第38話:いつもありがとう、ダーリン(Side:ミウ①)

「だ、誰だ、お前は!?」


ダーリンに始めて会った日を、私は今でも覚えているわ。

あの日、私は指輪から出てこれた。

それまでは、ただただじっと待ってたの。

いつか外に出れたらいいなって。


「そ、そうか…………すまん、取り乱したな。俺はレイク・アスカーブだ」


ダーリンは私を見て、驚いていた。

そりゃそうよね。

いきなり、指輪から呪い魔神が出てきたら……。

でも、ダーリンは私を、いつも普通の女の子として扱ってくれている。

今の生活が快適すぎて、自分でもたまに忘れるくらいだわ。


「そうだな、色々あって疲れたよ……って、どこに泊まるんじゃい」


人間って温かいのね。

生まれて初めての感覚に、私はビックリしていた。

だけど、とても心地良かったわ。

初めて、誰かと一緒に寝た。

ダーリンの温もりは、本当に心が落ち着く。


「よし、そうするか。いやぁ、しかし、素晴らしい日々だったな」


ダーリンがどんどん強くなっていくのを見るのは、とても楽しかった。

でも、ダーリンが各種呪われた即死アイテムをゲットしたときは、私ちょっとスネちゃった。

だって、とても嬉しそうだったんだもん。

そして、ダーリンは私を外に連れ出してくれた。


「………………傭兵かぁ」


ダーリンは冒険者がイヤそうだったから提案してみたけど、案外気に入ってくれたみたい。

のんびり暮らしたい、みたいなこと言ってたわね。

でも、どんどん理想から離れていってるみたい。

ダーリンみたいな魅力があったら、しょうがないわよ。


「ふぉ、ふぉんものですよ」


セレンさんとかいう女の人を見たときは、少しドキッとしちゃった。

まさか、ダーリンと……!

なんていう妄想もしたけど、別に何もなさそうで良かった。

そして、マジックドラゴンを倒しに行ったのよね。

見事な瞬殺だったわ。


「街の近くで封印されていた、超強いSランクモンスターだよ。どうして、封印が……」


ネオサラマンダーが街を襲っていたときも、ダーリンは我先にと戦っていたわ。

すぐにベストな判断もしていたし、ダーリンはリーダーシップがあるね。

いくら強くても、一番最初に飛び込むのは難しいものよ。

街の人たちがダーリンを慕っているのを見て、私もとても嬉しかった。


「おい、ミウは物じゃないぞ」


ヘンタイ勇者が絡んできたときも、ダーリンは私を守ってくれた。

ミウは物じゃない、って言ってくれたときは、本当に嬉しかった。

だって、私は呪われた即死アイテムから生まれた存在だから。

こんな私でも、人扱いしてくれている。

ダーリンみたいな優しい人に出会えて、私は本当に幸せだわ。


「おお……なんてカッコいい屋敷なんだ」


そんなことがあって、私たちの新居が決まったわけね。

見た目はそれほど悪くないし、何よりダーリンが気に入った家に住むのが一番よ。

中はとても広かったのが良かったわね。

もうちょっと、明るい家具があってもいいかもしれないけど。

まぁ、いくら広くても絶対にダーリンと一緒に寝るけどね。


「いえ、俺は自分にできることをしただけです。ミウや他の冒険者たちにも、助けてもらったわけですから」


魔族たちが襲ってきたときも、ダーリンは本当に強かった。

私は屋敷で応援していたけど、ダーリンが絶対に勝つとわかっていた。

あのレベルの敵を瞬殺できる人なんて、他にいないでしょうね。

ダーリンは呪われた即死アイテムのおかげだと言っているけど、それを使えるダーリンが一番すごいのよ。


「お、俺ですか!? いや、無理ですよ! そんな、勇者なんて大役!」


勇者になってほしい、と頼まれるなんて、とても名誉なことね。

誰でもいいわけではないのよ。

みんなのリーダーになる人は、強いだけじゃダメ。

他人を思いやる心や、寄り添う気持ちがとっても大切なのよ。

ダーリンにはピッタリだと思うわ。


「頼むから、受け身の準備をしてくれ」


王都に来たときも、ダーリンはいつも通りだったわね。

ポンコツ賢者と戦って、魔法を使わずに勝てる人なんて、ダーリンくらいでしょう。

しかも、ケガさせないように加減もしてね。

相手をボコボコにしないところに、ダーリンの優しさを感じるわ。


「へえ、すごいパワーの魔法だ。魔族があっという間に吸い込まれていくぞ」


ダーリンは感心して見ていたけど、王様たちは口が空きっぱなしだったわ。

あんなに強い魔法は、そうそうないもの。

魔族たちにも無双していたわね。

ああいうのを、格の違いって言うのよね。

ダーリンの実力は世界一だと思うわ。


「さあ、どいてくれ。王都を救うには、呪いの精霊を出した原因をどうにかしないといけないんだ」


せっかく魔族を撃退したのに、世界を滅ぼしかけた呪いの精霊が復活した。

でも、ダーリンにとっては、そこらへんのモンスターと変わらなかったみたいね。

ダーリンがいなかったら、今ごろ世界はどうなっていたことやら。


私は世界を焦土に変える呪い魔神。

だけど、ダーリンのおかげで、そんなことをしないで楽しく暮らせているわ。

他の人たちと同じように冒険したり、おいしいご飯を食べたり、大切な人と一緒に寝たり……。

私は毎日が、幸せでいっぱい。

だから、これだけは言わせてね。


いつもありがとう、ダーリン。

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