第32話:格の違いを見せてやる(Side:ダウンルック①)
「おのれ、おのれ、おのれ、おのれ……! 許さん……許さんぞ、レイク・アスカーブ!」
私は地下への階段を、勢い良く歩いていた。
この先には、私の研究部屋がある。
カタライズ王も知らない、秘密の場所だ。
「今こそ、あいつを圧倒してやる! この私、ダウンルックの本気でな!」
私は禁忌とされている闇魔法の研究をしていた。
力を得るためだ。
もちろん、公にはできない。
だから、王国のくだらない仕事の合間に、研究を続けていた。
カタライズ王は、私のすごさを理解していないようだ。
私は、それがとにかくイヤだった。
「いずれこの国も、私の物にしてやるぞ。国民どもも、私のような人間に支配される方が、嬉しいに決まっている」
私は大賢者ということで、国民どもから崇められている。
だが、それだけでは到底満足できなかった。
私の上に誰かがいるということが、心の底から許せなかった。
「あのバカ王が。人が下手に出ていれば調子に乗りやがって。あれこれ指図してんじゃねえ。私のことを何だとも思っているんだ。不愉快極まりない」
バカどもを支配するのは、私のような大天才だ。
それなのに、カタライズ王は私を軽んじている。
そして、そこに現れたレイク・アスカーブ。
あいつはいささか、調子に乗っているようだ。
私に少しダメージを与えたからといって、勝った気になっている。
しかし、あれはまぐれだ。
言っておくが、あのときの私は本気を出していなかったのだ。
「私が全力を出せば、あのゴミなど一瞬で倒せる……しかし、あんなヤツでも使い道はあるもんだな」
素晴らしい美女を連れてきたのだ。
たぶん、私への献上品ということなのだろう。
レイク・アスカーブを倒した暁には、あの銀髪女神を私の物にしてやる。
私のような大天才には、彼女みたいな美人でないと釣り合わないからな。
そして、先ほどの闇魔法は、きっとニセモノに違いない。
「私は絶対に信じないぞ。あいつが使ったのは、決して闇魔法などではないんだ。失われた闇魔法を使うのはこの私、ダウンルックだ」
そうこうしているうちに、秘密の研究部屋に着いた。
ここには闇魔法に関する、あらゆる書物や道具がある。
私の長年の研究成果だ。
闇魔法を支配すれば、カタライズ王国どころか、この世界だって手に入れられる。
「クックックッ、その日も近い……」
つい最近、私はある闇魔法の解読に成功した。
呪いの精霊という、かつて世界を滅ぼしかけた精霊を呼び出すのだ。
これは禁断の魔法とされているが、そんなことは関係ない。
こいつらを使って、レイク・アスカーブを倒し、この国を私の物にしてやるぞ。
当たり前だが、これはクーデターではない。
今こそ、正義を執行するのだ。
「レイク・アスカーブめ……格の違いを見せてやる……!」
私は大鍋に、色んな材料を入れていく。
煎じて飲むと寿命が100年延びるとされる百年草、不死と言われているエモータル・ドラゴンの血、などなど……。
どれもSランクで、珍しいものばかりだ。
各地から集めるのに、かなり苦労した。
「さあ、ここからが本番だ」
私は魔力を集中する。
闇魔法を使うには、魔力の質をかなり高めないといけないからだ。
だから、レイク・アスカーブの闇魔法は、ニセモノだとすぐわかった。
あいつは適当に、魔法名を言っただけじゃないか。
「呪いの精霊よ……我がしもべとなりたまえ……」
私は闇魔法の呪文を唱えはじめた。
これだけ準備しても、闇魔法は簡単には使えない。
3日ほど、ぶっ続けで詠唱する必要がある。
だが、疲れたなど言ってられない。
あいつらを、痛い目にあわせてやるのだ。
やがて、詠唱しているうちに、室内が暗くなっていく。
「いいぞ、いい感じだ。この調子ならうまくいくはずだ」
私はどんどんのめりこんでいった。
□□□
「おお、すごい……すごいぞ! 私はついにやったのだ!」
3日後、どす黒いオーラに包まれた精霊たちが出てきた。
どれもこれも、強そうなヤツばかりだ。
もしかしたら、ランクはSを超えるかもしれない。
SSくらいあるんじゃないか?
一目見ただけで、魔力がかなり高いレベルだとわかる。
こいつらを見たら、レイク・アスカーブは肝をつぶすだろうなぁ。
私はあのゴミが驚く顔を想像し、楽しくなる。
「しかし、なんて強そうなんだ。魔族なんか、比べ物にならないぞ」
精霊たちは、静かに飛んでいる。
私の命令を待っているのだ。
私は強い部下を手に入れた気分で、とても気持ちよくなってきた。
「さあ、私のしもべとなり、レイク・アスカーブを倒せ! そして、この国を蹂躙するのだ!」
しかし、精霊たちは嬉しそうに飛び回っているだけで、私の言うことなど聞かない。
また復活して、喜んでいるようだ。
だが、言う通りにしてもらわないと、私が困る。
「お、おい、私の言う通りにしろ!」
【ケハハハ!】
「コ、コラ! 部屋を荒らすな!」
呪いの精霊たちは、私の大事な書物や魔道具を、めちゃめちゃに壊している。
は、早く止めないと部屋が壊れる。
それどころか、大鍋からどんどん新しい精霊が出てくる。
【アハハハハ!】
そのまま、呪いの精霊たちは研究部屋を飛び出して、どこかに行ってしまった。
「な、なんだったんだ。クソッ、呪いの精霊まで私をバカにするのか」
空腹を感じ、私は少し休むことにした。
力を蓄えて、もう一度挑むのだ。
「なんか変なヤツがいるわ! きゃー、痛い!」
「こいつら、モンスターか!? ……ぎゃあああ! 助けてくれえええ!」
「おい、早く警備隊を呼んでくれ!」
外から叫び声が聞こえてきた。
呪いの精霊が襲っているようだ。
私はイヤな汗をかいていく。
あれ? もしかして、これって……結構ヤバくないか?
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