリンから離れなさい〕

「アイツ?」

〔ほら、三大魔卿の……〕

「ああ、そうだった」


 ギルドから出ようとしたが、くるっと回ってカウンターへ戻る。


「マギスドールさん、グリワ・メイモンって知ってます? ノーザンシティで俺たちを襲ってきたんで、倒しときました」

「「……は?」」


 俺が言ったら、マギスドールさんはとても驚いた顔をした。

 いや、ギルド中がシーンとしている。

 マギスドールさんが、確認するように話してきた。

 額から汗がダラダラ出ている。


「き、き、聞き間違いだと思うが、グリワ・メイモンと戦ったのか……? あの……三大魔卿の……?」

「ええ、そうです。なんか、変なアイテムをめっちゃ持ってましたよ。あと、ノーザンシティのエースがそのアイテムのせいで魔族化したんで、元に戻しときました」


 俺はノーザンシティでの出来事を淡々と説明した。

 にもかかわらず、ギルドは静まり返っている。


「マジでグリワ・メイモンを倒したのかよ! 信じらんねぇ!」

「三大魔卿って言ったら、魔王並みに強いはずだろ!?」

「いったいどうやって倒したんだ!」


 あっという間に、冒険者たちに囲まれてしまった。


「ちょっ、みなさん落ち着いて……」

「レイク! 三大魔卿を倒したときのことをもっと詳しく教えてくれ!」

 

マギスドールさんにグイッと肩を掴まれ、席に着かされる。

 今や、ギルドの中は大騒ぎだ。

 ということで、グランドビールでもどんちゃん騒ぎが始まった。


 結局、俺たちの家に帰ってきたのは夜遅くになってしまった。

 【呪いの館】が迎えてくれた。


「ここが俺たちの家だ。と言っても、これも呪われた即死アイテムなんだけどな」

〔【呪いの館】よ〕

「カッコいいだろ?」

〔マジわかりみ深~〕


 クリッサの言うことは、マジでよくわからん。

 だが、笑顔なので喜んでいるのだろう。

 そのうち、俺の部屋に着いた。


「じゃあ、俺はここで寝るから」

〔私も一緒に寝るわ〕

「あ、いや、ほら、やっぱりまだ……」

〔今さら何を言っているのよ〕


 毎度のように部屋に押し込められる。

 なんかクリッサもくっついてきた。


――ま、まさか……。


〔ウチもここで寝る~〕


 あろうことか、クリッサも俺たちと一緒に寝ると言い出した。


〔こら、ダーリンから離れなさい。アンタは別の部屋で寝るのよ〕


 結局、俺たちは三人で一緒に寝ることになった。


〔まったく、今日だけだからね!〕

〔マジヤバ~い〕

 

 大きいベッドなのに、めちゃくちゃ狭い。

 だが、俺は心の中で葛藤していた。

 一人ならず二人と寝るなんて、不健全も甚だしいだろうが。

 かと言ってどうすることもできないし。

 いや、そもそもミウとだってまだ正式に……。

 そんなことを考えていたら、知らないうちに眠っていた。

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