第15話:勇者パーティーに絡まれた

「どこか良い家はないかな? どうせなら、でかい屋敷に住みたいよな」

〔私も広いところがいいわ。まぁ、ダーリンと一緒なら、どんな家でもいいけどね〕

「だから、くっつくなって」


翌日、俺たちは街に出ていた。

もちろん、新しい家探しのためだ。


〔しっかし、なかなか見つからないわね〕

「こんなに家があるのにな」


そうなのだ。

なかなか、俺たちの条件に合う物件がない。

もっと簡単に見つかると思っていたが、少々舐めていたかもしれん。

それに、なるべく早く決めて帰りたかった。

街の人たちがしきりに、握手やらサインやらを求めてくるのだ。


「おっ、ちょっとこの店に入っていいか?」

〔いいわよ。へぇ、色んな家具が売っているわね〕


しかし、途中に俺好みの家具屋があったので、ちょっと寄り道する。


「こんにちは、少し見せてください」

「いらっしゃい。って、レイクさん!? どうぞどうぞ、好きなだけ見てください!」


なんか、店主は半分寝ていた。

と思ったら、すごい勢いでやってきた。

軽く眺めるつもりだったのに、グイグイ引っぱってくる。

まぁ、せっかくだからいいか。

しかし、中に入ってみて、俺は興奮してきた。


……な、なかなか良い店じゃないか。


漆黒のカーテンに、黒塗りされたテーブル、イカつい飾りのついたイスなんかは、魔王城に置いてそうな雰囲気だ。

おまけに、例のロウソクまであるじゃないかよ。


「はぁはぁ……なんて素晴らしい品揃えなんだ……」

〔やれやれ〕


恍惚として見ていると、店主が嬉しそうに近づいてきた。


「どれも、特注の品でございますよ。レイクさんなら、サービスいたします」

「よっしゃ! このカーテンもこのテーブルもこのイスも、全部買うぞ!」


金ならいくらでもあるんだ。

いっそのこと、店ごと買ってしまえ!

とそのとき、ミウに服を引っぱられた。


〔ねえ、ダーリン、家を決める前に買ってどうするのよ〕

「……たしかに」


普通は、順番が逆だろう。

ミウの言う通りだった。


〔そして、ダーリンったら黒いの選びすぎじゃない? そのロウソクだって、オシャレというかなんだか怖いわ〕

「そうかぁ? カッコいいと思うのだが。そういや、店の前にも並んでたな。ちょっと見てこよう」

〔もう〕


店の前にも、かなりセンスの良い小物が置いてあった。

ドラゴンが巻き付いた剣のミニチュアとかだ。


「なんだ、これ!? めっちゃカッコいいじゃないか!」

〔男の子ってこういうの好きねぇ〕


しかも、いじくっていると、剣が抜けた。


「す、すげえ! 本物みたいだ!」


俺は感動する。

こんな小さいのに、技術が詰まっている……!


「おい、そこのお前!」


ここは行きつけするか。


「おい、聞いてるのか!?」

「え? ってうわっ!」


誰かに呼ばれ、後ろを振り返る。

と、俺はめちゃくちゃ驚いた。

勇者のセルフィッシュ・エゴーじゃないか。

グランドビールの、もう一人のエースだ。

そして、その周りには、名の知れた冒険者たちがいる。


「ほんとに、こんなヒョロヒョロがエースなのかぁ? 俺には信じられんな」


大盾使いのギダツイル。


「顔も幸薄そうです。早死にしないといいですが」


ヒーラーのリリカーバ。


「しかも、《解呪》しか使えないらしいじゃない。冒険者の才能がないと思わない?」


女魔導士のザドゥーイ。

ギルドで一番のパーティー、<グローリ・トュー・アス>。

メンバー全員Sランクの、超強いヤツらだ。

王都に行っていたと聞いていたが、戻ってきたのか。


「すげえ、勇者パーティーだ」

「セルフィッシュ様は、やっぱりカッコいいな」

「いつ見ても素敵でございますわぁ」


知らないうちに、人だかりができていた。

セルフィッシュは、にこやかに手を振っている。

それを見て、女の人たち(ミウ以外)はキャーキャー言っていた。


「見ての通り、僕はとても人気者なんだ。こんな僕に話しかけられるだけでも、感謝したまえ」

「は、はぁ……」


おいおいおい、初対面でとんでもないことを言ってきたぞ。

こんな偉そうなヤツが勇者なのかよ。

まぁ、そういう気持ちになるのもわかる。

セルフィッシュは三大名家の一つ、エゴー公爵家の一人息子だ。

恵まれた血筋に、素晴らしい才能。

ある程度は、自信過剰になってしまうんだろう。


「聞いたぞ。Fランクのくせに、エースになったそうじゃないか。グランドビールに、二人もエースはいらん。ましてや、お前はSランクにもなっていないんだろう。どんなズルをしたかはわからないが、私が成敗してやろう」

「いや、何もズルはしていないし、成敗される筋合いもないのだが……」

「言い訳無用!」


どうやらセルフィッシュは、俺がズルをしたと決めつけているらしい。


「いいかい? 君と僕はね、実績が全然違うのさ。ネオサラマンダーの討伐なんて、比べ物にならないくらいね」


セルフィッシュは、とても聞いてほしそうな顔をしている。

俺が尋ねるのを、待っているようだ。


〔ねえ、ダーリン。あの人聞いてほしいみたいよ〕

「そ、そうだな……ゴホン。な、なんだそれは?」


しょうがないから、聞いてやった。


「そこまでして聞きたいのなら、教えてやろう。大聖女セインティーナ様の護衛を勤め上げたんだ。君みたいな平和ボケした庶民は忘れているだろうが、そろそろ防御結界のエネルギー充填が必要だからね」


