第16話:呪われた即死アイテムはまだまだあるらしい

「おごおおおおおおおあああ! ぶへええええ!」


俺の魔力が当たった瞬間、セルフィッシュは吹っ飛んだ。

そのまま木に激突して、動かなくなった。

さすがは、【悪魔のポーション】。

単なる解呪用の魔力弾なのに、とんでもない威力だな。

一応心配なので、俺は近づいていく。


「おーい、大丈夫かぁ?」


結構派手にぶつかってたけど、まぁ平気だろ。

何と言っても、Sランクで勇者なんだからな。


「セルフィッシュ様、動かないぞ」

「それにしても、すごい勢いで飛んでったな」

「レイクさんはどんだけ強いんだよ」


しかし、セルフィッシュは目覚める気配がない。

それどころか、体が変な向きに曲がっているような……。

ヤベぇ、死んじまったか!?

俺は冷や汗をかく。


「セルフィッシュ、大丈夫か!?」

「勇者様、起きてください!」

「しっかりして!」


パーティーメンバーたちが、慌てて駆け寄った。


「私が回復させます! 《グレート・ヒール》!」

「……ぐっ」


リリカーバに回復されていると、セルフィッシュは目を覚ました。

俺はめちゃくちゃホッとする。


「おい、見たか? セルフィッシュ様、簡単に倒れされたぞ」

「レイクさんの方が強いんだな」

「さすがは、史上最速でエースになった方だ」


群衆は、コソコソ話している。

しかし、セルフィッシュは我慢できないらしい。


「おい、もう一度勝負だ! こんなことで、僕に勝ったと思うなよ!」


セルフィッシュは立ち上がった。

だが、足がプルプル震えている。

どこからどう見ても、これ以上戦うのは無理だ。


「もうやめとけよ。ケガしちまうぞ」

「ま、まだだ。まだ僕は戦える!」


しかし、セルフィッシュは<勇者の剣>を構えたまま動かない。


「なぁ、ほんとに戦うのかよ」

「だから、そうだと言ってるだろ! 君のような素人に、僕が負けるはずがないんだ! 早く、最初の立ち位置に戻りたまえ!」

「わかったよ……」


いくら言っても聞かないようだ。

群衆の手前、これ以上醜態をさらせないってことらしい。


「さあ、どこからでもかかってこい! 今度はさっきのようにはいかないぞ!」

「そうか」


俺は思いっきり踏み込んだ。

と、秒でセルフィッシュの前に来た。

身体能力666倍なので、もう何でもやり放題だ。


「な!? い、一瞬で間合いを詰めるなんて!?」


セルフィッシュは驚くばかりで、まともに動けていない。

俺は気にせず、右の拳でセルフィッシュの顔面を……。


「くらえ」

「やめろやめろ! やめてくれええええ!」


殴らずに、空中を殴った。

さすがに、セルフィッシュを殺そうなどとは思っちゃいない。

俺はアイテム狂いのイカれた狂戦士じゃないからな。

ちょっとビビってくれれば、それでいい。

ブオン! と突風が木々の中を揺らす。


「こんなところでいいかな」

「あっ……」


セルフィッシュは、ドサッと倒れた。

そのまま動かない。


「平気か? 返事をしろよ、セルフィッシュ」


声をかけても、うんともすんとも言わない。

ま、まさか、死んでないよな?

俺はまた心配になってくる。

そのとき、見物人の一人が叫んだ。


「お、おい、勇者様、気絶してるぞ!」


セルフィッシュは、地面でのびている。

やがて、ズボンの周囲がじわじわと茶色になっていった。

うげえ……マジか。

液体と固形物を漏らしていた。


「うわっ、きたねー!」

「ほんとに勇者かよ、情けない……」

「そういえば、セルフィッシュ様は自分から突っかかっていたよな。それで負けるなんて、みっともないな」


群衆は、みんなセルフィッシュのことをバカにしていた。


「ちくしょうー! 覚えてろよー!」

「私たちに恥をかかせるなんて、絶対に許しません!」

「今度会ったときは、タダじゃおかないからね!」


セルフィッシュの仲間は捨てゼリフを吐きながら、どこかへ行ってしまった。


「大丈夫だったか、ミウ。すまんな、騒がしくて」

〔ダーリン、ありがとう。私を助けてくれて〕

「いや、だから、抱きつく必要は……」


ミウは、むぎゅうっとくっついてきた。


「いいぞー! もっとやれー!」

「まったく、レイクさんも隅に置けないな!」

「すごく良い試合だったぞ!」


周りの人が、パチパチと拍手をしている。


〔あの人たちは、なんだったのかしらね〕


ミウは相変わらず、淡々としていた。

しかし、銀髪はやっぱり目立つようだ。

帽子とか被せた方が良いのかな?


「さて、家探しを再開するか。できたら、今日中に何か見つかるといいんだが……」


ひとしきり終わったが、引っ越し先はまだなんだよな。

セルフィッシュたちのせいで、余計な時間を使ってしまった。


〔ダーリン、あそこの家なんかどう?〕


ミウが、街外れの丘を指している。

ポツンと一軒家が立っているのが見えた。


「ちょっと寂しいところにあるな」

〔でも、大きな館みたいよ。あの家は良さそうじゃない?〕


ここからでもなんとなく全体が見えるので、結構でかそうだ。

街の中では建物で隠れていて、見えなかったのだ。

人が住んでそうな気配はなかった。

しかし、ちょっと不気味な感じがする。


「まぁ、せっかくだから見に行ってみるか」

〔そうしましょう〕


俺たちは丘に向かって歩いていく。


「それにしても、呪われた即死アイテムがもう無いなんて寂しいよなぁ」


せっかく俺好みのシリーズが見つかったのに、これ以上ゲットできないのは残念だ。

すると、ミウの口から衝撃的な言葉が出てきた。


〔いいえ。呪われた即死アイテムは、まだまだたくさんあるわ〕

「え? そうなの? てっきり、<呪い迷宮>に隠されているアイテムだけだと思ってたよ」

〔世界中に散らばっているの。もしかしたら、あの家もそうだったりして〕

「そんな、まさか」


そのうち、屋敷が見えてきた。

はたして、条件に合う家なのかどうか、それが問題だ。

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