第21話:全滅の危機(Side:セルフィッシュ①)

「この調子だと、エビル・デーモンも楽勝だろうね」


僕たちは魔族の城まで来た。

道中、ザコモンスターがうようよいたが、全て瞬殺してやった。


「さすが、セルフィッシュだな。どんなモンスターもお前の敵じゃねえ」

「勇者様は、本当に強いです」

「セルフィッシュ、最高!」


僕は気分が良かった。

特に、リリカーバとロカモーノみたいな美人がいると、なおさらだ。

勇者になって良かったなぁ……。


「さーて、あとはエビル・デーモンだけだな。魔族を倒して、レイクとかいうFランクに力の差を見せつけてやるぞ」

「しかし、どうしてあいつはエースになれたんだろうな。腕なんか、握っただけで折れちまいそうだったぞ」

「たぶん、ギルドマスターに賄賂かなんか贈ったんでしょう」

「どうせ、モンスターと戦ったこともないわよ」


魔族は最上階にいるから、僕たちは上を目指す。


「モンスターが見当たらないな」

「俺たちにビビって、逃げたんだろうよ」


城の中も、モンスターが全然いなかったので、すいすい進めた。

正直、街や住民はどうでも良かった。

僕は傷ついたプライドを癒すために、わざわざ魔族の城までやってきたのだ。

勇者だと言うと、どんな人も僕を崇め称える。

おまけに、僕はエゴー公爵家の跡取り息子だ。

才能に恵まれ、血筋に恵まれ……僕はへいこらされるのが最高に好きだった。

それなのに、あの素人レイクはそんな僕に汚点をつけたのだ。

断じて、許せない。


「エビル・デーモンを倒して、絶対にあのゴミをエースの座から引きずり降ろしてやるぞ」

「勇者様の本気を見れば、あの人も驚くでしょう」

「ぎゃふんと言わせてやりなよ」


しかし、あいつは、なかなかの美人を連れていたな。

あの娘も、僕の物にしたい。

いや、この戦いが終わったら奪い取るか。

そのうち、一番上の階に着いた。

いよいよ、エビル・デーモンと戦うときだ。


「よし、ここが魔族の間だな。みんな、油断しないで行こう」

「「わかった」」


ギダツイルの盾に隠れながら、慎重に扉を開ける。


『やあやあ、よく来てくれたね。君たち、勇者パーティーでしょ?』


目の前の巨大な玉座に、そいつが座っていた。

全身毛むくじゃらで、頭には2本の大きな角が生えている。

背中には、巨大な翼が生えていた。

エビル・デーモンは、人間の10倍くらいはありそうな大きさだ。

あまりの威圧感に、僕は少し怖気づく。


「き、貴様がエビル・デーモンだな! 僕たちが来たからには、もうお前の命はないぞ!」

『ずいぶんと威勢がいいねえ。それで、誰が勇者なのかな?』

「僕が勇者だ! このセルフィッシュ・エゴーが、お前を倒してやる!」


僕は勢いよく<勇者の剣>を抜き、正面から見据えた。

こいつを倒せば、名誉も保たれるし、何よりあの娘が手に入る。


『ほら、死ね』

「うわぁっ!」


その瞬間、もの凄い稲妻が飛んできた。


「俺が受け止める!」


とっさにギダツイルが大楯で止める。

Sランクのアイテム、<聖なる盾>だ。

相手がいくら強くても、こっちにはギダツイルがいる。

彼は王国最高クラスの防御力を持っているんだ。

これくらい、なんともないだろう。

しかし、ギダツイルは汗がだくだくで、とても苦しそうな顔をしている。


「ロ、ロカモーノ! 防御魔法で援護してくれ!」


お、おい、大丈夫か?

僕を不安にさせるんじゃない。


「いくよ! <ライトニング・ギガントシールド>!」


ロカモーノが、Sランクの防御魔法を唱えた。

特に雷属性に、特化している魔法だ。

これなら、さすがに大丈夫だろう。

しかし、ギダツイルの体はどんどん傷ついていく。

ブシュブシュ血が出ていた。


「リ、リリカーバ! か、回復を頼む!」

「は、はい! <グレーテスト・オール・ヒール>!」


リリカーバは、Sランクの回復魔法を唱えた。

自動で全回復させる、彼女が持つ一番強い魔法だ。

僕はだんだん不安になってくる。

そ、そんなに大変な傷なのかよ。


『なんだ、全然たいしたことないじゃん』

「ぐあああ!」

「きゃああ!」

「うわああ!」


すると、稲妻が爆発して、ギダツイルたちがはじけ飛んだ。

そ、そんな……最強の防御を誇った布陣が……こんなあっさり……。

こ、これが魔族なのか?

