第29話:王様に謁見する

「レイク様、向こうに見えるのが王宮でございます」

「へえ、王様はあそこに住んでいるのか」

〔すごく大きなお城ね〕


俺たちは衛兵に案内され、王宮に向かっていた。

ダウンルックとの魔法バトルが終わって、王様に謁見するときがやってきた。

そして、例のアイツはと言うと……。


「クソっ、なんで私が付き添いなど……国王陛下に言われなければ……」


俺たちの後ろからついてきていた。

どうやら、王様に命じられたらしい。

ずっと、怖い顔をしていて、オーラがヤバイんだが。

歩いていると、貴族令嬢たちがいた。


「またなんか言われるのかね」

〔無視してればいいわよ、ダーリン〕


だが、初めてここに来たときとは、全然反応が違った。


「ダウンルック様のお話聞きまして? みじめに泣き叫んでいたそうよ」

「ママーですって、気色悪いですわ」

「今まで慕っていたのが恥ずかしいくらいね」


微妙に聞こえるか聞こえないくらいかの大きさで、コソコソ話していた。

ダウンルックの歯ぎしりが聞こえる。

大丈夫かな、アイツ。

そっと後ろを見たら、俺をめちゃくちゃ睨んでいた。


「レイク・アスカーブ……貴様だけは許さない……よくも私に恥をかかせたな……」


しかも、ブツブツなんか言ってるし。

どうやら、ダウンルックの恨みを買ってしまったらしいな。


「レイク様、ここが王宮でございます。このまま、王様がいらっしゃる場所までご案内します」

「王様って、いつもどこにいるんですか?」

「王の間です」

「へえ、どんな感じだろう。インテリアの参考にしたいな」

〔ダーリンが想像しているのとは、結構違うと思うわよ〕


ということで、少し歩くと重厚な扉の前に着いた。


「ここが王の間でございます。それでは、心の準備はよろしいですか?」

「だ、大丈夫だ」


他の場所と違って、ここだけ雰囲気が全然違う。

相手はカタライズ王だ。

当たり前だが、この国で一番偉い。

セインティーナさんのときもそうだったけど、さすがに緊張するな。

ミウはどうだろう。

さすがに少しは……。


〔まったく問題ないわ〕


わかっていたけど、ミウはいつも通りだった。


「レイク殿をお連れしました!」

「し、失礼します!」

〔こんにちはー〕


中は明るかった。

全体的に白っぽくて、清潔感に溢れている。

もっと暗くて、黒い感じじゃないんだな。

俺は少々がっかりする。

正面に、大きくて豪華なイスが置いてあった。

玉座だ。

そして、そこに座っているのが……。


「お主がレイク・アスカーブか。よく来てくれたな。我が輩が、カタライズ王だ」


王様は背が高くて、体ががっしりしていた。

豊かな口ひげが、威厳をかもしだしている。


「レイク・アスカーブです。この度はお招きいただき、誠にありがとうございます」

〔私はミウよ〕

「しかし、手紙を出したのはついこの前だが、もう着いたのか。ずいぶんと早い馬を持っているようだな」

「いえ、馬ではなくて、転送魔法で王都に来たんです」

「な、なに!? 王都には結界が展開されているはずだが」

「なんか、全然問題なかったですね」


そう言ったところで、俺は急に不安になってきた。

王様になんか、とか言わない方が良かったか?

いつものノリで話しているけど、失礼じゃないよな?


「ワハハハ! 全然問題なかったか! ダウンルックよ、結界をより高度なものに変える必要がありそうだ!」


王様は豪快に笑っていた。

余計な不安だったらしい。


「お主はグランドビールで、かなり活躍したそうだな。ネオサラマンダーに、エビル・デーモンの討伐。誰にでもできることではない」

「ありがとうございます。でも、俺は自分にできることをしただけですから」

〔ダーリンったら、すごいじゃない。王様に褒められるなんて、そうそうないわよ〕

「ミ、ミウ、静かにしなさい」


さっきから、ミウが耳元でこしょこしょ話してくる。

耳がくすぐったい……じゃなくて、王様に失礼があったらどうするんだ。


「そして、ダウンルックとの決闘にも勝利したと聞いた。大賢者に勝つとは、お主は相当な魔法の使い手だな。ダウンルックもこれを糧に、より強く成長するように」

「ど、どうも」


すげえ、王様に褒められたぞ。

すると、ずっと黙っていたダウンルックが、急にしゃべりだした。


「お言葉ですが、王様! わ、私は負けてなどおりません! あれはまぐれだったのです!」

「ふむ……ダウンルックよ、お主が素晴らしい魔法を開発しているのは、我が輩もよく知っている」

「国王陛下、ありがとうございます!」


王様に言われると、ダウンルックはとたんに笑顔になった。


「あの魔法の美しさは、言葉では説明できません! どうでしょうか、今ここで発動させて……」

「だが、聞いた話では呪文詠唱が長すぎるようだな」

「そ、それは……あの美しさを保つには、詠唱を短くするわけにはいかず……」

「お主は少々、芸術性や見た目の良さにこだわりすぎてはいないか? 魔法というのは、もっと実用的であるべきではないかね」


その言葉を聞くと、周りの衛兵たちがこっそり笑っていた。

ダウンルックは、プルプル震えている。

顔も真っ赤だった。

まぁ、王様の言うことは理にかなっているよな。

キレイな魔法を目指すのも大事だろうが、やっぱり使うのは簡単な方が嬉しい。


「私は王立魔法学院を、首席で卒業したのですぞ! その私が考える魔法は、どれも素晴らしいに決まっております!」

「そういえば、お主は実際にモンスターなどと戦ったことがなかったな。一度、レイク殿にモンスター討伐を教えてもらったらどうだね? 実戦を経験すれば、また新しい発想も浮かんでこようぞ」

「ぐっ……!」


ダウンルックは、すごく怒っているようだった。

なにかフォローした方がいいのかな。


「お、王様! 大変です!」


そのとき、王の間に衛兵が走りこんできた。

息も絶え絶えになっている。


「どうした、今は大事な話をしているところだ。静かにしたまえ」


連れ出されそうになっていたが、衛兵は必死に抵抗している。

そして、一呼吸おいて、叫ぶように言った。


「ま、魔族の軍勢が攻めてきました!」


その瞬間、王の間に緊張が走った。

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