第11話:一発逆転(Side:ガイチュー③)

「クッソ! これからどうすりゃいいんだ!」


俺たちは、とりあえず宿に戻っていた。

だが、ここにいられるのも今日までだ。

家賃を払う金もないので、出て行くしかない。


「どうして、こんなことになったんでしょう……」

「最悪の日々……」

「もう、田舎に帰ろうかな……」


女どもはみんな、ふさぎ込んでいる。


「おい、そんなに暗い顔するなって! 今にまた金が入ってくるさ!」


俺は慌てて言った。

ここで孤立したら、それこそ冒険者人生が終わっちまう。

どうにかしないと……。


「でも、こんなんじゃクエストにも行けませんわ。武器がないんですもの……」

「杖がないと、強い魔法は使えない……」

「私だって、せっかく作っておいた回復魔法水が取られてしまった……」


俺たちは1ゼニーもないし、アイテムもない。

討伐系クエストで、さすがに丸腰は不安だ。

ゴブリンやスライムはザコもザコだが、万が一でもケガするとまずい。

状況が悪くなってきたとたん、気弱になってきたぞ。


「とりあえず、採取系のクエストで資金を集めませんか?」

「ふざけんな! 今さら薬草取りとか、やってられるかよ! 俺たちはAランクパーティーだぞ!」


<クール・ブリーズ>は、今が一番大事なときだ。

順調に難しいクエストをクリアして、ようやくAランクまできた。

こんなところで、Fランククエストとかやってみろ。

とたんに信用を失いかねんぞ。

かと言って、装備やらアイテムやらを、新たに買う金すらない。

クエストに行こうにも、まともに動けないのだ。


「あああ! ちくしょう、レイクのゴミ虫め……!」


思い出したら、またムカついてきたぞ。

そこで、俺は名案を思いついた。

めちゃくちゃ危険な賭けだ。

しかし、成功すればかなりの大金が手に入る。


「お前ら、ちょっと聞け。街の近くに、ネオサラマンダーが封印されているのは知ってるよな?」

「ええ、それはもちろん知っていますわ」

「冒険者になるときは、みんなギルドに教えてもらう」

「あの忌まわしい所業を知らない人はいないはず」


Sランクモンスター、ネオサラマンダー。

今から数十年前、グランドビールに大惨事をもたらしたヤツだ。

聞いた話だと、街の半分が焼け野原になっちまったらしい。

当時のギルド総出で戦って、なんとか壊滅を防いだそうだ。

今は街の外れにある、ルドシーの祠に封印されている。

討伐しようにも、強すぎて倒せなかったのだ。

どうやら、かなり凶暴な性格らしい。


「ガイチュー様、どうしてそんなことを聞くんですの?」

「ネオサラマンダーを捕まえて、俺たちで売るんだよ。あいつを売れば、金になるはずだ。世の中には物好きが多いからな。裏ルートに流せば、相当高く売れるぞ。一発逆転するんだよ」


