第12話:アイツらのやらかし

「さてと、今日はどのクエストにしようかな」

「このグリズリーの群れの討伐とかどうだ? Bランクだが、こういうクエストもやっておくのは結構大事だぞ」

〔何匹いても、ダーリンならすぐ倒しちゃいそうね〕


俺たちはギルドで、クエストボードを眺めていた。

マギスドールさんも一緒だ。


〔ねえ、ダーリン。何か焦げ臭くない? それに、なんだか騒がしい気がするわよ〕

「焦げ臭い?」


そういえば、たしかに何かが燃えている臭いがする。

大通りも騒がしいようだ。


「なにかな、ちょっと様子を見てみよう」

〔そうね〕

「心配だな。どこかで火事でも出てるのか?」


俺たちはギルドの外に出た。

そこには、見たこともない景色が広がっていた。


「マ、マギスドールさん!?」

「なんだ、これは!?」

〔街が、燃えているわ!〕


いったい、何があったんだ。

そこかしこから、真っ赤な炎が上がっている。

ギルドの人たちも気づいたようで、外に出てきた。

人々は逃げまどい、パニックが起きている。


「おい、何があったんだ!」


マギスドールさんが、道行く人に大慌てで尋ねる。


「ネオサラマンダーの封印が解かれちまったらしいです! 街中で暴れまくっています!」


俺はそれを聞いて、ドキッとした。

ネオサラマンダー……あの大惨事をもたらしたモンスターじゃないか。


「な、何だって!? こいつは大変だ! お前ら、今すぐ戦闘態勢を整えろ!」


マギスドールさんは、冒険者たちに向かって指示を出した。


「ネ、ネオサラマンダー!? 勝てるわけねえ!」

「俺たちで討伐すんのかよ!? 無理に決まってる!」

「やるしかねえだろ!」


今や、ギルドの中も大騒ぎだ。


〔ダーリン、ネオサラマンダーってなに?〕

「街の近くで封印されていた、超強いSランクモンスターだよ。どうして、封印が……」


だが、考えているヒマはない。

今は街の安全を確保しないと。

呪われた即死アイテムこい!

