第18話:大聖女に褒められる
「よお、レイク。ちょっといいか?」
「はい、なんですか? マギスドールさん」
俺たちがギルドでクエストを探していると、マギスドールさんに話しかけられた。
「大聖女のセインティーナ様は知ってるよな?」
「はい、知ってますよ。防御結界に魔力を注ぎに来たんですよね」
「今から、このギルドに来る」
「え、マジすか!?」
「マジだ」
グランドビールに来ているとは知っていたが、ギルドに来るとは聞いていないぞ。
でも、せっかくなら一目見たい気持ちもあった。
「防御結界へ行かれる前に、セインティーナ様からご挨拶があるんだ。お前の活躍を聞かれたみたいでな。ぜひ一度、お話したいとのことなんだよ」
「大聖女様が、俺にですか?」
〔すごいじゃない、ダーリン! やっぱり、ダーリンの活躍は留まるところを知らないわね!〕
そんなことあるのかよ。
大聖女なんて、おいそれと会える人じゃないぞ。
ましてや、話せるなんて。
俺はとたんに緊張してきた。
寝ぐせはついてないか? 顔はちゃんと洗ったか? フ、フル装備になった方がいいのか?
〔ダーリンったら、緊張してるの? かわいい〕
あたふたしていると、ミウに笑われた。
「いや、だって、大聖女だぞ」
〔ダーリンはすごいんだから、堂々としていればいいのよ〕
そのとき、マギスドールさんが号令をかけた。
「みんな、そろそろセインティーナ様がいらっしゃる! 整列してお出迎えするんだ!」
「「はい!」」
冒険者たちは、ぞろぞろ集合してきた。
きちんと並んで、セインティーナさんを待つ。
俺たちは、一番前に立っている。
いつもは騒がしいギルドが、静かになった。
「どんな人なんだろうな」
〔やっぱり、美人さんなのかしらね〕
やがて、セインティーナさんがやってきた。
侍女に付き添われ、しずしずと入ってくる。
冒険者たちが、こっそり話し合う声が聞こえてきた。
「まるで天使のようなお方だ」
「国で一番の美人とも言われているよな」
「死ぬまでに見れるなんて、俺は運がいい……」
すると、彼女たちの後ろから、別の一行が歩いてきた。
つい先日、因縁があったヤツらだ。
「勇者パーティーじゃないか……」
セルフィッシュは、相変わらずのドヤ顔をしていた。
数少ない女冒険者に向かって、手を振っている。
ミウを見ると、ウインクを飛ばしてきた。
「あいつ、何も変わっていないな」
〔懲りないわね〕
セインティーナさんが壇上に立つと、そこだけ教会みたいな雰囲気になった。
「こんにちは、グランドビールのみなさん。私は大聖女のセインティーナと申します」
セインティーナさんはにっこりと笑いながら、深々とお辞儀をした。
声ですら癒し効果があるみたいで、聞いているだけで気持ちが落ち着く。
冒険者たちは、おお……とか、ふぅ……とかしか言わない。
「やっぱり、雰囲気あるな」
〔キレイな人……〕
背がめっちゃ高くて、眩しいくらいの金髪だ。
豊かな髪は、腰くらいまであった。
シスターが着る服の、豪華版みたいな修道服を着ている。
もちろん、宝石とか着飾ってはないけど、とても目を引くようなオーラがある。
いつもは冷静なマギスドールさんも、ドキドキしていた。
「それで、新しいエースが生まれたそうですね? お顔を拝見したいのですが」
「レイク、ミウ来てくれ」
俺はミウと一緒に、壇上に立つ。
手汗がドバドバでてきた。
「あなたが、レイク・アスカーブさんですね。お噂はかねがね聞いていますよ。あのネオサラマンダーを、無事に討伐されたそうですね。あなたのおかげで、尊い命が救われました」
「い、いえ、俺は自分にできることをやっただけで……」
すげえ、大聖女のセインティーナさんだ。
初めて見たぞ。
さ、さすがに大聖女様だな。
美人だ……。
いや、ミウも美人なんだが、タイプが違うっていうかだな。
澄んだ青い目、こういうのを碧眼って言うんだろう。
鼻も高いし、彫刻のようだ。
〔ダーリン、見すぎ!〕
「いてぇ! ごめんって!」
そのとき、ミウにぎゅっと耳を引っぱられた。
ちぎれるかと思った。
「数多の冒険者でも倒せなかったモンスターを倒すとは、素晴らしい力をお持ちなんですね」
「は、はぁ……ありがとうございます」
セインティーナさんは、めっちゃ丁寧だな。
俺みたいな小童にも、こんなことを言ってくれるなんて。
「チッ……!」
しかし、セルフィッシュは、バレないように舌打ちしていた。
俺のことを、ギロリと睨んでいるし。
大聖女の前なのに、そんな態度でいいのかね。
「では、俺はこれで失礼します」
〔ありがとうございました〕
ひとしきり挨拶が終わって、俺たちは降りていく。
「セインティーナ様は、お優しいんだ。本心では、お前のことなどなんとも思っていない。勘違いしないことだな、運だけで成り上がった素人め」
「お、おお……」
セルフィッシュはすれ違いざま、また変なことを言ってきた。
よっぽど、俺のことが嫌いらしいな。
壇上では、マギスドールさんが杯を掲げている。
「では、セインティーナ様のご健康とご多幸をお祈りして……」
そのとき、ギルドの入り口がバーン! と開かれた。
俺はめちゃくちゃ驚く。
「な、なんだ!?」
〔びっくしりたぁ〕
冒険者たちが、大慌てで入ってくる。
厳かな雰囲気が台無しになった。
マギスドールさんが怒る。
「おい、どうした! 騒がしくするんじゃない! セインティーナ様がいらっしゃってるんだぞ!」
「も、申し訳ありません! た、大変なんです……グランドビールの近くに、魔族の城が出現しました!」
冒険者たちが言ったとき、ギルドに緊張が走った。
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