第3章:【王国の英雄】編

第27話:大賢者に魔法バトルを挑まれる

「じゃあ、行ってきますね。マギスドールさん、セインティーナさん」

「ああ、気をつけてな、レイク」

「レイクさん、ミウさん、いってらっしゃい」

〔行ってきまーす〕


俺たちは挨拶もそこそこに、ギルドから出た。


「さて、じゃあいつものあれで行くか」

〔そうね。さっさと行きましょう〕

「よし、《ダークネス・テレポート》! 行き先は王都!」


1秒後、俺たちは王都に着いた。


「へえ、ここが王都かぁ」

〔グランドビールと全然違うわね〕


グランドビールは色んな物やら人が、雑多に混じった雰囲気だった。

だが、ここはあらゆる物が規則正しく並んでいる、って感じだ。

道も舗装されているし、空気もキレイだ。

そして、俺好みの店はなさそうだった。

残念だなぁ、お土産でも買おうと思ってたんだが。


「人もたくさんいるけど、どう見ても冒険者じゃないよな」

〔豪華な服ねぇ〕


剣だとか槍だとかを持っているヤツは一人もいない。

たぶん、貴族だろうな。

モカネチオさんみたいな格好の人が、いっぱい歩いている。


「きっと、みんな金持ちなんだろうな」

〔ダーリンだって、お金持ちでしょ。2億ゼニー持っているんだから〕


そういえば、そうか。

俺はいつの間にか、結構な金持ちになっていた。


「最初に、王様へ会いに行った方がいいかな?」

〔そうねぇ、あの手紙を見せれば会ってくれそうだけど〕


どうしようかな。

王様ってそんな気軽に会えるもんなのか?

ダウンルックに紹介してもらった方が、スムーズかもしれないな。


「それで、ダウンルックはどこにいるんだろう。いきなり、≪ダークネス・テレポート≫で押しかけるのも良くない気がするし」

〔誰かに聞いてみる?〕


ミウと話していると、衛兵みたいな人がやってきた。

その人だけ、槍を持っている。


「ちょうどよかった。あの人に聞いてみよう。あの、すみません……」

「おい、お前ら、どこから来た。貴族じゃないな、王都に何の用だ」

「ど、どこからって、グランドビールですよ」


いきなり、槍を突きつけられた。

な、なんだ?


「そんな田舎から、何しに来たと聞いているんだ」

「ダウンルックに呼ばれたんです。どこにいるか知ってますか?」

〔ダーリンに会いたいんだって〕

「貴様! ダウンルック様を呼び捨てにするだと! 不敬罪だぞ!」


マジかよ。

呼び捨てにしただけで罪に問われるって、どんだけだ。


「おい、どうした。騒がしいぞ」

「ダ、ダウンルック様! 申し訳ありません!」


どこからか、男の固い声が聞こえてきた。

とたんに、衛兵は直立する。


〔ダーリン、あの人……〕

「大賢者様のお出ましか……」


向こうから、ダウンルックがやってきた。

当たり前だが、ミニダウンルックがそのまま巨大化した感じだ。

肩まである長い金髪に、切れ長の赤い目。

全身から、私はすごい! というオーラがにじみ出ている。

いけ好かないヤツだなぁ。

とりあえず、挨拶しとくか。


「どうも、こんちは。俺はレイク・アスカーブだ。まぁ、手紙でも話したよな。言われた通り来たんだが……」

「き、貴様ら! どうして、もう王都にいるのだ!? 馬車に乗っても、1週間はかかるはずだぞ!」


なんかダウンルックは、めっちゃ驚いている。

どうしたんだ?

あっそうか、王都とグランドビールは結構離れていたっけ。


「転送魔法っていうのかなぁ。≪ダークネス・テレポート≫っていう闇魔法が……」

「て、転送魔法だと!? ウソをつくな! 王都は転送魔法を封じる、Sランクの強固な結界で囲まれているんだ! 入れるわけがないだろうが!」


ダウンルックは、めちゃくちゃに騒いでいた。

もうちょっと静かに話せんのかね。

【闇の魔導書】はSSSランクだから、結界なんてガン無視なんだろう。

しかし、そう言ったところで逆効果な気がする。

そしてミウを見ると、爽やかな笑顔になった。


「そなたがミウ君だね。とても美しい……その男に囚われているんだろう、かわいそうに」


下心丸出しなんだよなぁ。

目がニヤニヤしっぱなしで、鼻の下がだらしなく伸びていた。

やっぱり、この国には貞操観念ないマンが多すぎるぞ。

やがて、周りの女たち(ミウ以外)が騒ぎ出した。


「キャー、ダウンルック様ー! カッコいいですわー!」

「このあと一緒に、お茶を飲んでくださいませー!」

「また私に魔法を教えてくださいー!」


すごいキャーキャーしているな。

その瞬間、ダウンルックの表情が変わった。

にこやかな笑顔になり、慣れた様子で手を振っている。

なんだか、こいつも女好きっぽいな。

突然、ダウンルックは遠くを指さした。


「すぐそこに、王宮広場がある」

「お、おお……」


まさか、この流れは……。


「この僕と、魔法勝負をしてもらおうか。君に実力の違いを、見せつけておく必要がありそうだ。もちろん、逃げることは許されない。これは正式な決闘だからね」

「実力の違い……」


ダウンルックは、めちゃくちゃなドヤ顔をしている。

絶対に自分が勝つと確信しているようだ。


「待っていてね。僕の運命の人。今すぐ、その悪魔から解放してあげるから」


ミウはシカトしていた。

ダウンルックは、意気揚々と歩いて行く。

超余裕そうに、ギャラリーへ手を振っていた。


「ダウンルック様ー! そんな庶民やっつけてくださいましー!」

「眺めているだけで倒れてしまいそう!」

「ダウンルック様の雄姿をこの目で見られるなんて、今日はとてもラッキーですわ!」

〔ダーリン! がんばってー!〕


おいおいおい、またこの展開かよ。

俺は重い足取りでついて行く。

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