第43話:空から女の子の人形が降ってきた

「あれがキメラモンスターの巣か」

〔ずいぶんと大きいわねぇ〕


ギルドから少し離れた草原に、それはあった。

見た感じ、巣と言うよりかは、土のでかい球体だ。

その表面を、モンスターがうじゃうじゃ這いまわっている。

討伐隊は、ノーザンシティでも手練れのメンバー揃いだ。

それでも、冒険者たちは緊張していた。


「クソッ、もうあんなに繁殖してやがる……!」

「倒しても倒しても、キリがねえよっ!」

「俺はモンスターを見るのさえ、イヤになっちまった……」


みんな、心底うんざりしているようだ。


「まったく、気持ちの悪い光景だな」

〔ええ。それにしても、よく燃えそうね〕

「レイクさん、あれが毒の結界ですぜ!」


ワイルさんが、球体の下方を指さす。

その辺りには、毒々しい紫色の空気が漂っていた。

そこだけ草が枯れている。

風が吹いても消える様子はなかった。


「迷惑なモンスターたちだ」

〔ちゃちゃっと片付けちゃってよ、ダーリン〕

「憎たらしいことに、主から生み出されたモンスターは、あの毒に耐性を持っているんだ! だから、結界をすり抜けて俺たちを襲ってくるってわけさ!」


モンスターは結界の中を、普通の顔をして動き回っている。

ワイルさんの言うように、特殊な耐性がついているらしい。

今のところ、毒の結界は巣の周りだけだ。

だが、範囲が広がる可能性もある。

あの冒険者たちのように、みんなが被害に遭うとまずい。


「皆さんは危ないので、ここで待機していてください」

〔私たちが片付けてくるわ〕


なので、俺たちだけで討伐へ行くことにした。


「でもよ、レイクさん! 頼んだ手前、二人で行かせるわけにはいかねえよ!」


しかし、ワイルさんは引き下がろうとしない。


「そうですよ。さすがに、お二人だけで戦せるわけにはいきません」

「いくらお二人が最強夫婦でも、俺たちも戦わせてくださいよ」

「レイクさんたちが怪我をしたら、申し訳が立たねえ」


みんな、俺たちと巣に向かうつもりだった。


〔まぁ、私たちはラブラブ夫婦なんだけど、ここは任せて。ダーリンが、すぐに倒してくれるから〕

「皆さんが呪い毒を喰らうとまずいので、待機していてください……というか、俺たちは夫婦じゃ……むにゃむにゃ」


丁寧に話すと、ワイルさんたちは納得してくれたみたいだ。


「「そ、そうですか? では、お気を付けて」」


討伐隊は、心配そうにしながらも見送ってくれた。

俺たちは巣に向かって歩いていく。


「キメラモンスターの主も、巣の中にいるのかな」

〔たぶん、そうでしょうね。もし、街に来ていたら、大騒ぎになっているだろうし〕

「じゃあ、さっさと引きずり出すか。主に逃げられると面倒だ」


しかし、少し進んだところで、ミウが立ち止まった。


「どうしたんだ、ミウ?」

〔ねぇ、ダーリン。何か聞こえない?〕

「え?」


俺は耳をすますが、何も聞こえない。


「何も聞こえないのだが」

〔よく耳をすましてみて〕


ミウに言われた通り、俺は耳に神経を集中する。


――やっぱり、何も聞こえ……いや。


微かに、ヒュルルルル……という音が、聞こえるような気がする。

風の音かな。


「な、なんだ? 確かに、変な音がする……どこからだ?」

〔もしかして、上?〕


俺たちは空を見上げる。

太陽がサンサンと輝いていて眩しい。


「雲一つないぞ。たしか、こういう天気を快晴って言うんだ」

〔ダーリン、そうじゃなくて。あそこ見てよ。何か見えない?〕


ミウが遥か上空を指さした。

俺はその先を、じっと見る。


「言われてみれば、何か黒い点が見えるような……」

〔何かしら? 鳥?〕

「キメラモンスターを狙いにきたドラゴンか?」


眺めていたら、黒い点はどんどん大きくなってきた。

俺たち目掛けて、勢い良く近づいてくる。


「なんだ、なんだ、なんだ!?」

〔ダーリン、逃げて、逃げて!〕

「どわああ!」


俺たちは急いで後ろに飛びのいた。

ドオオオオオン!! と俺たちがいたところに、その何かは衝突した。

辺りに土の破片が飛び散る。


「な、何が落ちてきたんだ!」

〔確かめましょう、ダーリン〕


土煙が消えていき、俺たちは恐る恐る近づいていく。


「まさか、敵襲……ではないよな? 空から降ってくるモンスターだとか魔族は、俺も聞いたことがないぞ」

〔ええ、違うと思うけど……攻撃してくる気配はないし〕


何かが落ちたところは、とても静かだ。

それどころか、シーン……として不気味だった。


「レイクさん! 大丈夫ですか!? 何かあったんですか!?」

「怪我はありませんか!?」

「今助けにいきます!」


ワイルさんたちが、慌ただしい。


「俺たちは大丈夫です! そこを動かないでください!」

〔私たちなら平気だから!〕


落下物の正体がはっきりするまでは、誰も近寄らない方がよいだろう。

しかし、それの全身が見えたとき、俺たちはとても驚いた。


「おい、ミウ……これは……」

〔ええ……驚いたわ……〕


そこには、女の子の人形が地面にめり込んでいた。

人間と間違えるくらいの、とても精巧な人形だ。


「い、いったい、どういうことなんだ? どうして、こんなものが……」

〔人形……よね? 少なくとも、人間ではないわ〕


どことなく無機質な感じがするから、やっぱり人形なんだろう。

というか、人間があんな高さから落ちてきたら、木っ端みじんになっている。


「どこから落ちてきたんだ」

〔空になにか浮いているの?〕


俺たちは空を見上げるが、何も浮かんでいない。

そして、人形は空高くから降ってきたのに、全く壊れていない。

それどころか、小さな傷一つもついていなかった。


「すげえ、頑丈な人形みたいだな。どんな素材でできているんだ」

〔あの高さから落ちても壊れないなんて〕


俺たちは人形を観察する。

仰向けなので、顔も良く見える。

目を閉じて、スヤスヤと眠っているようだった。

見れば見るほど、本物の人間みたいだ。

と、そこで、俺たちはさらに驚いた。 


〔ねぇ、ダーリン……〕

「いや、マジか」


人形からは、見慣れたどす黒いオーラが出ていた。


「これ……呪われた即死アイテムじゃん」

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