第25話:勇者になってくれと頼まれる

「魔族の襲来から街を救ったレイクさん、あなたを救世主として称えます」

〔ダーーリーン!〕

「「レイクー! うおおおお!」」


エビル・デーモンを討伐した俺たちは、ギルドで表彰されていた。

前と同じように、街中の人が集まっている。

だが、前回よりずっと豪華に、ギルドが飾りつけられている。

しかも、今回はセインティーナさん直々の表彰だ。

すごいなんてもんじゃない。


「さあ、レイクさん。私の髪飾りを受け取ってください。感謝の印です」

「あ、ありがとうございます。すみません、こんな物をもらってしまって」


聖女の髪飾りをいただいてしまった。

金の糸で編まれた、レースっぽい飾りだ。

聖女が認めた人にしか渡さないという、大変貴重で名誉なものだ。

はっきり言って、めちゃくちゃ嬉しい。

デザインだって、俺好みの悪魔とかじゃないが素晴らしかった。

さっそく、コレクションに加えよう。


「レイクさーん! あんたは最高だ!」

「一度ならず、二度も街を救ってくれるなんて!」

「救世主どころじゃない、英雄だぜ!」


それを見て、住民たちがまた一段と盛り上がった。

ギルドの中が、万雷の拍手で満たされる。


「レイクさん、私からもお渡しするものがあります」


人混みの中から、モカネチオさんが出てきた。


「あっ、モカネチオさん」

「魔族から私たちを守ってくれて、本当にありがとうございます。これは、私の個人的なお礼です。どうぞ、受け取ってください。」


そう言って、小さな紙を渡してきた。


「なんですか、これ?」

「まぁ、よく見てください」


なんか……小切手っぽいな。

お金をいただけるということなんだろうか。

たいしたことしてないのに、なんだか申し訳ないな。

紙を見ると、俺はとても驚いた。

いや、めっちゃ数字が並んでるんだが。

1、10、100……。


「って、1億!? 1億ゼニー!?」


とんでもない金額が書いてあった。


「すみません、足りませんよね。命を救っていただいたわけですから。でしたら、その10倍で……」

「足ります、足ります! 十分すぎるほどです!」


俺は慌てて言った。

これ以上もらうわけにはいかないだろ。

俺の全財産が、ものすごいことになっていく。

やがて、マギスドールさんがやってきた。

その目は赤くなっていて、感動しているようだ。


「レイク、本当にありがとう。お前がいなかったらどうなっていたことか……」

「いえ、俺は自分にできることをしただけです。ミウや他の冒険者たちにも、助けてもらったわけですから」


マギスドールさんと、がっちり握手を交わす。

最初はあんなに遠かった人なのに、今は距離が近くなった気がする。


「そこでだな、俺とセインティーナ様から頼みがあるんだが」

「頼みってなんですか?」


マギスドールさんとセインティーナさんは、顔を見合わせている。

真剣な表情をしているけど、どうしたんだろうな。

こっちまで緊張してくるぞ。

やがて、セインティーナさんが静かに言ってきた。


「レイクさん、どうか勇者になっていただけませんか?」

「ゆ、勇者!?」

〔すごいじゃないの、ダーリン!〕


マジか、予想外もいいところだ。

俺が勇者だって?


「お、俺ですか!? いや、無理ですよ! そんな、勇者なんて大役!」


俺は必死に断った。

俺なんかより、もっと適任のヤツがいるだろうに。


「レイクさんこそが、勇者になるべき人なのです」

「俺からも頼む。エビル・デーモンにおそわれたとき、お前のリーダーシップは見事だった。おかげで、被害はほとんどなかった。普通なら、魔族に襲われてこんなことはありえない。お前はみんなを引っぱっていく存在になるんだ」


おいおいおい、俺は自分にできることをしただけだぞ。

そもそも、他の人たちが認めないだろうに。

ふと周りを見ると、みな俺を真剣に見ている。

全員、賛成だった。

ここまで来たら、断るわけにもいかないよな。


「わ、わかりました。勇者になります」


すると、集まった人たちが騒ぎ出した。


「やったああ! 新しい勇者の誕生だあああ!」

「レイクさんがいれば、ずっと平和だぜ!」

「俺たちは、こういう勇者を待っていたんだよな!」


め、めちゃくちゃ喜んでるじゃないか。

ということで、俺は勇者になった。


〔さすがは、私のダーリンね! 勇者にまでなってしまうなんて!〕

「う、うむ……」


勇者になってくれと言われたのは、素直に嬉しい。

だが、のんびり生活から、どんどん離れていっている気がするんだが。

傭兵として気楽に暮らすつもりが……。

そのとき、男がギルドに入ってきた。

見るからに、使者って感じの格好をしている。


「レイクさんはいらっしゃいますか?」

〔誰かしら〕

「レイクは俺だが」


名乗ると、男はしずしずと近づいてきた。

俺の前で、深々と頭を下げる。


「レイク・アスカーブ様。お初にお目にかかります。私は大賢者会の使者、メッセンと申します」

「え? 大賢者会? なんでまたそんな偉い人たちが」

「あなた様のご活躍を、大賢者会が聞いたのです」


メッセンが言うと、ギルドの中は慌ただしくなった。


「レイクさんの活躍は、とうとう王都にまで伝わったか」

「むしろ、来るのが遅いくらいだよな」

「さすがはレイクさんだ」


大聖女の次は賢者か。

俺の周りが、どんどんすごいことになっていくな。


〔ねえ、ダーリン。大賢者会ってなに?〕

「ああ、それは」


説明しようと思ったら、マギスドールさんが話してくれた。


「王国の優秀な賢者たちの集まりだ。国の発展のために、古の魔法やら新しい魔法やらを研究している組織だ。トップは、ダウンルックという超天才賢者だな。年はたしか、レイクとほとんど変わらなかったはずだ」

〔ダーリンは会ったことあるの?〕

「いや、俺も名前しか聞いたことないな。そんな人たちが、どうして俺なんかに」


すると、メッセンは一通の文書を出した。

見るからに、大事そうな手紙だ。


「カタライズ王国直属、大賢者会のダウンルック様からお手紙でございます」

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