第20話:街の防衛で無双する

「さて、ここからでもモンスターが見えるな」

〔どんなヤツらがいるのかしらね〕


俺たちは、グランドビール近くの荒地に来ていた。

普段は、ゴブリンとかスライムとかの、ザコしかいないところだ。

しかし、今日はいつもと違った。

遠くから、モンスターの群れがやってくるのが見える。

冒険者たちの中に、緊張が走った。


「クソッ……もうあんなにいるのかよ」

「い、いよいよだな。俺たちにグランドビールを守れるかな」

「なにビビってんだよ。死んでも守るぞ」


防御結界は、グランドビールの人たちなら自由に出入りできる。

すぐに戦いに行けるよう、みんな待ち構えていた。

俺もフル装備になっているので、準備万端だ。


『フハハハハハ!! 覚悟しろ、愚かな人間どもよ!! 今宵、この地はエビル・デーモン様の物となる!!』


めちゃくちゃでかい声だな。

轟くって感じで、荒地が揺れた気がした。


「あいつがボスみたいだな」

〔うるさいわね、あのヘンテコ巨人〕


群れの中に、ひときわ大きなヤツがいた。

Sランクモンスター、ヘカトンケイルだ。

3匹のサイクロプスが合体したようなヤツで、頭も腕も3匹分だ。

遠くからでも良く見えるので、かなり大きいようだ。


「お、おい、あれはヘカトンケイルじゃないか?」

「ウ……ソだろ? あんなでかいヤツに勝てるわけねぇ……」

「エビル・デーモンだけでも大変なのに……」


冒険者たちは、みんな怖気づいている。

Sランクモンスターなんて、そうそうお目にかかれないもんな。


〔ダーリン、あれ見て。モンスターが広がっているわ〕

「めっちゃいるじゃん」


防御結界の周りを、モンスターの群れが囲いつつあった。

こんな数が一気になだれ込んできたら、街は壊滅的だろう。

戦うにしても、冒険者たちの被害は想像もつかない。


「俺たちがあいつらを倒してきますよ。みなさんは、ここで待っててください」


なので、俺とミウで討伐に行くことにした。


「レ、レイクさん!? 何をおっしゃってるんですか!? さすがにあの数をお二人で戦うなんて、無茶ですよ!」

「相手はあのヘカトンケイルです! いくらレイクさんでも、危ないです!」

「考え直してください!」


しかし、冒険者たちが引き留めてくる。


「いや、大丈夫ですから」

〔ダーリンなら問題ないわよ。ダーリンの強さは、よく知っているでしょう?〕

「「そ、それは、十分すぎるほど知っていますが……」」


俺たちは、丁寧に冒険者たちから離れていく。


「決して油断はしませんから、行かせてください」

「わかりました……何かあったら、すぐに助けを呼んでくださいね!」


心配そうだったが、冒険者たちは納得してくれた。


〔じゃあ、行きましょうか、ダーリン〕

「よし、いくぞ! 《ダークネス・テレポート》! 行き先は、ヘカトンケイルの前!」


1秒後、俺たちはヘカトンケイルの前に来た。


『な!? き、貴様、どこから来た!?』

「どこからって、防御結界の中からだよ。転送魔法で来たのさ」


ヘカトンケイルは、めちゃくちゃに驚いている。


『バ、バカを言うな! どれだけ離れていると思うのだ! 魔法陣もなしに、できるはずがないだろう!』

「なぁ、モンスターを連れて帰ってくれないか? エビル・デーモンにも、帰りましょうって言えよ」

『なんだと! 帰るわけがないだろう! 調子に乗るな、人間風情が!』


一応説得を試みたが、全く聞こうとしなかった。

やっぱり、モンスターは凶暴だな。


『死にさらせええ!』


ヘカトンケイルは6本の腕を、高速で殴ってくる。

それを、俺はひょいひょいと避ける。

かなりの速さなんだろうが、余裕でかわせる。

【怨念の鎧】で受け止めても良かったが、最後にもう一度だけ聞く。


『な、なに!? どうして当たらない!?』

「もう一度聞くが、撤退するつもりはないんだな?」

『あるわけないだろうが! 人間どもを殺して、グランドビールは我らがいただく!』

「そうか、くらえ」


俺はヘカトンケイルの足に、【悪霊の剣】をぶっ刺した。


『オガアアアアアアア!!!』


例のごとく、とんでもない悲鳴をあげて、ヘカトンケイルは真っ二つになる。

そのまま、ズズーン! と倒れてしまった。

【悪霊の剣】は相変わらず、ニチャアァ……と笑っている。

う、嬉しいみたいだな。


〔さすが、ダーリンね! 秒で倒しちゃうなんて!〕

「やっぱつええなぁ、呪われた即死アイテムは」


遠くから、冒険者たちのあぜんとする声が聞こえてくる。


「お、おい……マジかよ。一撃で倒しちまったぞ」

「ヘカトンケイルが……真っ二つ……」

「レイクさんは、いったい何をしたんだよ」


『グ……』 『ゲ……?』


モンスターですら、ドン引きしている。

そりゃそうだ。

ヘカトンケイルが真っ二つだもんな。

しかし、気を取り直したように、モンスターは俺たちを取り囲んだ。

見えるだけで、フレイムワイバーン、トロール、グレートウルフなどなど……。

AランクやBランクの、強いモンスターが目白押しだ。


「【闇の魔導書】に、良い魔法ないかなぁ? 全てを破壊する的な」


どうせなら、派手な魔法を使いたかった。

街中じゃ、なかなか難しいからな。

そのとき、ミウにくいくいっと服を引っぱられた。


〔たまには私にも戦わせてよ、ダーリン〕

「いいよ」


ミウは俺の前に出ると、軽く息を吹いた。


〔ふぅぅ……〕


『グギャアアアアア!!!』 『ゴギャアアアアア!!!』


その瞬間、荒地がどす黒い炎に包まれた。

モンスターの叫び声が響き渡る。

そういえば、すっかり普通の女の子だが、ミウは呪い魔神なんだよな。

辺り一面、地獄のような光景だ。

世界が終焉を迎えるときは、こんな感じなのかな?


……ミウは怒らせないようにしよう。


またもや、冒険者たちは呆然としている。


「すげえ……ミウさんもクソ強いじゃん……」

「あんな攻撃、見たことねえよ……」

「史上最強の夫婦って感じだな……」


ちょっと待て、もう夫婦として認識されてんのかよ。

というわけで、街を襲っているモンスターは秒で全滅した。

だが、まだエビル・デーモンが残っている。

勇者パーティーがいかに強くても、相手は魔族だ。


「俺も城に行った方がいいかな? 援軍があった方がいいよな……」

「いえ、レイクさんはここに残ってもらえませんか?」

「またモンスターの群れが来るかもしれません」

「防御結界も破られちまったら、俺たちじゃあんなの倒せません」

「う~ん、それもそうか」

〔少し様子を見ましょう〕


冒険者たちに懇願され、俺たちは街に留まることにした。

たとえ、セルフィッシュたちが負けるようなことがあっても、街は大丈夫だ。

防御結界に囲まれているからな。

暗号を言わなければ、解除されることはない。

いくらあいつらでも、暗号を教えてしまうなんて……さすがにそんなことはないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る