第24話:末路(セルフィッシュ②)

「お前らは、自分が何をしたのかわかっているのか!?」

「「ぐっ……」」


マギスドールの怒号が響き渡る。

僕たちはグランドビールのギルドにいた。

しかし、全く身動きがとれない。

固い縄で、きつく縛られているからだ。

どうして、こんな目に合わないといけなんだよ。

せっかくエビル・デーモンから解放されたのに……。

僕は自分の境遇がわからなかった。


「早く縄を解いてくれないか? 痛くてしょうがないんだ」

「解くわけないだろ! この大罪人が!」


なんだと!

その言葉を聞いて、僕はかなりムカついた。


「大罪人だって!? よくもそんなことが言えるな! 僕たちが何をしたって言うんだ!」

「防御結界の暗号を、魔族に教える勇者がどこにいる!」

「うぐっ……」


クソっ、そのことはもういいだろうが。

魔族も消えたし、街は大丈夫だったんだからさ。

すると、セインティーナ様が出てきた。

暗い顔をしている。

僕たちの仕打ちを見て、心を痛めてくださっているのだ。


「セインティーナ様! この者たちに、縄を解くよう言ってください! 勇者にこのような仕打ちをするとは、不届き者もいいところですよね!」


さあ、縄をほどくんだ冒険者ども!

……あれ? どうして、誰も動こうとしないんだ?

セインティーナ様は相変わらず、表情が沈んでいる。


「セルフィッシュ、あなたには失望しました。勇者でありながら魔族に屈し、住民を売ってしまうなんて……。どうして、レイクさんと協力しなかったのですか?」

「そ、それは……レイクの実力が信じられず……」

「あなたはレイクさんとの勝負に、一度負けたのですよね? それでも、レイクさんの力が信じられなかったのですか?」

「うっ……」


そう言われると、僕は反論できなくなった。

な、なんて言い訳すればいいんだ。


「お前らはクズだ!」

「住民を売る勇者が、どこにいるんだよ!」

「もう顔も見たくねえ! さっさといなくなれ!」


住民や冒険者たちは、腐った卵やトマトなんかを投げてきた。

あっという間に、僕たちは汚物まみれになる。

ゆ、許さないぞ。

僕が何もしないから調子に乗りやがって。

縄が解けたら、こいつらを……。

そのとき、マギスドールが衝撃的なことを言ってきた。


「勇者パーティー! お前らは、ワーストプリズン島に連行する!」

「な、なに!?」


ワーストプリズン島だって!?

大罪を犯したヤツらが収監される島じゃないか。

どうして僕たちが。


「ふ、ふざけるな!」

「俺たちは勇者パーティーだぞ!」

「今すぐ取り消してください!」

「私たちなしで、やっていけると思ってんの!?」

「うるさい! これはセインティーナ様とも相談して決めたことだ! この決定が覆ることはない!」


僕たちは必死に抵抗する。

しかし、マギスドールたちは全然聞く耳を持たない。

こ、このままではまずい。

どうする!?

そこで僕は、最強の一言を思い出した。


「ぼ、僕にそんなことを言っていいのか!? 父上に言って、ギルドの支援金をなくしてやるぞ!?」


へっ、どうだ。

僕は勝ち誇っていた。

結局、僕に逆らえるヤツはいない。

庶民たちは貴族の助けがないと、生きていけないのだ。

さ、早く撤回して縄を解いてもらおうか。

地面に這いつくばって謝れば、許さないこともないぞ。

しかし、マギスドールが言ってきたことに、耳を疑った。


「エゴー公爵家は、爵位を剥奪された! お前のせいでな!」


…………え? 爵位剥奪?

な、何を言っているんだ。

まるで意味がわからない。


「で、でたらめを言うんじゃない! そんなことがあるわけないだろ! エゴー公爵家は、カタライズ王国の三大名家なんだぞ!」


僕は力いっぱい叫んだ。

そんなことがあってたまるか!

