第39話:そして英雄に

「レイク殿のお見えであーる! みなの者、拍手!」

「「わあああ! レーイーク! レーイーク! レーイーク!」」

〔ダーリン、最高!〕


俺は王宮のバルコニーに立っていた。

そして、眼下には民衆がたくさん集まっている。

呪いの精霊を倒してから数日後。

国の英雄ということで、俺は称えられていた。


「レイク殿! お主に英雄の称号を与える! 受け取ってくれたまえ!」

「あ、ありがとうございます」

〔良かったわね、ダーリン〕

「いいぞー! レイクー! あんたは国の英雄だー!」

「あなたは私たちにとって、とても大切なお方です!」

「ありがとう、レイクさん!」


俺は王様から、大きなトロフィーをもらった。

全て金で作られているようで、とても重い。

民衆たちは、笑顔で手を振っていた。


「アハハ……」


俺もぎこちなく手を振り返す。

称えてくれるのは嬉しいが、やっぱりこういうのは慣れないな。


「さあ、レイク殿。今日は忙しいですぞ。この後、国の大臣たちと会食があって、夜には晩餐会が……」

「は、はぁ……」


呪いの精霊たちをやっつけてから、ずっと宴の毎日だった。

さすがに、これ以上してもらうのは悪いよな。

俺は自分にできることをやっただけだし。


「ああ、そうだ! レイク殿の銅像も建てますかな! 英雄になられたわけだから、何もなしというわけにもいかないでしょう!」

〔ダーリンの像なんてできたら、国中の人が集まってきちゃうわよ! なるべく、本物に似せてよね!〕

「もちろん、国で一番の職人に作らせましょう! レイク殿、期待していてくださいな!」

〔デザインはどうしましょうかしらね。やっぱり、きりっとした感じが良いと思うんだけど〕

「何種類か作ってはいかかがですかね。剣を構えているところ、魔法を使っているところ、ポーズにもこだわって……」


ま、まずい。

このままでは、どんどん話が進んでしまいそうだ。

俺は大慌てで、二人の間に入った。


「や、やめてください。王様! 俺の銅像なんて、恥ずかしくてしょうがないですって!」

「これは失礼した、レイク殿」


よかった、わかってくれたみたいだ。

さすがは、カタライズ王。

賢明なお方だ。


「金の像じゃないとダメだったな」

「そうじゃなくてですね」


俺の像なんて建てられたら、恥ずかしさで街が歩けなくなりそうだ。

なんかミウも乗り気だし。

どうにかして中止させないと。

な、何か良い案はないか。

とりあえず家に帰ろう。


「あの、そろそろ、家に帰ろうと思うのですが……」

「そんな、寂しいことを言わないでください! そうだ! ミウ殿との結婚式も一緒に行うというのはどうでしょうかな?」

〔さっすが、王様ね! 話が早い! 明日でも構わないわ!〕

「よし! そうと決まったら、さっそく手配をしよう! おい、今すぐ係の者を呼べ! 国で一番豪華な結婚式を開くんだ!」

「いや、ちょ」


頼むから、俺を置き去りにしないでくれ。

そして、気がついたときには、ブライダル関係っぽい人たちが集合していた。

ど、どこから出てきたんだ。

そのまま、彼らは何やらコソコソ話しだした。


「レイク様とミウ様の結婚式だ。かつてないほど、盛大にしよう。他国からもお招きするんだ」

「まずは場所を決めないとですね。王都でやるのは絶対として……」

「お二人の新婚旅行先なんですが……」


そのとき、ミウがくっついてきた。

いつものむぎゅむちっだ。


〔みんな私たちのためにセッティングしてくれるなんて、嬉しいわね〕

「お、おお……」


いや、ミウと結婚するのがイヤなわけじゃないんだ。

たぶん幸せな生活を送れるだろうよ。

だけど、こういうのはもっと段階を踏んでだな……。

とそこで、衛兵が入ってきた。


「お話し中、失礼いたします!」

「どうした? 今レイク殿の結婚式を考えているところなのに……」

「こちらの方々が、レイク様にお話しがあるそうです! どうしても、ということなので、お連れしました!」


俺に話?

なんだろう。

もしかして、また偉い人か!?

王様と話すだけでも、肩が凝ってしょうがないんだが。

と思ったら、村娘、ベテラン冒険者、貴族の息子って感じの人たちが入ってきた。

俺は少しホッとする。


「「あの、レイク様でいらっしゃいますか?」」

「は、はい、そうですが……って、うわっ」


名乗った瞬間、ズダダダダ! と、すごい勢いで走ってきた。

俺の顔にあたりそうなほど、身をせり出している。


「村長が悪魔と契約しちゃって、村人たちが取りつかれてしまったんです!」

「俺んとこのギルドマスターが、魔族に冒険者を売っているんだ!」

「僕の国では王が復活させた古龍が、大暴れしていて大変なんです!」

「「助けてください、レイクさん!」」


な、なんだ、依頼?

あっという間に、俺は囲まれてしまった。

三方向から、ぎゅうぎゅうに押される。


「そ、そんな急に言われても……」

〔ダーリンったら、大人気ねぇ。私も嬉しいわ〕

「な、なんとかしてくれ、ミウ」


ミウはとても喜んでいる。

だが、俺はぎゅうぎゅうで苦しい。

た、頼む、助けてくれ。

とそこで、もっとたくさんの人がなだれ込んできた。


「「レイクさん! 私の依頼も受けてください!」」

「うわあ、なんだ!?」

「ハッハッハッ! みな、レイク殿を頼りに来たんですよ! いやぁ、レイク殿はもう民の心を掴んでしまったのですな! そんな人は、なかなかいないですぞ!」

〔ダーリンの魅力は、とどまるところを知らないってことね!〕


王様とミウは、嬉しそうに笑っている。

いや、笑ってないで助けていただきたいのだが。


「レイクさん! ぜひ私の依頼を最初にお願いします!」

「いいや! 俺の依頼を一番にやってくれ! もうアンタしかいないんだよ!」

「僕を先にお願いします! 報酬は弾みますよ! 国を1つ差し上げる、というのはどうでしょう!」

「あ、あの、ちょ」

〔じゃあ、一人ずつ並んでね。順番に解決していくから〕

「「はい!!」」


ミウの合図で、民衆は即座に一列になった。

みんな俺のことを、めっちゃキラキラした目で見ている。

おいおいおい、マジかよ。

傭兵としてのんびり暮らすはずが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る