第34話:王都をあっさり救う

「うわあ! なんだ、貴様ら! どこから入ってきた!?」


1秒後、俺たちは暗い部屋に来た。

中はぐちゃぐちゃで、物が散らかっている。

目を凝らすと、奥の方にダウンルックがいた。

ここで何かがあったことは、間違いないだろう。


「ダウンルック! お前が呪いの精霊を解放したのか!? 王都が襲われて、大変なことになっているんだぞ!」

〔住民たちは恐怖に震えているわよ〕

「だから、貴様らは何者なんだ!? どうして、ここがわかった!?」


兜をつけている上に暗いので、俺だとわかっていないようだ。

だが、名乗っている暇はなかった。

さっさと呪いを無力化しないと。

精霊たちが、いつ大暴れするかわからない。


「ダウンルック、何があったか教えるんだ!」

「わ、私は何もしていない! これはちょっとした事故なんだ!」

〔ここに全ての原因があるはずよ!〕

「このままでは、王国が大変なことになってしまうぞ!」


俺たちはダウンルックに近づいていく。

ヤツは震えていた。


「ま、待て! 来るんじゃない! あっちに行け! 今すぐ、この部屋から出て行くんだ!」


ダウンルックは両手を広げて、立ちはだかっている。

何かを隠そうとしているらしい。


「さあ、どいてくれ。王都を救うには、呪いの精霊を出した原因をどうにかしないといけないんだ」

〔あなたのせいで、みんなが迷惑しているのよ〕

「うわっ、や、やめろ! 見るな!」


ダウンルックをどかすと、奥の方に大鍋があった。

グツグツ沸騰して、どす黒いオーラを放っている。


「こ、この鍋はなんだ……? 呪われた即死アイテムみたいなオーラがあるぞ」

〔どうやら、失われた闇魔法を解読してしまったようね。これは、呪いの精霊を呼び出すための魔道具よ〕


やっぱり、ダウンルックがこの騒ぎを起こしたらしい。


「こ、これは……私が力を得るために、必要なことだったんだ!」

「まったく、大賢者様なのに何をやっているんだ」

「なんだと! 私は王国のために、闇魔法の研究をしていたんだぞ! ただでさえ忙しいのに、時間を作って!」

「いや、違うな。お前のためだろうがよ」

「ぐっ……」


ダウンルックは、悔しそうな顔をしていた。


〔ダーリン、この大鍋が全ての原因だわ! 無力化しちゃって!〕

「よし、《解呪》!」

「やめろおおお!」


俺は大鍋に魔力を注ぎ込んでいく。

すると、どす黒いオーラがどんどん薄くなっていった。


「やめろ、やめてくれええ! 何をするんだよおおお! せっかく、ここまで頑張ったのにいいい!」

「コラ、離れろ、ダウンルック」

〔いい加減にしなさいよね、あんた〕


ダウンルックがしがみついてくるが、構わず魔力をつぎ込む。

国の危機がかかっているのだ。

手を緩めるつもりは、全くない。

やがて、大鍋からどす黒いオーラが完全に消えた。


「こんな感じかな」

〔これで呪いの精霊は出てこないし、地上にいるヤツらも消えてしまうわ〕


とそこで、ダウンルックが悲鳴を上げた。


「うわあ! 助けてー!」

「あっ、ダウンルック!」

〔ダーリン! まだ残ってたヤツがいるわ!〕

【ケケケケ!】


隠れていた呪いの精霊が、ダウンルックをつまみ上げた。

大きな口を開けて、今にも飲み込みそうだ。


「も、もうダメだー! 喰わないでくれー! まだ死にたくないよおお!」

「《解呪》!」

【グアアアア!!!】


俺は即座に魔力弾を放って、呪いの精霊を打ち消した。

ダウンルックは、ドサッと床に落ちた。

ヤツはブルブル震えている。

よっぽど怖かったらしい。


「危なかったな、間一髪ってヤツだ」

〔これで、呪いの精霊はいなくなったはずよ〕


俺たちは、慎重に部屋の中をみる。

他に精霊はいないようだった。


「さてと、大丈夫か、あいつ?」


俺はダウンルックに近づいていく。

見たところ、ケガはなさそうだが……。

とそこで、いきなりダウンルックは泣きはじめた。


「うわああ! 助けてくれてありがとうございますううう! ママァー!」

「な、なんだ?」

〔気持ちわるー〕


ダウンルックは、俺の足元にすがりついている。

涙と鼻水で、顔面ぐしゃぐしゃだった。

めちゃめちゃ汚いな。


「いや、離れろよ、ダウンルック。そもそも、俺はお前のママじゃねえし」

「怖かったよおおお! ママァー! ママァー!」

「お、落ち着けって」

「えーん! まさかこんなことになるとは思わなかったのおおお! 呪いの精霊が勝手に暴れたのおおお!」

「お、おい、ダウンルック……どうした……?」

〔うわぁ……〕


やがて、騒ぎを聞きつけて、住民たちがやってきた。

みんな、あぜんとしている。


「お、おい、ダウンルック様の様子がおかしいぞ」

「呪いの精霊……って、大賢者様が呼び寄せたの?」

「もしかして、ダウンルック様がやったのか? 大賢者様が?」


もちろん、その中には王様もいる。


「ダウンルック、これはいったいどういうことだ……!」


王様は怒りを押し殺している。

だが、全身から怒りのオーラがにじみ出ていた。

住民たちは、ダウンルックを怒りの目で見ている。


「ぼくは悪くないのおおお! 呪いの精霊がいけなかったのおおお!」


ダウンルックは、いつまでも泣き叫んでいる。

やれやれ、こいつもやらかしマンだったわけか。

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