第19話:魔族の城が近くにできた

「ま、魔族の城だって! それは本当か!?」

「本当です、マギスドールさん! すでに、グランドビールへの出撃態勢が整っているという情報も入っています!」

「モンスターの群れが、街を囲みつつあります!」

「今すぐ住民を避難させないと、大変な被害が出てしまいます!」


ギルドの中は、今や大騒ぎだ。


〔ダーリン、魔族の城ってなに?〕

「たまに、魔界から転送されてくるんだ。そして、魔族はモンスターの数倍強いんだよな」


魔族はモンスターの上に立つ存在で、ヤツらを支配している。

知能も高いし、戦闘力も高い。


「セインティーナ様、すぐに避難を!」

「いいえ。住民を見捨てて、私だけ逃げるわけにはいきません。それに、防御結界もまだ十分機能しています」


たしかに、大聖女の作る結界は最強クラスの防御力を持つ。

相手がいかに魔族といえど、打ち破るのは難しいだろう。

しかし、このまま野放しにしておくのはまずい。


「防御結界は暗号を言わなければ、絶対に解けることはありません。ですが、時間が経てば弱ってしまいます。これから私は魔力を補給しに行きます」


そう言うと、セインティーナさんは侍女を連れて、足早にギルドから出て行った。


「ここはやはり、討伐に向かった方が良いだろうな。城のボスは誰なんだ?」

「マギスドールさん! 敵のリーダーは、エビル・デーモンです!」


それを聞いて、ギルドは騒然とした。

マジか、エビル・デーモンかよ。


〔ねえ、ダーリン。強いの、そいつ?〕

「Sランクモンスターであるデーモンの、さらに上位種だ」


ただのデーモンですら、クソ強いモンスターだ。

エビル・デーモンが放つ雷は、どんな物も消し炭にすると言われている。

ネオサラマンダーだって、勝のは難しいだろう。


「エ、エビル・デーモンだって!? こりゃ大変だぞ!」

「下手したら、街が全滅になる!」

「今すぐ住民たちを避難させた方がいいんじゃないか!?」


ギルドの中は、大騒ぎだ。

冒険者たちは、右往左往している。


「みんな、落ち着け!!」


しかし、マギスドールさんが叫ぶと、ギルドは静かになった。

さすがは、ギルドマスター。

こういうときでも落ち着いている。


「街の外に出ると、かえって危険だ! 住民には、魔族の城が出現したこと、いつでも逃げられるよう準備をしておくよう伝えろ! まずは、魔族たちの討伐計画を考えるぞ!」

「「は、はい!」」


冒険者たちは、それぞれの役割に向かっていった。


「レイクとミウ、そしてセルフィッシュたちはこっちに来てくれ!」


俺たちは、マギスドールさんの周りに集まる。


「聞いての通り、魔族の城が現れた。一刻を争う事態だ。すぐにでも討伐しにいかんとならん。しかし、相手はエビル・デーモンだ。ここはエース2人で、力を合わせて戦うのが良いだろう」

「俺もそう思います」

〔それが一番確実でしょうね〕

「いいえ、僕たちで十分ですよ」


しかし、セルフィッシュたちが反論してきた。


「そこのレイクとやらは、街の警護にあたってもらいましょう。エビル・デーモンの討伐は、僕たちに任せていただきたい」

「いや……とは言ってもな。相手はあの魔族で、Sランクモンスターのエビル・デーモンだぞ?」

〔ダーリンの力を借りた方が良いんじゃない?〕


たしかに、セルフィッシュは強いだろうが、戦力は多い方が良いに決まっている。


「ご冗談はやめてください。彼はエースになる前、Fランクだったそうじゃないですか。正直、僕はなぜ彼がエースになれたのか疑問でしてね。魔族の城でも足を引っ張られてはイヤですから」


セルフィッシュに賛同するように、ヤツの仲間がでてきた。


「俺もそう思う。アイツは邪魔だ」

「私たちが囮にされると困りますわ」

「人数少ない方が動きやすいよ」


よってたかって、俺のことを拒絶している。

この前返り討ちしたことが、ヤツらのプライドを傷つけたらしい。


「真のエースが誰かをハッキリさせましょう。私が一人でエビル・デーモンを倒して見せますよ」

「なぁ、セルフィッシュ。そんなこと言ってる場合じゃないだろ。そこまでこだわるんなら、俺はエースをやめるからさ。一緒に倒そうぜ」

「黙ってもらおうか。君の助けなんか、必要ない」


しかし、セルフィッシュに吐き捨てるように言われてしまった。


「まぁ、お前たちが強いのは十分知っているが……レイクと協力してくれないか?」

「私たちの実力を疑っているとでも?」

「いや、そういうわけではないが……」

「今まで、Sランクモンスターを何体倒したか……忘れたわけではないでしょうな? 父上に言って、ここのギルドを取り潰しにしてもいいんですよ?」


セルフィッシュは、マギスドールさんに詰め寄る。

エゴー公爵家は色んなギルドに、支援金を出している。

おそらく、ここもそうだろう。


「で、では頼んだぞ、勇者パーティー。エビル・デーモンを倒して、街の安全を守ってくれ」

「お安いごようですよ」


セルフィッシュは去り際、わざわざ俺の前を通った。


「そこでぼんやりしているといいさ。僕が瞬殺してきてあげるからね。そして、その天使ちゃんは僕がいただく」

「お前……そればっかりだな」

〔だから、気色悪いって〕


ということで、セルフィッシュが魔族を倒しに行って、俺は街の警護にあたることになった。

俺たちは、防御結界のすぐ内側で待機する。


「レイクさん、一緒に街を守りましょう! セインティーナ様の結界があるから、問題ないとは思いますが」

「俺、レイクさんと戦えるなんて、最高です!」

「あなたがいれば、街は平和ですよ!」


冒険者たちは、嬉しそうだ。

士気も高いし、こっちは大丈夫だろうな。


〔頑張りましょうね、ダーリン!〕

「そうだな」


別に、誰が活躍しようが、俺はどうでもいい。

街が無事なら、それが一番なんだ。

だが、俺はちょっぴり心配だった。

まぁ……大丈夫だよな?

だって、あいつらはSランクでめっちゃ強い勇者パーティーだもんな?

きっと、楽勝で討伐してくれるだろう。

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