第42話:討伐隊のリーダーになった

「じゃあ、さっそくノーザンシティに行きますかね」

〔どんなところか楽しみだわぁ〕

「おい、ちょっと待ってくれよ!」


ギルドを出て、<ダークネス・テレポート>を使おうとした時だった。

ワイルさんに、勢い良く止められた。


「頼んでばっかで悪いんだが、手練れの魔法使いも呼んでくれないか? ノーザンシティには、転送魔法で帰りたい! 歩いて向かうとなると、何日かかるかわからん!」

「いや、大丈夫ですよ。すぐに行ける魔法があるんです」

〔まさしく、ダーリンはその転送魔法を使えるのよ。それも、最上級のね〕

「……え? いや、でも、何も準備していないじゃないか……」


ワイルさんはポカンとしている。


「準備とかいらないんです。ジッとしていてくださいね。《ダークネス・テレポート》! 行き先はノーザンシティのギルド!」

「ちょ、ちょっと待っ……!」


一秒後、俺たちは砦みたいな建物の前に来た。

とても頑丈そうな石造りだ。

グランドビールのギルドより、雰囲気がずっと重苦しい。


「ウ……ウソだろ!? ここは俺たちのギルドじゃねえかよ! 本当にもう着いちまったのか!? し、信じられん……」


ワイルさんは呆然としている。


「まぁ、こんな感じです」

〔だから、言ったでしょ。ダーリンは最上級の転送魔法を使えるって〕


やがて、ワイルさんは、気を取り直したように言った。


「ア、アンタは規格外すぎるみたいだな……さて、まずは俺らのギルドマスターに会ってくれや!」


ワイルさんに連れられ、ギルドに入る。

冒険者たちは、確かにみんな疲れているようだった。

連日、キメラモンスターから生み出される敵と戦っているのだろう。

体にたくさんの傷がある。


「ギルドマスター! レイクさんを連れてきやしたぜ! グランドビールの、レイク・アスカーブさんだ!」


ワイルさんがカウンターで叫ぶ。

すると、周りの冒険者がいっせいに俺を見た。


「おい、聞いたか? レイク・アスカーブだってよ」

「ネオサラマンダーや魔族を瞬殺したヤツか。ここにも来てくれたんだ」

「あいつがあの……」


みんな、俺を見てボソボソ話している。

強面の冒険者ばかりなので、俺は少々緊張する。


〔ダーリンのウワサは、こんなところまで届いているのね。私まで嬉しくなっちゃうわ〕

「う、うむ……できれば、あまり目立ちたくはないのだが……」


これ以上目立つと、余計にのんびり暮らしから遠くなる気がする。

やがて、カウンターの奥から大柄の女性が出てきた。


「あんたが、グランドビールのエースかい。ウワサは聞いているよ。驚くほど強いんだってね。アタイがギルドマスターのライブリーさ。よろしく」

「よろしくお願いします、レイク・アスカーブです。こっちは一緒に冒険しているミウです」

「ミウよ。よろしくね」


ライブリーさんは、とにかく豪快な感じだ。

男にも負けないくらい、筋肉がモリモリしている。

握手も力強かった。

でも、足が悪いんだろう。

右足が義足だ。


「あの、ライブリーさん。足が悪いんですか?」

「大昔、魔族と戦ったことがあってね。勝利の代償だよ。なに、昔の話さ。ところで、ワイルから話は聞いているかね?」

「はい、キメラモンスターの討伐ですよね」

「アンタに、討伐隊のリーダーをやってもらいたいのさ」

「ええ、もちろんです」

「ありがとう。アンタみたいな強者がいたら、士気も上がるだろうよ」


だが、討伐に行く前に、一つ聞いておきたいことがあった。


「ライブリーさん。ワイルさんから、呪い毒に侵された人たちがいると聞いたのですが」

「ああ、そのことかい……」


俺がその話を切り出すと、ライブリーさんは表情が暗くなった。


「今も、カタライズ王国直属の治療師団に治癒をお願いしてるんだけどね……一向に良くならないんだよ。どうやら、かなり強力な呪いらしい。辺境のノーザンシティじゃ、ろくな設備もないしね……」

