第28話:大賢者に圧勝する

「さあ、始めようか。言っておくが、手加減はしない。貴様が本当にネオサラマンダーやエビル・デーモンを倒したのなら、そんな必要はないからな。本気で戦わせてもらうぞ」

「う、うむ……」

〔いっけー、ダーリン!〕


結局、俺は王宮広場でダウンルックと向かい合っていた。

女だけでなく、男性貴族も集まっている。


「ダウンルック様ー! カッコいい!」

「瞬殺してやってー!」

「今日はどんな魔法が見られるんだろう! 楽しみだなぁ!」


ダウンルックは、手を振って声援に応える。

その度に、貴族令嬢たちは大騒ぎだ。

置いてけぼり感が半端ないぞ。

そして、ギャラリーの中から、これまた偉そうな貴族が出てきた。


「では、私が審判を務めさせていただきます。初めに申し上げますが、これは正式な決闘でございます。両者は互いの命を賭け、正々堂々と戦うように」


さっきからダウンルックは、俺を怖い目で睨んでいる。

かと思うと、ミウに満面の笑みを向けていた。


「ルールは、魔法だけで戦うこと! 武器の使用や、腕力による攻撃は即失格となります!」


魔法だけかぁ。

まあ、そりゃそうだよな。

【悪霊の剣】の、残念そうな顔が思い浮かぶ。


「始め!」

「では、私からいくぞ!」

「よし、こい!」


いったいどんな魔法を使ってくるんだ?

なんてったって、相手は大賢者だ。

ちょっと楽しみかも。


「火の精霊よ……水の精霊よ……我が魔力を糧とし、その大いなる姿を……」


しかしダウンルックは、めっちゃ長い呪文を唱えだした。


「キャー、すごい! ダウンルック様の詠唱が始まったわ!」

「見て、あの集中したお顔! 最高よ!」

「ダウンルック様は長い呪文を唱えることで、魔力の親和性を高めているのだ!」


いや……これはすごいのか?