とたんに、僕は嫌な汗をかく。


「ギダツイル、ロカモーノ、リリカーバ! め、目を覚ませ!」


みんな、床でぐったりしている。


『暴れられると面倒だから、縛っておくか』


エビル・デーモンは、魔力の糸でメンバーたちを縛り上げていく。

そのとき、僕は今の状況を理解した。

ひ、一人でこいつを倒さないといけないのかよ。

僕は怖くなってきた。

未だかつて、こんな圧倒されることなんてなかった。


『弱いね、君たち』


エビル・デーモンは、にこにこ笑っている。

僕はその顔を見て、さらに怖気づいた。

こ、こいつは……まだ立ち上がってもいない。


「ま、まだだ! 僕がお前を倒す!」


僕は必死に、<勇者の剣>を構える。

しかし、足の震えがおさまらない。

体に恐怖が染みついていた。


『君、足がプルプルじゃん。大丈夫?』

「う、うるさい!」

『まぁ、いいや。死ね』


エビル・デーモンは、稲妻を飛ばしてきた。

僕は<勇者の剣>で、力の限り受け止める。


「うぐぐ……!」


やがて耐えていると、パシューン! と稲妻を打ち消した。


『へえ……』

「よ、よし!」


さすがはSランクアイテム、伝説の聖剣だ。

い、いける! 勇者の加護があれば、こいつにも勝てる!


「はあああ! くらええええ!」


かなりの勢いで走って、一気に間合いをつめる。

僕は思いっきり斬りかかった。


『ほい』


エビル・デーモンは、僕の剣をひょいっとつまむ。

ただつまんでいるだけなのに、びくともしない。

な、なんて力だ……。


「この……!」

『力も弱いねぇ』


そして、<勇者の剣>はパキーン! と折れてしまった。


「な、なに!? Sランクのアイテムだぞ! ど、どうして……!?」

『ボクの方が強かっただけ。単純なことだよ』

「そ、そんな……」

『さてと、もう殺しちゃうか。飽きてきたし』


え? こ、殺される? この僕が?

いやだ、いやだ、いやだ!

ぼ、僕はまだ死にたくない!

助けて、助けてよ!

僕はエビル・デーモンの前に座る。

そして、床につきそうなほど頭を下げた。


「た、助けてください……あっ」

『勇者が命乞いって、情けないねぇ』


あっという間に、僕も魔力糸で縛られてしまった。

そのとき、他のメンバーたちが目を覚ました。


「ぐっ……」

「体が動きません」

「何があったの」

「お、お前たち……」


彼らはすぐに状況を理解したらしい。

みんな、ブルブル震えている。


「セルフィッシュ、俺たちは……死ぬのか?」

「い、いやです……」

「こんなところで、死んじゃうの……?」

「今、命乞いをしているところだ! お前たちからも頼むんだよ!」


僕が言うと、みんないっせいに頭を下げ始めた。


「た、頼む……! 見逃してくれ!」

「私はまだ死にたくありません! どうか、お助けを!」

「もう討伐なんて考えないから! お願いよ!」


僕たちは、懸命に頼み込む。


『防御結界の暗号を教えてくれたら、助けてあげるよ。言わなかったら殺すけどね』

「ぼ、防御結界……?」

『そうだよ』


そんなことを言ったら、街ががら空きになる。

しかし、エビル・デーモンの目を見ていると、恐怖の方が強くなっていった。

そうだ……住民なんかより、僕の方が価値がある人間なんだ。

僕が助かれば、それでいいんだ!


「防御結界を解除する暗号は……」

『ふむふむ……』



□□□



エビル・デーモンが暗号を言うと、防御結界が消えていった。

モンスターの群れが、グランドビールに向かっていくのが見える。

たぶん、どこかに隠れていたんだろう。

でも、今となってはどうでも良かった。


『アハハ。まさか、ほんとに教えちゃうなんて。君たち、ほんとに勇者パーティーなの? 街の人より、自分たちを優先しちゃうなんて』

「「ぐっ……」」


エビル・デーモンは、ケラケラ笑っている。

しかし、僕たちは何も言い返せなかった。


『そうだ、街の人たちに教えてあげなよ。怖くなって暗号教えちゃったってさ』


僕たちをぶら下げたまま、エビル・デーモンは街に向かって飛んでいく。

下の荒地では、モンスターの群れが進んでいた。

行き先は、もちろんグランドビールだ。

防御結界の消えた今、住民たちを守るものは何もない。

その光景を見て、僕は自分がしたことをようやく理解した。


も、もしかして……僕たちは大変なことをしてしまった?


僕は下半身が温かくなるのを感じた。

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