第31話:魔族の軍勢に無双する

『ここが王都か。ふん、悪くないな。少々狭いが、人間どもがいなくなれば広くなるだろう』


魔族はまたテレパシーみたいな感じで話してきた。

しかし、こいつらはなんで人間を襲ってくるのだ。

魔界に住んでればいいだろうが。

もしかして、魔族が増えすぎたとか事情があるのか?

やがて、貴族たちも気づいたようで、次々に悲鳴をあげた。


「きゃー! なにあれ! 空を見て、気持ち悪いのがいっぱいだわ!」

「ま、魔族だー! おい、早くそこをどけ!」

「うるさい! 俺が先に逃げるんだよ!」


だが、パニックがひどくなるだけだった。


『フハハハ! やはり、人間どもは愚かだな! 見ているだけでおかしくなるわ!』


先頭にいるヤツは、エビル・デーモンを3倍にしたくらいの大きさだ。

頭の横から、うねうねした角が2本生えている。

鋭くて大きな爪もあった。

たぶん、こいつがボスで間違いないな。

衛兵たちが、呆然と眺めている。


「あ、あいつは、ルシファー・デビルだ!」

「な、なんだって!? これは大変なことになったぞ!」

「お、俺たちはここで死んじまうのか!?」


ルシファー・デビルも、Sランクだ。

だから、一般的にはめっちゃ強いヤツってことだな。

ざっと見た感じ、周りの魔族たちもランクが高そうだ。

どいつも凶悪なツラしてやがる。

ルシファー・デビルを中心に、結界を張っているらしい。

今も衛兵たちが弓矢で攻撃しているが、弾かれるだけだった。


『さあ、貴様らの領土を渡すがいい! 我ら魔族が代わりに地上を治めてやろう!』

「渡すわけないだろうがよ。いくらなんでも自分勝手すぎるぞ」

〔魔族って、こんなヤツしかいないのかしらね〕

「レ、レイク殿、魔族がたくさんいるぞ……!」

「王様は危ないので、下がっていてください」


さて、どうやって倒そう。

こいつらは街の上を飛んでいるから、落ちたりすると大変だよな。

そうだ、あの魔法を使ってみるか。

ちょうどいいヤツがあったはずだ。


「《ダークネス・ブラックホール》! 対象は魔族全て!」


すると、上空に黒くて大きな穴ができた。

見るからにヤバそうだ。

王様もダウンルックも、ビックリしている。


「おお、あれはいったいなんだ。我が輩も初めて見る魔法だ」

「ま、まさか、あれは闇魔法じゃないか。どうして、こんなヤツが使えるのだ」

〔ダーリンは特別なのよ〕


黒い穴は、ゴゴゴ……と唸っている。

と思ったら、魔族の群れを吸い込み始めた。


『ぐっ……な、なんだ、これは……!』

『す、すさまじい力だ……!』

『ダ、ダメだ……ふりきれない……!』


黒い穴は、魔族をどんどん吸い込んでいく。

王様やダウンルック、衛兵たちも驚いているばかりだ。


「レイク殿! お主は素晴らしい魔法使いだ!」

「ま、まさか……ありえるのか……? 私ですら使えなかった闇魔法が……こんなあっさり……」


俺も感心して見ていた。

やっぱり、派手な魔法は気持ちいいな。


「へえ、すごいパワーの魔法だ。魔族があっという間に吸い込まれていくぞ」

〔さすがは、ダーリンね。こんな魔法も簡単に使えちゃうんだから〕


そのうち、街にいる貴族たちの声も聞こえてきた。

みんな、上空を見つめている。


「お、おい、あれを見ろ! 魔族が吸い込まれていくぞ! 誰が魔法を使っているんだ?」

「王宮を見て! あの冒険者が魔法を使っているみたいよ!」

「な、なんてすごい魔法を使えるヤツなんだ!」


いや、これが日常なんだよなぁ。

ま、この調子だと大丈夫そうだ。

後ろの方で、衛兵たちがコソコソ話していた。

小声だが、反響して良く聞こえる。


「なあ、大賢者様の魔法は全然効かなかったよな」

「もしかして、ダウンルック様って意外と弱いんじゃないの?」

「バカ言うな。あの冒険者の人が強すぎるんだよ」


こんなこと言われちゃ、ダウンルックもイライラしているだろうなぁ。

そんな中、ルシファー・デビルは、最後まで頑張っていた。

だが、もう限界なのが見てわかる。

すでに、体が半分くらい吸い込まれていた。


『ふっ、これがウワサに聞く呪われた即死アイテムか。すさまじい力だ。そして、それを使いこなすお前もまた、我らの脅威と……ぐあああああ!』


ルシファー・デビルも、吸い込まれていった。

黒い穴は、ピッタリのタイミングで消えている。

王都を襲った魔族は消え、平和が訪れた。

これでもう、万事解決だ。


〔やったわね、ダーリン! 強すぎよ、大好き!〕

「ミ、ミウ!? あんまりくっつくなって!」


こんなイチャイチャしているところを見られたら、さすがに失礼な気がする。

俺はチラッと王様たちを見た。

みんなポカンとしている。

ヤ、ヤバい……。


「レイク殿! お主のおかげで王都が救われましたぞ!」


いきなり、王様が抱きついてきた。

口ひげが当たって痛い……じゃなくて、王様はどうしたんだ?

と思ったら、衛兵たちも集まってきた。


「あんたがこんなにすごいなんて、思わなかったよ!」

「失礼な態度をとって、申し訳なかった! 謝らせてくれ!」

「もしかして、大賢者様と同じくらいの力を持っているんじゃないか!?」


そこでダウンルックを見ると、あいつはまた怒っているみたいだった。


「私は絶対に信じないぞ! お前などに闇魔法が使えてなるものか!」

「コラ、ダウンルック! レイク殿は王都を救ってくれたのに、なんてことを言うんだ!」

「この国で一番の魔法使いは、私なのです! この事実は、絶対に変わりません!」


ダウンルックは、ずかずかと地下に行ってしまった。

もうちょっと仲良くしてくれてもいいのにな。

大賢者とか呼ばれたりすると、気難しくなっちまうのだろうか。


「お気を悪くしないでくれ、レイク殿。ダウンルックは、プライドが高いところがあってな。後で我が輩から言っておこう」

「いえ、俺は別に大丈夫ですから」

〔ダーリンは優しいわねぇ〕


ということで、俺は無事に魔族の襲来を撃退した。

これで、王都にも平和が訪れるはずだ。

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