第30話:魔族の再来

「な、なに!? 魔族の襲来だと!? 王都に向かっているのか!?」

「はい! 辺境警備にあたっていた部隊から、連絡がありました。あそこを見てください!」


衛兵は窓を指した。

空を見ると、遠くの方で黒い点々がいっぱいある。

ぐんぐん、こちらに近づいていた。


「この前みたいにリーダーが魔族で、他はモンスターなのかな?」

〔いいえ、全部魔族よ。ずいぶん多いわね〕


こんなにたくさんの魔族なんて、初めて見るな。

今度は城を作らず、直接攻めてきたようだ。


「今すぐ住民を避難させろ! 迎撃態勢を整えるんだ!」

「し、しかし、パニックになっていて、避難誘導が上手くいきません!」


衛兵に言われ、街の方を見た。

道は大きな馬車で、あふれかえっている。


「おい、そこをどけ! 通れないだろうがよ!」

「お前こそ道を譲れ! 邪魔するな!」

「私を先に通しなさい!」


誰が先に避難するかで、もめにもめていた。

貴族たちは全財産を持って逃げようとしているんだろう。

みんな、すごい大荷物を抱えていた。

これでは、避難どころではない。


「王都警備隊はどうしたんだ!」

「住民で道がふさがっているせいで、警備隊も動けません!」

「な、なに!?」


よく見ると、貴族の中に武装した人たちがいた。

槍とか剣を持っている。

しかし、ぎゅうぎゅうになっていて、まるで動けないようだ。


「王様だけでもお逃げください! 魔族たちはすごいスピードで近づいています! 今ならまだ間に合います!」

「ならん! 民をおいて、自分だけ逃げることなどできん!」


王様は頭を抱えている。

そのとき、ダウンルックが意気揚々と出てきた。


「国王陛下! 私にお任せください! これだけ距離が離れていれば、私の遠距離魔法で全滅させられます!」

「それは誠か、ダウンルック」

「お任せください」


そして俺のことを、見下した目で見てきた。


「今こそ、私と貴様の格の違いを見せてやるからな。この出来損ないめ」

「お、おお……わかったから、早く倒してくれよ」

「衛兵、何をやっている!? 私が仕掛けた対空魔大砲があるはずだ! さっさと用意しろ!」


ダウンルックが、衛兵に怒鳴りつける。


「は、はい、承知しました!」


衛兵は大慌てで飛び出していった。


「ご安心ください、国王陛下。私の開発した魔法兵器で全滅させてみせます」


やがて、城の壁からでかい大砲が出てきた。

見るからに強そうだ。


「おっ、あの大砲でやっつけるのか?」

〔上手くいくといいけどね〕


すると、ダウンルックは大砲に手を当て、呪文を唱えだした。

魔力を注ぎ込んでいるようだ。


「精霊たちよ……我が身に、その力を貸し与え……」


そして、大砲から魔力の塊が撃たれた。

ドでかいファイヤーボールに、電撃がまとわりついている。

火と雷の属性が付与されているようだ。

へえ、結構強そうだな。

直後、魔族の群れに命中した。

遠くで煙が巻き上がった。

ダウンルックは、とても喜んでいる。


「よし、いいぞ! ご覧いただきましたでしょう、国王陛下! 魔族どもは全滅……」


しかし、魔族がやられている様子はなかった。

一匹も墜落せずに、こちらに飛んできている。


「ダウンルック! 全然効かぬではないか! なんだ、その兵器は!」

「そ、そんな、全てSランクの素材で作っているのに……こ、これは何かの間違いでございます! きっと、大砲の操作が間違っていたのです! すぐに修正させます! ……おい、お前ら、ちゃんと操作しろ!」


ダウンルックは衛兵を怒鳴り散らしている。

俺はミウにコッソリ聞いた。


「なぁ、今回の魔族たちって強いのかな? ダウンルックの攻撃が全然効かなかったぞ」

〔いいえ、全然たいしたことないわ。それより、あいつらをよく見てごらんなさい〕


ミウに言われ、魔族の群れをじっと見る。

うっすらとバリアのような物が見えた。


「バリアみたいのが見えるんだが」

〔魔族たちは結界を張っているわ。Sランクってところかしらね。だから、大砲の攻撃が効かなかったの。ダーリンにとってはたいしたことないけどね〕

「そうか、教えた方がいいよな」


俺は王様の近くに行った。


「あの、王様。魔族たちは結界を張ってるんで、大砲の攻撃は効かないと思います」

「け、結界だって? おのれ、魔族どもめ」

「なんだと!? でたらめを言うんじゃない! 国王陛下、騙されてはなりません!」

「お、おい、やめろよ」


ダウンルックは俺に掴みかかってきた。

こんなときになんだよ、こいつは。

本当に大賢者なのか?


「やめないか、ダウンルック! レイク殿、我らとともに戦ってくれないか!? グランドビールを救ったというお主の力、今こそ拝見したい!」

「ええ、もちろんです、王様」

〔やっちゃえ、ダーリン!〕


俺は窓の近くに歩いていく。

途中、ダウンルックがまた何か言ってきた。


「ふんっ、貴様のせいで王都が壊滅しなければいいがな。まぁ、せいぜい事故を犯さぬことだ」


ダウンルックは相変わらず、俺をバカにしたような顔で見ている。

まったく、こいつは……。

何はともあれ、魔族から王都を守らないとな。

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