第4章:【北方のギルド】編

第40話:緊急会議と策略(Side:???①)

『これはいったいどういうことだ!?』


魔王城の大会議室で、余は部下たちを怒鳴りつけていた。

空中には、とある映像が映し出されている。

エビル・デーモンが八つ裂きにされているシーンだ。

何度見ても腹立たしい。


(うわああああああああ!!!)


エビル・デーモンが放った雷の矢が、アイツの鎧に当たった。

その瞬間、とんでもない数に増えて跳ね返っている。

あっという間に、エビル・デーモンは見るも無残な消し炭になってしまった。


『おのれ、レイク・アスカーブめ!!』


余は特製のテーブルを、思いっきり叩きつける。

本来なら、この時点で人間界の侵略はすでに終わっているはずだった。

城持ちは余が力を認めた、相当の猛者だ。

あの勇者にさえ、圧倒できるほどの。

それなのに、あっさり倒されてしまった。


『こんなことがあり得るのか!?』


だからこそ、さらに強い魔将軍を派遣したわけだが……。


(……ぐあああああ!)


次のシーンでは、ルシファー・デビルが正体不明の穴に飲み込まれていた。

ヤツは城持ちのエビル・デーモンより、数段強いはずだ。

だからこそ、100体もの魔族の軍勢を任せたのだ。

しかし、一つの技も見せずに、部下ともども謎の黒い穴に吸い込まれてしまった。

ものの数秒で全ての魔族が消される衝撃的な映像だ。

魔王である余ですら、あんな魔法は見たことがない。

その時、部下の一人が恐る恐る言った。


『魔王様……彼らはどこに消えてしまったのでしょうか……?』

『黙れ! 余が知るわけなかろうが!』


未だに、ルシファー・デビルはおろか、100体の魔族全員とコンタクトが取れない。

こんなことは初めてだ。


『ヤツは魔将軍の中でも、相当な実力者だったはずじゃ……』

『100年に一体の逸材と言われていたよな……』

『そんな魔族が一瞬でやられるとは……』


ここには数々の城持ちや魔将軍が集まっている。

しかし、どいつもこいつも表情が沈んでいた。

人間界侵略の作戦が、ことごとく失敗しているからだ。

呪われた即死アイテム……。

あんな物は余も見たことがない。

凄まじい強さだ。


『あの……魔王様……』

『なんだ!』

『レイク・アスカーブが魔界に来るなんてことは……ないですよね?』


――……え?


魔界に来ると聞いて、余は少しドキッとした。


『愚か者! 人間が魔界に来れるわけないだろうが! 変なことを言うんじゃない! 本当に来たらどうするんだ!』

『も、申し訳ありません、魔王様!』


とは言ったものの、確かにあの強さは脅威だ。

まずは、アイツを倒さねば人間界侵略などできない。

現実問題として、魔将軍クラスを何体送ったところで変わらないだろう。

と、そこで、余は例の者たちを見た。


『さて、お前たちはどう思うのだ?』


人間界侵略の要――三大魔卿。


余の次に強い、三体の魔族だ。

その者たちは、明らかに他の魔族と違った。

全身からにじみ出る魔力は、禍々しさのレベルが飛びぬけている。

魔将軍ですら、近寄りすぎるとその魔力に毒されるほどだ。

未熟な人間ならば、触れただけで死ぬだろう。

しかし、その三大魔卿でさえ表情が硬い。


『『……っ』』


だが正直なところ、余は落ち着いていた。


『なに、それほど心配することはない』

『『……と、おっしゃいますと?』』

『あれほど強力であれば、リスクも相応なはずだ』


強い力ほど、リスクが大きい。

簡単に言えば、強力な魔法ほど魔力の消費量が激しい。

考えなくてもわかる、これは当たり前のことだ。


『あそこまで強いアイテムならば、多大なリスクを背負っているはずだ。おそらく、アイツの体はボロボロに違いない。あの鎧も剣も装備しているだけで、どんなにすごいリスクかわからん。ましてや、あんな魔法を使ったとなれば、アイツはほとんど死にかけだろう』