だって、その魔法がいくら強くても隙だらけじゃん。

サポートしてくれる仲間がいれば別だけどさ。

ここがダンジョンだったら、もう殺されてるぞ。

もしかして、ダウンルックに実戦経験はないんじゃ……。


「くらえ! ≪フレイム・アクア・ドラゴーネ≫」


炎のドラゴンと水のドラゴンが、勢い良く襲いかかってきた。


「なんてキレイな魔法なの! 見てるだけで心が奪われちゃう!」

「こんなの、ダウンルック様以外に使えるわけないわ!」

「反対属性のSランク魔法を同時に使うなんて、さすがはダウンルック様だ!」


あと、さっきから解説役っぽい人がいる気がするんだが。


「ははは! この魔法は私が開発した、最強の自信作だ! 消えてなくなるがいい!」


ドラゴンズが俺にあたった。

が、痛くもなんともない。

【地獄のポーション】で、自動全回復されているんだろうな。

おまけに、身体能力666倍ときたもんだ。

いくらダウンルックの魔法が強くても、しょせんはSランク。

呪われた即死アイテムに、勝てるわけがないってことだ。


〔さすがは、私のダーリンね! 何もしないで勝てちゃいそうよ!〕

「な、なに!? 直撃しても無傷だと! まぁ、いいだろう! 私の本気は、まだまだこれからだ!」


そう言うと、ダウンルックはさらに魔力を込め始めた。

炎と水のドラゴンが、どんどん大きくなる。


「こんなすごい魔法、見たことないわ!」

「あの庶民ったら、ぼんやりしているだけよ!」

「ダウンルック様の魔力が、さらに練り上がっている! それで、ドラゴンが巨大化したんだ!」


しかし、俺の体には何も変化がない。

熱くもないし、冷たくもない。

これ以上バトルを続けても、意味はなさそうだ。

だって、これが最強って言ってたもんな。

さっさと終わらせるか。

さて……。


「なんか良い魔法はないかなぁ」


これは魔法バトルだから、【悪霊の剣】とかは使えないのだ。

俺は【闇の魔導書】を、ペラペラめくる。

おっ、こいつはどうだ。



《ダークネス・ブラックホール》

ランク:SSS

能力:超重力の空間へ永遠に閉じ込める



うん、やめよう。

なぜなら、ダウンルックが死ぬから。

それなら、これはどうだ。



《ダークネス・メンタルデストラクション》

ランク:SSS

能力:精神を破壊し再起不能にする



つ、次……。



《ダークネス・ナイトメア》

ランク:SSS

能力:決して目覚めない悪夢に誘い無限の苦しみを与える



……。



《ダークネス・ビックバン》

ランク:SSS

能力:全ての存在を破壊する爆発を起こす



ダ、ダメだ。

どれもこれもオーバーキル過ぎる。

間違いなく、ダウンルックをぶっ殺しちまう。

そして悩んでいる間にも、ドラゴンたちは俺を襲っている。


「な、なんで私の魔法が効かないのだ!? お、おかしい! こんなことありえないぞ!」


ダウンルックは、必死の形相で魔法を唱えていた。

効くわけないだろうよ。

だって、この世にある魔法は、全てSランクが最高なんだから。

呪われた即死アイテムを飲んだ俺には、何も効かないんだって。

勝負のゆくえは、すでに見えていた。

だが、闇魔法を使うと、ダウンルックが即死する。

うおおお、どうすりゃいいんだ。


「ね、ねえ、なんだか様子がおかしくありません?」

「ダウンルック様の魔法が、全然効いていませんわ」

「あ、あの男はきっと、とんでもないパワーを宿しているんだ!」

「ふ、ふんっ! 防御力は高いようだが、守っているばかりでは勝てないぞ! さあ、攻撃してこい! それとも、攻める勇気がないのかな!?」

「そうじゃなくてだな」


攻めたいのはやまやまなんだが、お前のレベルにあった魔法がないっつうの!

そのとき、俺はあることに気がついた。

そ、そうだ! 解呪用の魔法を使えばいいんだよ!

困った時の解呪頼みだ!

よし、さっそく……おっと、最小パワーで出さないとまずいよな。

やらかし勇者と違って、こいつは賢者だ。

体を鍛えているとも思えない。

万が一にも殺しちまったら、大変だぞ。


「≪解呪≫!」


俺はかつてないほどの低パワーで、魔力弾を発射した。


「あの庶民、何か出しましたわよ」

「あんな魔法しか使えないなんて、みっともないですわね」


俺の魔力弾は、ゆっくりとダウンルックに向かっていく。


「ハハハ! なんだ、そのへなちょこな魔法は! いや、魔法ですらない、ただの魔力の塊じゃないか!」

「おい、油断するなよ」

「油断!? こんなの喰らっても問題ないさ!」


ダウンルックは、ヘラヘラ笑っている。


「頼むから、受け身の準備をしてくれ」

「はあ? 受け身? なんでそんな必要が……ぶごあ! ぐげええええええ!」


魔力弾が当たった瞬間、ダウンルックはすごい勢いで吹っ飛ばされた。

そして、木に激突した。

しかし、ちょうどいいところに生えているもんだ。

そういえば、同じような光景をどこかで……。

たしかこういうのを、デジャウっていうんだよな。


「ダウンルック様!? 大丈夫でございますか!?」

「お、お気を確かに!」

「ただの魔力弾でここまでの威力とは! あいつはただ者じゃないぞ!」


まぁ、強打してるけど平気だろ。


「大丈夫かぁ、ダウンルック」


だが、ぐったりしたままピクリとも動かない。

ヤベぇ、殺しちまったか!?

と思ったら、ダウンルックは起き上がった。

ああ、良かっ……。


「うわあああん、いちゃいよー! ママァー! 悪いヤツがいじめたぁー!」

「え?」


いきなり、ダウンルックは泣き出した。

人目もはばからず、わんわんと泣いている。


「み、みなさん、見ましたか? ダウンルック様が圧倒されましたわよ」

「いくらなんでも、気持ち悪いですわ……大賢者ですのに……」

「も、もしかして、あいつの方が強いじゃ……」


ギャラリーもドン引きしている。


〔魔法すら使わずに勝っちゃったわね! すごいわ、ダーリン!〕


ミウがむぎゅうっと、くっついてきた。


「お、おお……」

「ママァー! こいつをやっつけてよぉー!」


白い目で見られる中、ダウンルックはいつまでも泣き叫んでいた。

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