第35話:末路(Side:ダウンルック②)

「ダウンルック! 貴様のせいで、国が滅びかけたんだぞ! わかっているのか!?」


私は王の間で、横たわっていた。

体が縄で縛られていて、全く身動きできない。

かなり固い上に、ギチギチだ。

そして、首に何かつけられているのに気づいた。

なんだ?

……こ、これは魔力封じの枷じゃないか。

しかも、私が開発した魔道具だ。

い、いったいどういうことだ。


「こ、国王陛下、縄をほどいてください。私は大賢者です。これ以上このような仕打ちをするのであれば、魔法開発に協力しませんぞ!」

「黙れ! 貴様は大賢者でもなんでもない! ただの愚か者だ! 恥を知れ!」


なんだと!

このっ、言わせておけば……。

国王だからしぶしぶ言う通りにしていたが、それもここまでだ。

この説教が終わったら、なぶり殺しにしてやる。


「国王陛下、そのようなことをおっしゃってよろしいのですかね。私が反旗を翻したらこの国は……」


クックックッ、脅すような感じで言えば、すぐに撤回するだろう。

しかし、カタライズ王が言ってきたことに、すごい衝撃を受けてしまった。


「貴様はワーストプリズン島に収監する!」


……………え?

今、なんて言ったんだ?

あの恐ろしい島の名前が聞こえたが。

はは、まさかな。

カタライズ王も冗談が下手だ。

きっと、私を脅すためのウソだろう。

念のため、もう一度聞き直してみるか。


「き、聞き間違いだと思いますが、ワーストプリズン島とおっしゃられたのですか? 何もそこまで……」

「だから、そうだと言っておるであろう! もう貴様にはこりごりだ! 二度と、この国の土は踏めないと思え!」


カタライズ王に思いっきり怒鳴られ、私はビクッとした。

周りの人間は、私を冷ややかに見ている。


い、いったい、どういうことなんだ?


そのとき、あの鎧騎士に気がついた。

呪いの精霊を圧倒し、私が暴走させた闇魔法を鎮めた人物だ。

その隣には、銀髪女神がいた。

彼女はレイク・アスカーブと一緒にいたはずだが……。

きっと、愛想をつかして乗り換えたんだろうな。

クソッ、本当ならあそこには私がいたはずなのに。

とりあえず、命乞いしておくか。


「こ、国王陛下! 今一度、お考え直し下さい! どうか、ワーストプリズン島だけはやめてください!」

「ダウンルック! 貴様は禁忌を破っただけでなく、国を滅ぼしかけた! 本来なら死刑のところを、監獄行きにしてやったのだ! 感謝しろ!」


だが、カタライズ王は固い顔で怒鳴るだけだった。

少しずつ、心臓がドキドキしてきた。

ほ、本当にワーストプリズン島に連行されるのか?

大罪人しかいないという、あの最恐最悪の牢獄に。

そ、そんなの絶対にイヤだぞ。

私は必死に抵抗する。


「や、やめろ! 離せ、離さんか! 私を誰だと思っている! 今すぐ解放しろ!」

「うるせえ! お前のせいで大変な目に遭ったんだよ! 俺たちがどんなに怖い思いしたかわかってんのか!?」

「今さら逃げられると思うな! この大罪人が!」

「一生俺たちの前に出て来るんじゃねえ!」


だが、魔法の使えない私は無力もいいところだった。

そのまま、ずるずると引きずられていく。

も、もはやこれまでか。

そのとき、鎧騎士の前を通った。

私は最後の力を振り絞って抵抗する。


「こら、さっさと歩け! さもないと……」

「お、お願いです。鎧騎士様、あなたのお顔を見せてください」


私は鎧騎士の足元にすがりつく。

最後に、私の救世主に感謝を言いたいのだ。


「わかった」


鎧騎士は、ゆっくり兜を外していく。

それにしても、全身から強者のオーラがにじみ出ている。

きっと、すごい力の持ち主なんだろう。

どんなお顔かな。

老練の騎士とか?

いや、もしかしたら、人じゃないかもしれない。

あれ、この声はどこかで聞いたような気が……。


「ダウンルック、自分の罪をしっかり反省してこい」


……………は?

どういうことだ?

兜を外したら、レイク・アスカーブが出てきたぞ?

あのクソ冒険者だ。

なぜお前がここにいる?

なんで、なんで、なんで。

鎧騎士はどこに行った?

だが、イヤでも実感してくる。



私がすがりついたのは、レイクだった……てこと?

あんなにバカにしていたヤツに、命を助けられた?

おまけに、ぶざまにすがりついて?



その瞬間、私の中で何かが壊れた。


「うわあああ! そんなわけないよおおお! ママァー!」

「お前たち、ダウンルックを取り押さえろ!」


カタライズ王の号令で、衛兵たちがいっせいにのしかかってくる。


「暴れるな! このバカ!」

「おとなしくするんだよ!」

「お前なんか、ただの厄病神だ!」

「ぐっ……い、息が……」


そして、私は気絶した。



□□□



「うっ……ここは、どこだ?」


気がつくと、私は見知らぬ部屋にいた。

狭くてジメジメしていて、とても不快なところだ。

どこかに連れられて来たようだ。

まずは状況を把握しないと……。

そこで、少しずつ暗闇に目が慣れてきた。


「こ、これは鉄格子じゃないか! いったい何がどうなっている!?」


私の目の前には、鉄格子がはめられていた。

どこからどう見ても、ここは牢屋だ。

いったい、どうして。

そのとき、女の怒号と男の悲鳴が聞こえてきた。


「この先どうやって生きていけばいいの!? 全部、アンタのせいよ!」

「死んでお詫びをしろ!」

「オラァ! 死ね、このブタ!」

「ひいいいい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


な、なんだ?

なにが起こっている?


「漏らしてばっかで汚ねえんだよ、このやろう!」

「向こうに行ってくださる!? 臭くて息もできませんわ!」

「なんでこんなヤツと、パーティー組んじゃったんだろう!?」

「うわああ! もう勘弁してくれええ!」


両隣の部屋から、罵倒と悲鳴が聞こえてくる。

拷問でもされているのか?

と、とんでもないところに来てしまった。

早く脱出しないと。


「よ、よし、とりあえず転送魔法を使おう。まずは魔法陣を描いて……な、なに!?」


私の両手首に、輪っかがつけられていた。

魔力封じの枷だ。

こ、これでは魔法が使えないじゃないか。

どうすればいいのだ。

そのとき、看守が通りかかった。

私は必死になって叫ぶ。


「お、おい! ここはどこだ! どうして、私を閉じ込めているんだ! 早く出してくれ!」

「こんな人が大賢者様なんてね、世も末だよ」

「どうしてってさ。あんた、闇魔法を暴走させちまったんだろ? 監獄に入れられるのは、当たり前だろ」

「ま、せいぜい魔法の研究でもしていてくださいや。このワーストプリズン島でね」


そう言うと、看守たちは笑いながらどこかに行ってしまった。

ワースト……プリズン島……。

ほ、本当に連行されてしまったのだ。

なんで……なんで、禁断の闇魔法なんて使ってしまったのだ。

プライドなんか捨てて、レイクとともに戦えば良かった……。

だが、今さら後悔しても、もう遅い。

暗い牢獄の中、私はどん底に落ちていった。

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