すると、マギスドールは一枚の紙を見せてきた。

パッと見た感じ、とても立派な文書だ。


「これを読んでみろ。王様からの手紙だ」

「ふん、どうせたいしたことは……」


しかし、読んでいくうちに血の気が引いていった。


『……エゴー公爵家の爵位を剥奪する カタライズ王』


ご丁寧に、国王の印まで押してあった。

つまり、これは本物だ。

エゴー公爵家は……本当に没落してしまったのだ。


「うあああああああ! ウソだああ! ウソだああ!」

「おい、取り押さえろ!」


僕はめちゃくちゃに暴れる。

もう何も考えられなかった。


「おとなしくしろ! 暴れるんじゃない!」

「往生際が悪いぞ!」

「手間をかけさせるな! レイクが助けてくれたから良かったものの……お前らは最悪のパーティーだ!」


この、言いたい放題言いやがって!

ふと目をあげると、あの鎧人間が見えた。

黒い鎧に身を包み、エビル・デーモンを圧倒したヤツだ。

どうやら、傭兵をやっているらしい。

そういえば、銀髪天使は彼のことをダーリンと呼んでいた。

たぶん、ダーリン・レイクという名前なんだろうな。

最強なのに、Fランク冒険者と同じ名とは……かわいそうに。


「連れて行け!」

「や、やめろ! 離せえええ!」


連行されていくとき、鎧人間の前を通った。

その横には、あの銀髪天使がいる。

彼女は……Fランク素人冒険者と一緒にいた娘じゃないか。

どうして、ここに。


「せ、せめて……あなた様の素顔をお見せください!」


命を救ってもらったのだ。

最後に、一目お顔を拝見したい。


「わかった」


ダーリン殿は、ゆっくりと兜を外していく。

素顔はどんな見た目だろう。

あんなに強いのだ、傷だらけの戦士っぽい顔かな。

いや、体は細いから、案外子どもかもしれない。

もしかして、女とか?

あれ? 腰につけている剣には見覚えがあるような……。


「セルフィッシュ。自分たちがやったことを、しっかり反省するんだ」

「…………なんで?」


目の前には、あのレイクとかいうFランク冒険者が立っていた。

僕はしばらくの間、ボーっとする。

そうだ、これは現実じゃないんだ。

幻だ。

僕は質の悪い幻を見ているんだ。

だって、レイクのはずなわけないじゃないか。

しかし、嫌でもじわじわと実感がわいてきた。

僕はバカにしていたレイクに…………命を救われたのだ。


「う、うわああああああああ!」


僕はかつてないほどの叫び声をあげた。

自我が崩壊していくのを感じる。

そして、目の前が真っ暗になった。



□□□



「ゴホッ……ここは?」


気がつくと、僕は暗い部屋にいた。

どこかにぶつけたんだろう。

頭がズキズキする。


「ようやく、お目覚めか」

「困ったものですね」

「この人について来るんじゃなかったわ」


目の前には、メンバーたちがいた。

僕は少し安心する。


「な、なんだ、君たちか。ここはどこだい?」


そういえば、ここは普通の部屋じゃないな。

明かりもないし、家具も全然置いていない。

早く明るいところに出たいよ。

ギルドの部屋かな?

でも、鉄格子みたいな物が見えるけど……。


「「ワーストプリズン島」」


3人はそろって、謎の単語を言った。


「ワ、ワーストプリズン……島? あの、大罪人を収監する……」

「「だから、そう言ってるだろ!」」


メンバーは、いっせいに怒鳴ってきた。

彼らがこんなに怒っているのを、僕は初めて見る。

本当にワーストプリズン島に連行されたらしい。

た、大変なことになった……。

そのとき、隣の部屋から恐ろしい声が聞こえてきた。


「どうやって責任とってくれるわけ!?」

「二度と髪が生えないようにしてやるから!」

「お前の汚い鼻ピアスをむしり取ってやります!」

「痛い痛い痛い! 鼻がとれる! お願いだから、髪は抜かないで! 誰か助けてくれー!」


ご、拷問でもされてるのか?

な、なんて怖いところなんだ。


「ど、どうにかここから出よう」

「出れるわけないだろうが! バカやろう!」

「アンタのせいでこんな目にあったんだわ!」

「私の人生がぶち壊しになりました!」


3人は勢い良く、僕を殴ってきた。

瞬く間に、全身がボコボコにされる。


「や、やめろ! いや、やめてください! いたいよー! 誰か助けてー!」


どうして、こうなったんだ……。

今までずっと上手くいっていたのに。

そうだ、レイク・アスカーブに出会ってからだ。

あのとき素直に負けを認めて、一緒に魔族を倒せば良かった……。

下半身が温かくなるのを感じながら、僕はいつまでも後悔していた。

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