第33話:呪いの精霊に無双する

「レイク殿、お主は王都の救世主だな。レイク殿に勝てる者は、この世にいないであろう」

「いえ、そんなにすごいことではありませんから……」

「まぁまぁ、謙遜せずに……さあ、レイク殿にもっと食べ物とお飲み物を持ってくるんだ!」


魔族から王都を守った功績が称えられ、盛大な宴が開かれている。

グランドビールのときもすごかったが、今回はその比じゃなかった。

どでかい鳥の丸焼きだとか、色とりどりの果物たち、高そうなロブスターなんてものもある。

ご、豪華極まりないな……。

しかし、ダウンルックの姿が見えなかった。

ここ数日、どこにもいないそうだ。


「まったく、ダウンルックはどこにいるのだ。レイク殿を労う宴だというのに……」

「いや、まぁ忙しいんじゃないですかね」

〔私としては、あの人がいない方がいいわ〕


しばらく食事を楽しんだあと、俺は王様に話しかけた。


「あの、王様。俺たちはそろそろグランドビールに帰ろうと思うのですが」

「なに、もう帰ってしまうのか? 少し早すぎないかね」


王様はしょんぼりしている。

とても寂しそうだ。

ミウが小声で話してきた。


〔王様はダーリンのことを、ずいぶん気に入っていたみたいだけど。もうちょっと王都にいない?〕

「ずっと話していると、さすがに緊張するって」


う~ん、どうしようかな。

王様は良い人だけど、自分の家に帰りたい気持ちもある。


「うわああ! 助けてくれー!」

「誰かー! このままじゃ、死んでしまいそう!」

「ひいい! お助けをー!」


そのとき、人々の叫び声が聞こえてきた。

それも、かなりの大人数だ。


「なんだ、どうした!?」

〔ダーリン、あれ見て!〕

【アハハハハ!】


街が何かに襲われていた。

そいつらは奇妙な形をしていて、とても不気味だ。

全身から、見覚えのあるどす黒いオーラを放っている。


「あんなヤツら、初めて見るが……住民たちが襲われているぞ」

〔あれは呪いの精霊よ。これは大変ね。ダーリンじゃないと倒せないわ〕

「マ、マジかよ」


その言葉を聞いて、俺は驚いた。

大昔、世界を滅ぼしかけた、危険な精霊じゃないか。

モンスターでも魔族でもない、全く別の存在だ。

とりあえず、戦闘態勢に入ろう。

呪われた即死アイテムよ、来い!

俺は即座にフル装備になる。


「こ、これはどういうことだ……」


そのとき、王様が出てきた。

街の様子を見て、呆然と立っている。


「王様、大変です。街が……」

「あ、あれは……呪いの精霊じゃないか。いったい、どうして。このままでは、国が滅びるぞ。封印されて久しいはずなのに、なぜこんなにたくさんいるのだ。誰かが復活させたのか?」


警備隊が戦っているが、全然攻撃が効いていない。


「お、おい! こいつらはいったいなんだ!? 魔法攻撃も物理攻撃もまるで効かないぞ!」

「わかりません! 突然現れて、我々を襲って……ぐあああああ!」

「クソっ、ダウンルック様はこんなときに、どこにいらっしゃるんだ!」


まったく歯が立たないって感じだ。

呪いの精霊は警備隊を蹴散らしながら、人々を追いかけまわしている。

さらには建物を破壊し、火を放ち、やりたい放題だ。

今すぐに止めないと、大変なことになる。


〔ダーリン、いくら強くてもあれは呪いの一種よ! 《解呪》のスキルで消せるはずだわ!〕

「そ、そうか! よし、《解呪》!」


俺は呪いの精霊に向かって、魔力弾をどんどん撃つ。

もちろん、手加減などいっさいなしだ。


【ギャアアア!!!】


魔力弾が呪いの精霊に当たるたび、あっという間に消えていった。

やっぱり、俺の《解呪》は効果がばつぐんらしい。


「しかし、呪いの精霊はたくさんいるな。しかも、どんどん増えていないか? とはいえ、まずは住民たちを守るのが先だな」

〔そうね〕


俺は【闇の魔導書】をめくっていく。

この状況にピッタリな魔法があった。



《ダークネス・ネオバリア》

ランク:SSS

能力:何者もよせつけない結界を展開する



「これで住民たちを守ろう。《ダークネス・バリア》! 対象は、全ての住民!」


俺が呪文を唱えると、住民たちを黒っぽいオーラが覆った。

呪いの精霊が攻撃しているが、ビクともしない。

さすがは、闇魔法だ。


「す、すごいわ……レイクさんが守って下っているわ!」

「見、見ろ! ヤツらの攻撃をまるで通さないぞ!」

「レイクさんがいれば、この街も大丈夫だ!」


住民たちは、バリアの中でじっとしている。

幸いなことに、死者は出ていないようだ。

しかし、ちらほらとケガ人が見えた。

悪化する前に、回復させた方が良いな。



《ダークネス・ヒーリング》

ランク:SSS

能力:あらゆるケガを全回復させる



「次はこいつだ! 《ダークネス・ヒーリング》! 対象は全ての住民!」


俺が唱えると、住民たちが黒い光に包まれた。


「こ、今度はなに!? 信じられません、ケガが治っていきますわ!」

「これもレイクさんの魔法だ! こんな回復魔法があるのかよ!」

「すごい、腰が痛かったのまで治っちまったぞ!」


みんな、嬉しそうに騒いでいる。


「とりあえず、大丈夫そうだな。となると、呪いの精霊たちをどうにかしないと。1体ずつ退治していけばいいのかな」

〔ダーリン、これはどこかで闇魔法が暴走しているわ。大元を無効化しないと、呪いの精霊たちは消えないわ〕

「マジか、いったい何が起こっているんだ」

〔私はあの人が怪しい気がするわ〕


あの人と聞いて、俺も同じ人を思い浮かべた。

カタライズ王国の大賢者……ダウンルック。

まさか、あいつが何かやったのか?


「そうだな、俺もそう思っていたところだ。信じたくはないが、ヤツのところに行ってみるか。何かしら、事情を知っているはずだ」

〔あの人が何かしたに決まっているわ〕

「よし、《ダークネス・テレポート》! 行き先はダウンルックのいるとこ!」


そして、俺たちはヤツの居場所へ向かって行った。

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