第22話:史上最強の避難場所

「あれ、防御結界の様子がおかしくねえか?」

〔そうね。もうエネルギーが切れちゃったのかしら?〕


俺たちが待機していると、防御結界に異変がおきた。

少しずつ、薄くなっている気がする。

やがて、周りの冒険者たちも気づいたようだ。


「お、おい、どうしたんだ? 結界が変だぞ」

「もう消えそうじゃないか! 何があったんだよ!」

「結界が解けたら、どうするんだ!」


セインティーナさんは、今エネルギーを充填してくれているはずだ。

だから、魔力不足とは考えにくい。

だったら何が……?

まさか……セルフィッシュたちが暗号を教えちまったのか?

いや、さすがにそんなことはあり得ないよな。

だって、あいつらは勇者パーティーだぞ?

しかし、考えているうちに、防御結界は消えてしまった。

周りは騒然とする。


「き、消えちまったぞ!」

「こ、これからどうすりゃいいんだ!」

「お、おい! あれを見ろ!」


冒険者の一人が、荒地を指している。

グランドビールに向かって、たくさんのモンスターがやってきていた。

まだあんなにいたのか。

おそらく、どこかに隠れていたんだろうな。

それに気づいた住民たちが、大騒ぎしている。


「た、大変だ! モンスターの群れだ!」

「もうおしまいだああ!」

「モンスターに喰われるなんてイヤだああ!」


みんなパニックで、泣き叫んでいる。


「ち、ちくしょう! こうなったら、迎え撃つしかない! しかし、住民の逃げ場がないぞ!」


マギスドールさんは、頭を抱えている。

そこで、俺はあることに気がついた。

【呪いの館】に避難させればいいんじゃないか?


「マギスドールさん、俺たちの家に住民を避難させてください。街外れの丘にある館です。ほら、あそこに建ってるヤツです」


ちょうどここから、【呪いの館】が見えた。


「え? あ、ああ、あの家か。気持ちはありがたいんだが、いくら広くても住民全てが入れるわけ……」

「それが入れるんですよ。あの館は、無限に広いんです。おまけに、俺が許可した人以外は、入ろうとすると死にます。《ダークネス・テレポート》を使えば、一瞬で全員が移動できますよ」