余が言うと、三大魔卿も明るい気持ちになったようだ。


『確かに、魔王様のおっしゃる通りだ……』

『どんな物事にもリスクはあるもの……』

『あんな魔法や装備を使ったら、タダではすみません……』


大会議室は、クックックッという笑い声で包まれた。

エビル・デーモンやルシファー・デビルも、アイツを消耗させたと考えれば、十分役目を果たしたと言える。


『さあ! 人間界を侵略するには、あのレイク・アスカーブが邪魔だ! お前たち、何か良い案はないか!?』

『ムノー様……恐れ多くも申し上げます』


そのとき、挙手をする魔族がいた。

だが、余はそいつを見た瞬間、いつものように不快な気持ちになった。


『…………チッ』


幹部の中で唯一の女魔族、側近筆頭のユーノだ。

こいつは有能なので、余を名前で呼ぶことを許可している。

しかし、少々図に乗っているようだ。

そもそも、こいつは魔族だが、余たちと全く見た目が違う。

角も翼も生えておらず、体躯も小さい。

まるで人間のようだ。


『何度も申し上げておりますが、人間たちと和平を結ぶべきでございます。交渉は私たち穏健派が行いますゆえ』


知らないうちに、こいつは穏健派なんぞという派閥を作りおった。

あろうことか、人間どもと仲良くしろと主張している。


『貴様、まだそんなことを言っているのか。和解するはずないだろうが』

『し、しかし……』

『黙れ! 魔界の伝統のおかげで、貴様はこの会議に参加できていることを忘れるな!』

『ぐっ……!』


異世界侵略などの重要な決断をするときは、幹部全員が参加することになっている。

だから、この忌々しい穏健派もこの場にいた。


『……ムノー様。どうして、人間界を侵略するのでしょうか?』

『それはもちろん、資源を略奪するためだ。お前も知っているはずだろう。何度も説明したはずだ』


今現在、魔界は深刻なエネルギー不足に悩まされている。

我らの糧である魔石が枯渇しそうなのだ。


『お言葉ですが……彼らから奪うのではなく、分けてもらうのです。その見返りとして、私たちの……』

『やかましい! まだそんなことを言っておるのか! 人間どもの物は、魔族の物だ!』


だが、穏健派など魔族の面汚しもいいところだ。

なぜ魔族のような高貴な存在が、人間どもと取引せねばならんのだ。


『魔石不足についても、私が開発した装置があるではないですか』


そういえば、ユーノは魔石製造装置とやらを作っていたな。

その名の通り、魔石を生み出す装置だ。


『……フンッ、生産量が少なすぎる。あんなもの、意味は無いわ』


魔族は魔石を食べるほど強くなる。

もちろん、人間界へ行くのにも必要なエネルギーだ。

枯渇するに決まっている。


『ですから、もう少し節約していただければ、十分賄えるはずなのです』

『うるさい! 引っ込んでおれ!』

『で、ですが……』

『いい加減にしろ! それ以上、ふざけたことをぬかすのであれば、魔界から追放するぞ!』

『……ッ!』


余が怒鳴りつけると、ユーノは押し黙った。

フンッ、この小心者め。

度胸もないくせに、しゃしゃり出るんじゃない。

他の幹部たちも、ユーノをせせら笑っていた。

しかし、こいつを言い負かしたところで、問題はまだまだある。


『人間界には、そう何度も行き来できないぞ。現に、今回の一件でだいぶ魔界の魔力を使ってしまった』


魔界にとって人間界は異世界だ。

逆もまた然り。

異なる世界を往来するには、多大な魔力を必要とする。

慢性的な魔力不足に陥っている現状では、しばらく人間界への侵略は難しいかもしれない。


『魔王様、俺に考えがあります』


その時、三大魔卿の一角、グリワ・メイモンが出てきた。

こいつは4つの鋭い目と、4本の太い腕を持っている。

そして、その全身には魔界でも二つとない、魔族アイテムを装備していた。


『なんだ、言ってみろ』

『人間どもを利用するのです』

『ふむ……詳しく話せ』

『人間どもの中には、邪まな心を持った者がたくさんいます。暴力欲、破壊欲、自己顕示欲、支配欲……そう言った欲が深い者に、こちらから接触するのです。お前の望みを叶えてやるから、俺たちに協力しろと』

『……ほぅ』


なかなかに、面白い案を出すではないか。


『人間どもを操れば、俺たちが人間界に行く手間もありません。それに、レイク・アスカーブが休む時間も削れます』

『なるほど……だが、手駒にできそうな人間の目星は、ついているのか?』

『ご心配なさらず。すでにいくつか目をつけております』


そう言うと、グリワ・メイモンは意味ありげにニヤリと笑った。


『それで、具体的にはどうするのだ?』

『俺が作ったアイテム――魔族アイテムを、選んだ人間に与えるのです』

『貴様の特殊能力か』

『いかにも』


三大魔卿には、それぞれ特別な力がある。

こいつは作った魔族アイテムを持たせれば、その存在がいる世界に転移できる。


『手頃な人間にレイク・アスカーブを襲わせ、弱ったところを仕留めて参ります』

『では、お前に任せるとするか。よし、さっそく取り掛かれ』

『かしこまりました』


グリワ・メイモンは意気揚々と大会議室から出ていく。

それを、ユーノは厳しい表情で見送っていた。

まったく、強情なヤツだ。

さてさて、しばらく楽しませてもらうとするか。

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