そういえば、大聖女が来るとかなんとか言っていたな。


〔ダーリン、ここには結界があるの?〕

「モンスターに攻められないよう、街をぐるっと囲むようにあるぞ。定期的に、聖女さんに魔力を注いでもらってるんだ」

「セインティーナ様も、お前のような素人がエースだと知ったら、さぞかし残念だろうよ。そして、哀れなお前に捕まった天使を、僕が解放してやろう。この僕、セルフィッシュ・エゴーがね」


セルフィッシュは、じっとミウを見つめている。

おまけに、顔の周りがキラキラ光っていた。

こいつもミウ目当てかよ……。

というか、天使ってなんだ?

どんだけキザな野郎だ。


「さあ、僕が鳥かごから解き放ってあげるよ」

〔気色わるー〕


さりげなくミウの手を触ろうとするが、ミウはひょいっと引っ込めた。

ガイチューといい、こいつといい、この街には貞操観念ないマンが多すぎないか?


「ふんっ、まあいいだろう。向こうの小さな森に、少し開けた場所がある。そこで勝負といこう」

「いや、なんだよ、いきなり勝負って」

「勝者が、そこの天使を貰うことにしよう」

「おい、ミウは物じゃないぞ」


ミウを物みたいに言ってくるので、俺はムカついてきた。

この先もちょっかいを出されるのは、イヤだ。

ミウだって、不快な気持ちになるだろう。


〔ダーリン、こういうヤツは一度ぶちのめした方が早いわよ〕


たしかに、しっかり戦った方が良いかもしれん。


「わかったよ」


ということで、俺たちは森までやってきた。


「あれ、セルフィッシュ様とレイクさんじゃね?」

「なんか、今にも戦いそうな雰囲気だな」

「マジか! こりゃ見ものだぞ!」


森の中なのに、住民や冒険者たちが集まってきた。

ついてきたらしい。


「さあ、始めようか」

「セルフィッシュ、そんなヤツ瞬殺しろ!」

「格の違いを見せてやりなさい!」

「コテンパンにしてやるのよ!」

〔ダーリン、頑張ってー!〕

「いや、ちょっ」


なんとなくついてきちまったが……どうすりゃいいんだ?

セルフィッシュとパーティーの面々は、俺のことをバカにした目で見ているぞ。

正直なところ、俺はどうやって戦おうか迷っていた。

呪われた即死アイテムは、オーバーキルも過ぎるよな?


「まぁ、どんな武器を出そうが、僕の<勇者の剣>には勝てないだろうがね。この僕の、伝説の聖剣には」


そう言うと、セルフィッシュはドヤ顔で剣を掲げた。

白い刀身に、金の柄が特別感を出している。



<勇者の剣>

ランク:S

能力:勇者の加護を与える

※選ばれし者にしか使えない



う~ん、Sランクかぁ。

あれは、ウワサに聞いた伝説の聖剣だ。

しかし、俺の装備がインフレし過ぎていて、いまいち実感がわかない。


「おい、君。武器を出したまえ」

「え? 武器? いや、別に武器なんて出さなくていいだろ」


セルフィッシュは、<勇者の剣>を持っている。

が、俺は丸腰だ。

呪われた即死アイテムは、亜空間にしまってあるからな。


「武器を出したまえ。負けた言い訳を、あれこれ言われても面倒だからな。それとも、武器を貸してやろうか?」


セルフィッシュは、パーティーと一緒にヘラヘラ笑っている。

ええい、しかたない。

とりあえず、【悪霊の剣】だけ装備するか……よし、来い!

念じると、亜空間から転送されてきた。


「な、なに!? どこから武器を出したんだ!? まさか、転送魔法が使えるのか!?」


セルフィッシュとメンバーたちは、めっちゃ驚いている。

まぁ、いきなり剣が出てきたからな。


「いや、まぁ、しまってたんだよ」


【悪霊の剣】は、ニチャアァ……と嬉しそうに笑っている。

セルフィッシュを、即死させる気マンマンだった。


「な、なぁ、やっぱりやめにしないか」

「どうした、怖気づいたのか? やめるわけないだろ。しかし、ククリか、珍しいな。意外と楽しめるかもしれん」


珍しいな、じゃなくて。

お前の命がかかっているんだって、マ・ジ・で。

そっちの武器だって、見るからに勇者の剣!! って感じじゃないか。

もうそれでいいじゃないかよ。

どうして、そんなに突っかかってくるんだ。


「おい、聞いているのか?」

「え? ああ、すまん」

「君のような悪魔を倒して、そこの天使は僕がいただく! 覚悟しろ!」


セルフィッシュが、思いっきり突っ込んできた。

さすがは、勇者でSランクの冒険者だ。

身のこなしが、ハイレベル極まりない。

しかし、俺には止まって見えた。

【悪魔のポーション】で、動体視力まで強化されているからだ。


〔いっけー! やっちゃえ、ダーリン!〕


俺はギリギリまで迷っていた。

【悪霊の剣】を使ったら、セルフィッシュが真っ二つになる。

かと言って、体で受け止めたら<勇者の剣>がへし折れる。


どうすりゃいいんだ……。


とりあえず、適当に魔力を飛ばしてみるか。

解呪するときみたいに……それ!

俺から放たれた魔力が、セルフィッシュに向かって飛んでいく。

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