瞬時に、俺はフル装備になる。


〔まずは火を消した方が良さそうね。このままじゃ、みんなが蒸し焼きになってしまうわ〕

「ネオサラマンダーから出ている炎は、ただの炎じゃないんだ。水魔法が得意な人に消してもらわないと」


こいつの炎は特殊で、ただ水や砂をかけただけでは消えない。

相当な魔力を込めた水魔法でないと、消火できないのだ。

それが、数十年前の大惨事を引き起こした、大きな原因だった。


「おい、火が消えねえぞ! Aランクの魔法だってのに!」

「頼む、誰かSランクの魔導師を連れて来てくれ!」

「クエストでいないよ! このままじゃ、街が火の海に飲まれちまうぞ!」


今も、冒険者たちが消火を頑張っている。

しかし、消える様子はまったくなかった。

ネオサラマンダーが強すぎるのだ。


「まずは火を消さないと。【闇の魔導書】に何かないか!?」

〔そうね。雨降らしの魔法とかないかしら〕


俺たちは急いで、ページをめくっていく。

使えそうな魔法が、絶対にあるはずだ。


「おっ、これならいけるんじゃないか?」



《ダークネス・レイニー》

ランク:SSS

能力:あらゆる火魔法を無力化する雨を降らす



まさに、この状況にピッタリだ。


〔やりましょう、ダーリン!〕

「よし、《ダークネス・レイニー》!」


すると、みるみるうちに空が黒くなってきた。

ポツポツと、紫の雨が降ってくる。

やがてどしゃ降りになり、ネオサラマンダーの炎がどんどん消えていった。

その様子を見て、周りの人たちが驚いている。


「す、すげえ……」

「なんだよ、あいつ……」

「こんな魔法があるのか……?」


火が消えていくにつれ、街も落ち着きを取り戻してきたな。

冒険者たちが、避難誘導している。

これで、とりあえずは大丈夫そうだ。

となると、次はネオサラマンダーだ。


「これで、火事がおさまるはずだ。ネオサラマンダーは、どこにいるんだろう?」

〔まだこの近くにいるのは、間違いないけど〕

「ぐあああ! 助けてくれええ!」


そのとき、男の人の叫び声が聞こえてきた。


「危ない! 誰かが襲われている!」

〔急ぎましょう!〕


声がした方に、俺たちは大急ぎで向かう。

なんだろう、どこかで聞いたことがあるような……。

少し走ると、ネオサラマンダーがいた。

誰かが、壁に追いつめられている。

離れていても、すごい熱さを感じる。


「ちくしょう! この野郎、あっちに行け!」

「ああ、もうダメですわ!」

「まだ死にたくない!」

「熱いー! 誰か、助けて!」


ガイチューたちじゃないか、どうしてここに。

よくわからないが、何か色んな物を抱えこんでいる。

高そうなアイテムや、武器、それに……金貨。


「なにやってるんだ、あいつら」

〔きっと、色んな家から盗んでいるのよ。火事場泥棒ってヤツね〕


たしかに、ガイチューたちならやりかねない。


「なんてひどいヤツらだ」

〔あんな人たち、ほっといていいんじゃない?〕

「いや、そういうわけにはいかないよ」


目の前で見殺しにするのは、さすがに気分が悪い。


「おーい、ネオサラマンダー! こっちだ!」


俺が叫んでいると、ネオサラマンダーはこっちを向いた。


『グオオオオオオオオ!』


見ただけで突進してきたぞ。

こいつは本当に凶暴な性格だな。

紙一重でかわし、俺は【悪霊の剣】を突き刺した。


『グギャアアアアアア!!!』


その瞬間、ネオサラマンダーの体が真っ二つになった。

血がドバドバ出ている。

即死だ。

激しい炎も消え、ただのでかいトカゲみたいになっている。


〔ダーリンは強いわねぇ〕

「しかし、このアイテムは本当にすごいな」


ガイチューたちは、あぜんとしている。

まぁ、軽く声でもかけとくか。


「だ、大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます! 俺、めっちゃ怖かったです! おかげで助かりました! ダーリン様とおっしゃるのですか!?」

「あなた様は、命の恩人ですわ!」

「こんな強い人は初めて見た!」

「いくら感謝してもしきれないよ!」


ガイチューたちが、泣きながらすがりついてきた。

鼻水がダラダラしていて、とても汚い。

いや、ダーリン様って誰だよ。

そうか、【怨念の鎧】をつけてるから、俺だとわからないのか。


「ちょ、ちょっと離れろ」

「「うっうっ、ダーリン様ああ!」」


徐々に、人が集まってきた。

建物の影から、俺たちの様子を伺っている。

しかし、ネオサラマンダーの死体を見た瞬間、いっせいに走ってきた。


「すげえ、アンタがやっつけてくれたのか!?」

「真っ二つじゃねえか!? いったい、何をしたらこうなるんだよ!?」

「さっきも不思議な雨で火を消してくれたよな! 街の英雄だ!」


そのとき、人だかりの中から、魔導師や戦士のような冒険者が出てきた。

立派な紋章をつけている。

たぶん、対ネオサラマンダーのチームだな。

ネオサラマンダーなら、俺が倒しましたよ……と言おうとしたら、ガイチューたちの前に立った。


「おい、貴様ら! 祠の封印を解きやがって! どうしてくれんだ! 大変なことになってしまったぞ!」

「は、はぁ!? ふざけたこと言ってんじゃねえ! どこに証拠があるんだ!」

「言い逃れできると思うな! 記録魔法で記録されているんだぞ! お前らがしたことは、大罪だ! これを見ろ! 《プレーバック》!」


魔導師が呪文を唱えると、映像が映し出された。

ルドシーの祠の中だ。


(おらあ! くらいやがれ!)


(よし、いっせいに壊すぞ)

((せーのっ!))


(この騒ぎを利用して、金目の物を盗むぞ)


そこには、ガイチューたちが魔道具を壊す様子まで、鮮明に映っていた。


「こ、これは、その……そんなつもりじゃなかったんだ……勘弁してくれよ……」


いや、マジか。

こいつらはネオサラマンダーの封印を破ったあげく、泥棒までしていたのかよ。

街のひとたちは、ガイチューたちを睨んでいる。

ものすごい怖い目だ。

まったく、困ったことをしてくれたもんだな。

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