第13話:末路(Side:ガイチュー④)

「お前たちは、街を守るのが仕事だろが! なんてことをしてくれたんだ!」


マギスドールの怒鳴り声が、ギルド中に響き渡る。

俺たちは、太い縄で縛り上げられていた。

ギッチギチにしめつけられていて、体中が痛い。


「死人が出なかったのが、奇跡なくらいだ! レイクがすぐに消火してくれたから良かったものの……街の被害は甚大だ!」


マギスドールは、なぜかダーリン様をレイクと呼んでいる。

たぶん、下の名前だろう。

あのゴミ虫と同じなんて、面白い偶然だ。


「こ、この縄を解きやがれよ……」

「痛くてしかたないですわ……」

「頼む……」

「暴れたりしないから、せめてもっと優しく……」


俺たちは必死に頼み込む。

とにかく体が痛いんだ。


「そんなことが言える立場か!? 調子に乗るな!」


しかし、ものすごく怒鳴られた。

さすがの俺たちも縮み上がる。


「「うっ……」」

「お前らがしたことを、その目でよく見てみろ!」

「い、いてえな! や、やめろ!」

「うるさい!」


俺たちは押されながら、窓の近くにきた。


「この惨状を見ても、まだそんなことが言えるのか!?」

「ぐっ……そ、それは……」


ここから、街の様子がよく見える。

辺り一面、黒焦げだった。

ほとんどの建物は壊れかけていて、ボロボロだ。

かろうじて形を保っている、といった感じだ。


「こんなんじゃ、危なくて誰も住めないぞ! 私たちが何年もかけて復興してきたというのに……! これでは、後戻りじゃないか!」

「お前たちのせいで、こんなことになったんだよ! 直せ! 弁償しろ!」

「今さら普通の人生が送れると思うなよ!」


冒険者たちも、いっせいに罵倒しはじめた。

こ、これ、結構ヤバくないか?

今になって、俺は自分が大変なことをしたとわかってきた。

ネオサラマンダーの封印を解くという禁忌を犯し、そのおかげで街は半壊。

しょ、処刑されるかもしれん。


「こ、こんなことになるとは思わなかったんだよ! た、頼む、見逃してくれ!」

「「見逃すわけないだろ!」」


お、俺はいったいどうなっちまうんだよ……。

俺はチラッとダーリン様を見る。

頼む、助けてください……。


〔この魔法ならいいんじゃない?〕

「そうだね」


ダーリン様は、銀髪女と分厚い本をめくっている。

見るからにすごそうな本だな。

そういえば、あの銀髪女は、無能レイクと一緒にいたヤツだ。

なんでダーリン様といるんだ?

そうか、レイクは取られちまったわけか。

まぁ、あんだけ強ければしょうがないな。

ざまぁみろ、ゴミ虫レイクめ。


「俺ならどうにかできるかもしれません。街全体の建物を、修理できる魔法があります」


そこで、あのダーリン様が出てきた。


「いくらレイクでも、さすがにそれは……」

「私だってそんな魔法は、聞いたことがありませんよ」

「ネオサラマンダーを倒してくださっただけで、十分すぎるくらいです」


マギスドールや冒険者たちに構わず、ダーリン様は窓へ近づいていく。


「いえ、まぁ、ちょっとやらせてください」

「そ、そうか? そこまで言うなら……」

「ありがとうございます、マギスドールさん。では、《ダークネス・リペア》! 範囲は、この街全体!」


すると、建物が淡い緑の光に包まれた。

な、何が起きているんだ?

やがて、がれきが建物にくっつき、元通りになっていく。

黒焦げも消え、新築のようだ。

し、信じられん……。

ギルドの連中も、ポカンとしているだけだ。


〔ほんとに全部直っちゃったわ〕

「まぁ、こんなところで大丈夫だと思いますよ」


とんでもない魔法を見せたのに、ダーリン様はしごくあっさりとしている。

あれが本当の強者なんだろうな。


「な、なんてことだ……街が直ってしまったぞ!」

「こんなすごい魔法があるなんて!」

「す、すごすぎる!」


ギルドの中は、拍手で包まれた。

その様子を見て、俺はちょっとホッとした。

この感じなら、許してくれそうだな……。


「さて、街は直ったが、お前たちの罪は消えないからな」


マギスドールに言われ、俺はドキッとする。


「ガイチュー、お前たちはワーストプリズン島行きだ!」


な……んだって……?