「その呪いなんですが、俺に治させてくれませんか?」


俺が言うと、ライブリーさんはえっ? という顔をした。


「それは……どういうことだい?」

「俺は《解呪》ってスキルを持っているんです。どんな強力な呪いでも、一撃で解呪できます」

〔ダーリンのスキルの強さは、私も保証するわ。超一級の能力よ〕

「スキルが《解呪》なんて、初めて聞いたさね」


ライブリーさんは、不思議な顔をして考えている。


「お願いします、ライブリーさん」


いくら目立ちたくなくても、助けられる人を見殺しはできないからな。


「じゃ、じゃあ、頼めるかい?」


ライブリーさんは、奥の部屋に連れていってくれた。

そこでは、何人もの冒険者がベッドに横たわっている。

その体には、紫の模様が浮かんでいた。

まるで、全身を締め付けているような感じだ。


「こ、これは……」

〔みんな具合が悪そうね……〕


彼らの顔は青ざめていて、呼吸も荒い。

下手したら、今にも死んでしまいそうだ。

汗もダラダラしている。


「クソッ! いったい、この呪いはどうすれば解けるんだ!」

「こんな強力な呪いは、どの文献にも載っていません……」


そのとき、白いローブに身を包んだ人たちが入ってきた。

見るからに、冒険者ではない。

そして、その胸にはオリーブの枝の紋章が飾られていた。


〔ダーリン、あの人たち……〕

「ああ、カタライズ王国直属の治療師団だ」


メガネをかけた人が、テキパキと指示を出している。

きっと、彼が治療師団のリーダーなんだろう。

沈んだ顔で、ライブリーさんに話している。


「どうだい、みんなの状態は?」

「……良くありませんね。悪化しないようにするので精一杯です。申し訳ありません」

「いや、あんたが謝ることはないさ」

「私たちは国で一番の治療師団と言われておりますが、呪いの一つも解除できないなんて……情けない」


リーダーの人は、とても悔しそうな顔をしている。

やがて、冒険者の一人が、ライブリーさんの手を握った。

かなり辛そうな表情だ。


「ライブリー……さん……俺はもうダメです……後は……頼みます……」

「何言ってるんだ! 頑張るんだよ! あんたが死んだら、あの娘はどうなるんだい! 結婚するんじゃなかったのか!」

「でも……もう……」


俺はリーダーの人に話しかける。


「あの、すみません。俺に解呪させてくれませんか?」

「ん? 君は誰だ?」


ライブリーさんが、簡単に話してくれた。


「……なるほど、そんなスキルがあるのか。正直なところ、私たちもお手上げなんだ。ここまで来たら、もう君に頼むしかない。神よ、奇跡を起こしてくれ」


リーダーの人は、めちゃくちゃ必死に祈っている。

さっそく、俺は冒険者の手を握った。


「《解呪》!」


と、一瞬で変な模様は消え去った。

その顔に、見る見るうちに生気が蘇ってくる。

汗も収まり、とても健康そうな顔持ちだ。

冒険者はガバッと起きると、嬉しそうに叫んだ。


「治った! ……治ったよ、ライブリーさん! すげえ! 毒にやられていたのが、あっという間に治っちまった!」

「そ、そんな!? 私たちがどれほど手を尽くしても、全く良くならなかったのに……!?」

「触っただけで治しちまったのかい!?」

〔だから、ダーリンなら触っただけで治せるって言ったでしょ?〕

「き、君は天才だ!」


リーダーの人は、めっちゃ興奮している。

俺の手を握って、ブンブン! と振り回してきた。


「他の人たちの治療も頼む!」

「え、ええ、それはもちろん」


俺は冒険者たちと、一通り握手をする。

あっという間に、全員の解呪が終わった。

その瞬間、病室は歓喜の声で溢れかえる。

みんな、さっきまでの辛そうな感じが噓みたいだ。


「いったいどんな魔法を使ったんだよ!?」

「あんたは凄腕の魔法使いなのか!?」

「さっきまでの苦しみが、嘘みたいだぜ!」


俺のことを、とにかく褒め称えまくっている。


――なんだか、申し訳ないなぁ。握手するだけの簡単な仕事なのに。


「さすがは、カタライズ王国の英雄だ! とんでもない力を持っているね! アタイもびっくりしたよ!」

「あんたを呼んで本当に良かったぜ! マジでありがとうな!」


ライブリーさんもワイルさんも、心の底から喜んでいるようだ。


〔やっぱり、私のダーリンは素晴らしいわね〕


ミウも誇らしげだ。


「べ、別に、そんな大したことないですよ」

「何言ってるんだい!謙遜しなくていいんだよ!」

「アンタがリーダーなら、俺たちも安心して討伐に行けるよ!」


ということで、俺たちはキメラモンスターの巣へ向かうことになった。

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