第41話:ある冒険者からの依頼を受けた

〔ほら、ダーリン。リードしないと〕

「えっと……じゃ、じゃあ、自己紹介からお願いできますか?」

「おう! 俺はな、ワイルってんだ! ノーザンシティで冒険者をやってるぜ! Bランクのな! よろしく頼む!」


その後、俺たちは傭兵ということで、依頼を一つずつ受けていくことになった。

今はギルドの部屋を借りて、そこで相談している。

ワイルさんは髪を短く刈り込んでいて、筋骨隆々のパワフルな感じだ。

年はマギスドールさんと同じくらいかな。


「ノーザンシティと言うと、だいぶ北の方ですよね。そんなところからいらしたんですか」

〔大変だったわね。遠かったでしょう〕

「まぁ、遠いっちゃ遠いが、そんなことはいいんだ! 俺たちにとっては、もうアンタしかいないのさ!」


よく見ると、ワイルさんの服は擦り切れていたり、薄汚れていた。

見たところ戦士っぽいから、歩いてきたのかもしれない。

きっと、ここに来るまでは、厳しい道のりだったのだろう。


「それで、依頼というのは何でしょうか?」

「街の近くに、ヤバいモンスターが出てきたんだよ! そいつを討伐してくれ!」

「〔ヤバいモンスター?〕」

「ああ、キメラモンスターだ!」

「え!? それはまた大変な」


俺は久しぶりに、その名前を聞いた。


〔ねえ、ダーリン、そんなヤツ初めて聞いたわ。強いの、そいつ?〕

「モンスターの変異種だよ。色んな種族が、合体したような姿をしているんだ。現れるのは珍しいな」

〔へぇ~〕

「そして、キメラモンスターは巣を作るんだ。元になったモンスターを、無限に生み出すのさ」

「よく知ってるな、アンタ!」


だが、俺はちょっと疑問があった。


「ノーザンシティは、猛者揃いというウワサを聞いていますけど」


北方の辺境にあるので、グランドビールよりずっと厳しい環境だ。

そのせいか、現れるモンスターも強いものが多いらしい。

負けじと、冒険者たちはギルド全体で、過酷な鍛錬を積んでいるようだ。

いかに敵が強くても、キメラモンスターくらい倒せそうな気がするが。


「こいつが、なかなかに厄介なんだ! 巣の周りに毒の結界を作っていて、近寄れないんだよ! 討伐に行った冒険者も、何人か毒を喰らっちまった!」

「毒の結界ですか。それはまた面倒ですね」

「その毒も質が悪くてな! どうやら、呪い魔法で作られているらしいんだ! そのせいで、治療師の治癒が上手くいかないんだよ!」

「マジですか」


呪い魔法が混じった毒なんて、初めて聞いた。

それは確かに、ヤバいモンスターだ。


「今も、カタライズ王国直属の治療師団が来ているんだがな! 仲間の具合は……良くないらしい……」

「治療師団というと、超優秀な人たちの集まりと聞いていますけど、その人達でもダメなんですか」

「ああ……何でも新しい毒と呪いみたいだ」


ワイルさんは暗い顔をしている。

見ているこっちまで辛い気持ちになるほどだ。

強面だけど、仲間想いの優しい人なんだろう。


「それで、ノーザンシティはどんな状況なんですか?」

〔モンスターに襲われているの?〕


俺たちは心配になって聞いた。

もう壊滅しかけているのだろうか。


「いや、なんとか持ち堪えているぜ!」


ワイルさんの言葉を聞いて、俺たちは少しホッとした。


「生み出されたモンスターは、頑張って討伐できている! だが、毒のせいもあって、冒険者たちはだいぶ疲弊しているんだ! もちろん、ノーザンシティには手練れが集まっている! それでも、キメラモンスターの巣は頑丈過ぎて、なかなか攻略できんのだ!」

「なるほど……そんなに強いんですか」

〔よそのギルドのエースを応援に呼ぶほど、強いってわけね〕

「ま、まぁ、ノーザンシティにも、強いエースがいるにはいるんだが……」


なぜか、ワイルさんは急に歯切れ悪くなった。


「あの、どうしたんですか?」

「いや……何でもないんだ」

〔何かあるんなら、先に言ってもらった方が安心だわ〕


すると、ワイルさんは口ごもりながら話してくれた。


「うちのエースは……ちょっと、気が荒い上に、女癖が悪くてだな。クエストが終わると、よく姿を消すんだ。今回もどっかで遊んでいるんだろうが……どこにいるのかわからん。探しても見つからないので、グランドビールまで来たんだ」

「〔気が荒くて、女癖が悪い……〕」


俺たちは何となく、イヤな予感がした。

毎度のごとく、こういう輩が出てくるのはどうしてだ。


〔ダーリン、もしかして……〕

「まぁ、問題ないだろ……今はいないらしいし」

 

とは言っても、別に大丈夫か。

エースと対決するわけでもないし。

キメラモンスターを倒せば、それでおしまいだ。


「頼む、俺たちの依頼を受けてくれるか!? このままじゃ、ノーザンシティはジリ貧だ! うちのギルドだって、いつまで持つかわからないんだよ!」


ワイルさんは両膝に手をつけて、ガバッと頭を下げた。

もちろん、断る理由など一つもない。


「ええ、いいですよ。討伐に行きます」

〔ダーリンが行けば、そんなモンスターは瞬殺だわ〕

「ありがとう、助かった! 恩に着るぜ!」


ということで、俺たちはノーザンシティへ向かうことになった。

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