〔私も保証するわ。住民たちを避難させましょう。エビル・デーモンは私たちが倒すから〕

「そ、そんなに広くて安全なのか? まぁ、レイクの言うことだから、そうなんだろうな」


マギスドールさんは、少しの間考えていた。

そして、力強く言った。


「わ、わかった! レイク、頼む!」


幸い、俺たちの家はここから近い。

避難もスムーズにできそうだ。

俺は住民たちに向かって、大声で言う。


「みなさん、これから俺の家に避難していただきます! あそこの丘に見える家です!」

「おい、みんな! 静かにしろ!」

「レイクさんが、避難させてくれるってよ!」

「言う通りにするんだ!」


俺が言うと、すぐにパニックがおさまった。


「転送魔法で、いっせいに避難させます! では、ジッとしていてください! <ダークネス・テレポート>! 対象はグランドビールの人全て! 行き先は、俺の家の前!」


すると、1秒後【呪いの館】の前に全員来ていた。


「す、すげえ……本当に一瞬で来たぞ」

「さすがはレイクさんだな……あの数をいとも簡単に……」

「こ、こんな転送魔法見たことないぞ……」


みんな、ただただ呆然としている。


「さあ、みなさん! ここは俺の家です! 信じられないでしょうが、中は無限に広いんです! 屋敷に入ってください!」

〔早く館に入るのよ!〕

「「い、いや、とはおっしゃられても……」」


しかし、住民たちはモジモジしている。

俺は心配になって聞いた。


「あの、どうしたんですか?」

「「いや、ちょっと怖くて……」」


怖い? ああ、エビル・デーモンたちのことか。


「ここにいれば大丈夫ですよ! さ、入ってください!」

〔慌てないで! 絶対に全員入れるわ!〕

「「は、はぁ……」」


俺たちは冒険者と協力して、住民を【呪いの館】へ案内する。

この調子なら、スムーズに避難できそうだ。

やがて、魔族の城から巨人が飛んできた。


〔ダーリン、あれ見て!〕

「あいつがエビル・デーモンで間違いないな」


予想以上に結構大きい。

まぁ、相手が誰だろうと油断せず戦うだけだ。


『どこに逃げてもムダだよ』

「きゃああ! 何か聞こえるわ!」

「エビル・デーモンだああ!」

「急いでレイクさんの家に入れ!」


エビル・デーモンの声が聞こえてきた。

大声ではなく、テレパシーみたいな感じだ。


「あそこにいるのは、セルフィッシュ様たちじゃないか!?」


そのとき、住民の誰かが叫んだ。

エビル・デーモンの体から、人間がぶら下がっている。

勇者パーティーの面々だ。


「勇者様たちが捕まっているぞ!」

「負けてしまったのか!?」

「エビル・デーモンは、そんなに強いのかよ!」


辺りはまた騒然としだした。


「セルフィッシュたちは捕まったのか? 早く助けてやらんと」

〔返り討ちにあったってことね〕


しかし、エビル・デーモンが言ってきたことに、俺たちは耳を疑った。


『どうして、防御結界が解除されたか教えてあげようか? ボクを倒しにきた勇者クンがね、教えてくれたんだよ。君たちより、自分の命の方が大事なんだってさ』


エビル・デーモンは大笑いしていた。

勇者たちはしょんぼりしている。

おいおいおい、ほんとに教えちまったのかよ。

それを聞いて、住民たちが怒り狂う。


「勇者なら街を守れよ! 何やってんだ!」

「てめえらなんか勇者パーティーじゃねえ! 恥を知りやがれ!」

「恥ずかしくねえのかよ!」

『っていうか、勇者ってすごい臆病なんだね。アハハ』


よく見ると、セルフィッシュの下半身が茶色かった。

いや、マジか。

あいつまた漏らしてやがる……。

とはいえ、まずは住民たちの避難だな。

念のため、慎重に立ち回った方が良いだろう。


「じゃあ、ミウはここに残って住民を守ってくれ。エビル・デーモンは俺が倒してくる」

〔わかったわ。いってらっしゃい、ダーリン〕


ミウは手を振って、送り出してくれた。

館の中では、住民たちも応援している。


「レイクさーん、頑張ってください!」

「あの使えない勇者たちの代わりに、アイツを倒してください!」

「今や、レイクさんしかいません!」


俺はエビル・デーモンの元に急いだ。



□□□(Side:モカネチオ)



「うう……どうしてこんなことになったんだ……」


私はレイクさんの家に避難して、ブルブル震えていた。

モンスターは、とても怖い。


「た、大変! モンスターが……!」


誰かが叫んだのを聞いて、窓を見る。

すると、大型のグレムリンが近づいていた。


「ひ、ひいっ! ミ、ミウさん、モンスターが!」

〔大丈夫よ。私が出るまでもないわ〕


しかし、ミウさんはいたって冷静だった。

外に出ていく素振りもない。


「で、でも、すぐそこに迫ってますよ!」

〔何もしないでも、ヤツらは勝手に死んでいくわ〕


ど、どういう意味なんだろう?

そう思ったとき、とんでもないことが起きた。


『アギャアアアア!!!』 『ゴカアアアアアア!!!』

「お、おい、見ろ! モンスターが潰れていくぞ!」


私は目の前で起きていることが、信じられなかった。

敷地に入ったモンスターが、次々と潰されていく。

まるで、見えない巨人に握りつぶされているようだ。

モンスターのブレスや魔法攻撃も、全く効かない。

ヤツらは岩や土の塊なんかを投げてくるが、びくともしなかった。

窓ガラスに、ヒビさえはいらないのだ。

焦ったモンスターが侵入しようとしては、グシャグシャに潰される。

その繰り返しだった。


ここは……史上最強の避難場所だ。


レイクさんには、いくらお礼をすればいいかな。

1億ゼニーくらいで足りるだろうか?

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