かなり危険はあるが、なかなかの案だろう。

しかし、女どもはポカンとしている。


「ガ、ガイチュー様!? それはさすがにダメですよ!」

「絶対に解くな、と言われている封印だ!」

「大惨事になってしまう!」


みんないっせいに反論してきた。

ああだこうだの大騒ぎだ。

クソッ、予想以上に反発しやがるな。

ここにはヘタレしかいねえのかよ。


「うるせえ! このまま引き下がれるか! リーダーは俺なんだから、言うこと聞きやがれ!」

「「ひいいいい! お許しくださいいい!」」


殴るフリをすると、女どもは静かになった。

言うことを聞かないヤツは、暴力で支配するのが一番だ。


「それに、長い間封印されているから、ネオサラマンダーも弱っているだろ」


ヤツはもう、何十年も封じられている。

いくら強かろうが、さすがに衰えているはずだ。


「いや、でも、やっぱり良くないと思いますわ。やめましょうよ、ガイチュー様」

「禁忌を犯すのはまずい」

「またネオサラマンダーが暴れたりしたら……」


だが、女どもは相変わらず、ブツブツ文句を言うだけだ。


「うるせえ! いつまでもグズグズ言ってんじゃねえ! 俺の言う通りにしろってんだよ!」

「「ひいいいい! わかりましたあああ!」」


怒鳴りつけると、ようやく俺の言いなりになった。

まったく、世話のかかるヤツらだな。


「で、でも、アイテムも装備もないのに、どうやって捕まえるんですか?」

「大丈夫だ。警備のヤツらから奪えばいい。もしものために、対ネオサラマンダー装備を持っているはずだ」


ルドシーの祠では、交代で魔導師やら戦士やらが見張っている。

封印の魔道具には、定期的に魔力を供給しないとならんからな。

そこを狙って不意打ちすれば、十分勝てるだろう。

そもそも、俺たちはAランクパーティーだ。

ヤツらとはそれほど実力差はない。


「そうと決まったら、すぐ始めるぞ。いくぞ、お前ら!」

「「は、はい……」」


そして、俺たちは宿屋を出て行った。



□□□



「誰も後をつけてないな」


ということで、俺たちはルドシーの祠に来ていた。

街の外れにあるので、人通りも少ない。


「ガイチュー様、ほんとにやるんですか?」

「なんだよ、ビビってんのか。ここまで来たら、やるしかないだろ」


慎重に進んでいく。


「おっ、さっそく何人かいたぞ。お前ら、静かにしろよ」


祠の奥に、魔導士が2人と戦士が1人いた。

装備に対ネオサラマンダーの紋章がついているので、間違いない。

ぼんやり光っている、結界みたいなバリアの前に立っていた。

だが、みんな何かに夢中だ。

おそらく、魔力注入に集中していて、周りが見えていないようだ。

これなら、不意打ちすれば余裕で倒せる。


「おらあ! くらいやがれ!」

「ぐあああ!」

「なんだ、お前ら!」


俺たちは警備のヤツらを倒した。

思いっきりぶん殴ったので、簡単には目覚めないだろう。


「ほお、これがネオサラマンダーか。へっ、思ったより小せえじゃねえか」

『キュルル』


結界の中に、トカゲのような赤いモンスターがいた。

両手にすっぽりおさまりそうな大きさだ。


「ほんとにこいつが、街を壊滅させかけたのかぁ?」


たしかに、体から炎が出ている。

しかし、ロウソクの火のように弱弱しい。

適当に水をかけるだけで消えそうだ。


「思っていたのと違いますわね」

「ずいぶんと小さい」

「たしかに弱っているのかも」

「だから、俺の言った通りだろ? さてと、こいつを壊せばいいのか?」


結界の周りに、鏡のような魔道具が置いてあった。

ちょうど4つだ。



<バリアルミラー>

ランク:S

能力:4つ揃えることで、強力な結界をつくる



魔道具は中からの攻撃には強いが、外からの攻撃には弱い。

だから、壊すのは簡単だ。


「よし、いっせいに壊すぞ」

「「せーのっ!」」


俺たちはタイミングを合わせて、同時に魔道具を壊した。

結界が解かれ、ネオサラマンダーがするりと出てきた。


「いいぞ、あとはこいつを捕まえるだけだ」


俺は手を伸ばしていく。

なんだ、思ったより簡単だったな。


『ガアアアアアア!!!』


そのとたん、ネオサラマンダーが巨大化した。

祠いっぱいに大きくなっている。


「な、なんだ!? でかくなったぞ!?」


ヤツの体から、見たこともないような激しい炎が噴き出てきた。

周りの温度が、一気に上がる。


『グオオオオオオオオ!!!』

「うわあ! な、なんだってんだよ!」

「みんな、離れて!」


も、ものすごい熱風だ。

顔が焦げるかと思うほどだった。

ネオサラマンダーは、俺のことをジッと見ている。

お、おい、なに見てんだよ。

まさか、俺を……。


「だ、誰か、助けてくれー!まだ死にたくねえよー!」


しかし、ネオサラマンダーは祠を抜けて、外に飛び出て行った。


「た、助かった……」


俺はほっと一息つく。

捕まえ損ねたが、食われなくて良かった。

そこで、女どもが震えているのに気付いた。


「おい、どうした、お前ら。ネオサラマンダーはもう行っちまったぞ」

「ガイチュー様、あそこ……」

「あ?」


街の方で、火の手が上がっている。

住民の叫び声も聞こえてきた。


「大変だ! ネオサラマンダーだ!」

「はあ!? なんでだよ! 封印が解かれたのか!?」

「早く態勢を整えろ……うぎゃああああ!」


遠くからでも、街が大変なことになっているのがわかる。


「……あれ? 結構ヤバくねえか?」

「ガイチュー様、逃げましょう!」

「そ、そうだな! さすがにヤベえぞ! いや、待て……」


とそこで、俺はまたもや名案が浮かんだ。


「この騒ぎを利用して、金目の物を盗むぞ!」


そうだ、街は今パニック状態だ。

これなら、大金が簡単に手に入る。


「ガイチュー様、何を言ってるんですか!?」

「それは泥棒だ!」

「そんな場合じゃない!」

「うるせえ! うるせえ! 俺の言うことを聞きやがれ!」

「きゃあ!」

「引っ張らないで!」

「痛い!」


俺は女どもを引きずって、大急ぎでグランドビールに向かう。

ここで一発逆転するんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る