絶海にあると言われている、大罪人を閉じ込めている島だ。

監獄とは名ばかりに、人としての扱いを受けられない。


「た、頼む! それだけは勘弁してくれ!」

「黙れ! 当然の報いだ!」

「や、やめてくれー!」


そのまま、俺たちは連行されていく。

だが、ダーリン様の前を通ったとき、俺は力をふり絞って抵抗した。


「おい、こら! 早くしろ!」

「ぐっ……! せ、せめて……あなた様のお顔を見せていただけませんか?」


この方は、命を救ってくれたのだ。

最後に顔だけでも見ておきたい。


「わかった」


ダーリン様は、ゆっくりと兜を外していく。

俺は緊張してきた。

いったい、どんな人なんだろう。

きっと傷だらけで、歴戦の勇者って感じなんだろうな。

あれ、そういえば、どこかで聞いたことがあるような声……。


「ガイチュー、自分たちの罪をしっかりと償え」


…………………………は? 

俺は目の前のことが信じられなかった。

女どもも、驚きの表情をしている。


「レ、レイク……?」

「どうして、兜の下からアンタが出てくる?」

「その鎧や本はいったい……?」


レイク?

なぜアイツがこんなところにいるんだ?

なに、そんな鎧をつけてるんだよ。

ダーリン様はどこ行ったんだ。

なんで、なんで、なんで?


「俺はお前たちに追放されたあと、隠し部屋で呪いのアイテムを見つけたんだ。この鎧や魔導書も、呪いのアイテムさ」


な、何を言っているんだ?

俺は頭がおかしくなっちまったようだ。

こいつの言葉がわからない。

いや、待て。

俺は落ち着いて、呼吸を整える。



つまり、ダーリン様は…………レイクだったってこと?

俺はレイクに命を救われたってこと?

あのゴミ虫に?



「ふざけんなあああああ! そんなわけないだろおおおお! レイク、貴様あああああ!」


俺はめちゃくちゃに暴れ回る。

絶対に信じないぞ!

これはきっと、悪い夢だ!


「おい、暴れるな!」

「みんなで取り押さえろ!」

「やっぱり、こいつはまともじゃない!」


屈強な冒険者たちが、いっせいにのしかかってきた。

ものすごい力で、俺を抑えつけてくる。


「っ……!」

「さようなら、ガイチュー」


意識が遠のいていく中、レイクの言葉が聞こえてきた。

なんで……なんで、レイクが!?

ふざけんな、俺はまだ……。

そして、俺は意識を失った。



□□□



「うっ、ここは……どこだ?」


目が覚めると、俺は暗いところにいた。

じっとりしていて、不快感マックスだ。

ぼんやりしていると、グスグス泣く声が聞こえてきた。

パーティーメンバーたちだ。

なんだ、いたのかよ。

俺は少し安心する。


「おい、お前ら。ここはどこだ」

「ワーストプリズン島……ですわ」

「なん……だって?」


よく見ると、目の前に鉄格子がある。

かなり頑丈そうで、とても曲げられないだろう。

ようやく、俺は状況がわかってきた。

ここは……牢屋だ。


「な、なんで俺たちがこんなところにいるんだよ!? 何かの間違いじゃねえのか!?」

「ほんとにわからないのですの!?」

「アンタのせいで、街が壊滅しかけたからに決まってるだろ!」

「どうしてくれんだ!」


女どもが、いっせいに掴みかかってきた。

な、なんだよ、こいつら。

全員目が血走っていて、めちゃくちゃ怖い。


「うるさいぞ! 静かにしろ!」


騒ぎを聞きつけて、看守たちがやってきた。


「こ、ここから出してくれよ!」


俺は鉄格子にすがりつく。


「うるせえ! 静かにしやがれ!」

「出すわけねぇだろ、ゴミ虫が!」

「お前らは死ぬまでここで暮らすんだよ! 命があるだけ感謝しろ!」


しかし罵詈雑言を言うと、看守たちはいなくなってしまった。


「私たちは、一生このままですわ!」

「ガイチュー様……いや、ガイチューのせいだ!」

「そうだそうだ! 今まで下手に出てれば調子に乗って!」


あろうことか、俺に逆らってきやがった。


「なんだと、コラァ! お前ら俺に……!」

「アンタのせいで、人生がめちゃくちゃよ!」

「どうしてくれるんだ!」

「死ね死ね死ね!」

「うわっ! やめろ、お前ら! いてっ! や、やめて!」


俺は髪の毛をむしり取られていく。

クソッ、どうしてこうなったんだ。

そうだ、レイクを追放してからおかしくなったんだ。

今思えば、解呪に関しては、あいつは誰よりもすごかった。

呪いを気にせず戦えていたから、ここまで来れたんだ……。

まさか、あんなに強くなるなんて。

あいつを追放したりしなければ……。

ボカスカ殴られながら、俺はいつまでも後悔していた。

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