第10話:例のアイツがやってきた

「セレンさん、マジックドラゴン倒してきました」

〔ただいま~〕

「きゃああ!」


【闇の魔導書】を使ったので、俺たちは一瞬で戻ってきた。

しかし、セレンさんは叫んでいた。


「レ、レイクさん!? どうしたんですか!?」

「いや、どうしたって、クエスト終わったんです」

〔ダーリンったら瞬殺よ、瞬殺!〕

「ま、まだ10分くらいしか経ってないんですけど……」


セレンさんは、驚愕といった感じだ。


「本当に倒して来たんですって」

〔証拠のかけらだってあるわよ〕

「た、確かに……」


俺たちはマジックドラゴンの一部を出す。

セレンさんは信じられないという顔をしていたが、受け取ってくれた。


「す、すみません。レイクさんたちを疑うわけではないんですが、あまりにも早すぎて……」


まぁ、余計なところは全部カットしているからな。


「どうしたセレン、何かあったのか?」

「あっ、マギスドールさん」


カウンターの奥から、ガタイの良い人が出てきた。

ギルドマスターの、マギスドールさん。

今は第一線を退いているけど、元Sランクの剣士だ。

右目にザックリと傷が入っているのが、カッコいいな。

俺はひそかに憧れている。


「こんにちは」

「だ、誰だ、君は!?」


マギスドールさんは、俺を見てめちゃくちゃ驚いている。

何度も話したことがあるのに、なんでだ?

あ、そうか、兜で顔が隠れているからか。

俺は兜を外す。


「レイクです」

「レ、レイクじゃないか! 生きていたのか!?」


マギスドールさんは、前から俺のことをかわいがってくれていた。

結構年上なのに、気さくに話してくれる。


「置いてけぼりにされましたけど、無事に帰ってこれたんです」

「そうだったのか……。お前が生きていて、ほんとに良かった。ガイチューたちには、注意しとかんとな」

「レイクさんったら、マジックドラゴンを倒してきちゃったんですよ」

「マジックドラゴンを倒した? Aランクモンスターだろ? こういっちゃ悪いが、レイクはFランクじゃなかったか?」

「そうなんですが、呪われた即死アイテムっていう、めちゃくちゃ強いアイテムをゲットしたんです。この鎧もそうです」


俺が言うと、マギスドールさんはまたもや驚いた。


「なに、呪われた即死アイテムだって!? 実際に使える者がいるとは……信じられないな」

「そんなにすごいことなんですかね?」

「俺が知る限り、そんなヤツはお前以外に一人もいないぞ」


そうなのか、やっぱり特別なことなのかもしれない。


「あ、そうだ。レイクさん、これが報酬です。どうぞ」

「え?」


セレンさんが、小さな袋を渡してきた。

クエストをクリアすると、報奨金が貰える。

今まであいつらに横取りされていたので、俺が貰うのは初めてだな。

俺はありがたく受け取る。

中には金貨がたんまり入っていた。


「すげえ! こんなに貰えるんですか!?」

「今回の依頼は、魔石鉱山を持っている大貴族の方からだったので、報酬も多いんですよ」

〔いえーい! 大金持ちね、ダーリン!〕


これだけあれば、良いとこに引っ越せるぞ。

さて、無事に終わったわけだが……。

Aランククエストを1個クリアしたところで、いきなり傭兵にはなれないよな。

こういう実績は、地道に積み上げるしかない。

俺たちはクエストボードの前まで来た。


「もう少しクエストを眺めてみるか」

〔次は何にしようかしら〕

「とりあえず、高ランクのクエストをクリアしていくのが良いだろうな」

〔みんながダーリンのことを見てるわ。鎧を着てても、ダーリンのカッコよさはわかってしまうのね〕

「え?」


周りの冒険者たちが、俺を見てコソコソ話している。

しまった、呪われた即死アイテムをしまっとくのを忘れていた。

どす黒い鎧をつけてるヤツなんて、一人もいない。

完全に浮きまくっていた。

あ、亜空間で待機!

俺が念じると、アイテムたちが消えた。

と思ったら、ギルドの中が急にザワつき始めた。

みんな、入口の方を見ている。


「ブヒャヒャヒャヒャ! ようやく見つけたぞ、この無能レイク! お前のせいで、俺たちは散々な目に遭ったんだよ! どうしてくれんだ、このゴミ虫め!」


うわぁ……ガイチューじゃん……。

遠くから、元メンバーたちがやってきた。

どう見ても俺の方に向かっているんだけど。

面倒なヤツらに会っちまったぞ。


「何の用だ、ガイチュー」

「まだ生きてやがったんだな! 二度と動けない体にしてやるよ! …………へえ、ずいぶんとかわいい女を連れてんじゃねえかよ! おい、お前! 俺の女になりやがれよ!」


ガイチューは、ミウをじっとり見ている。

鼻の下が伸びまくっていた。

気持ちわりー。

まったく、こいつに貞操観念はないのか?


「なぁ、名前教えてよ。俺はこのギルドで一番つええんだぜぇ?」


ガイチューはミウに手を伸ばしていく。


〔ふうう……〕

「ぶぎゃああああああああ!!!」


いきなり、ガイチューの体が燃え上がった。

呪い魔神の、世界を焦土に変える炎だ。

このまま、どす黒い炎で焼き尽くされ……。


「ちょ、ちょっと、タンマ! 殺すのはまずいって! 死んじゃうよ!」

〔大丈夫、毛を焼いただけだわ〕


ガイチュー自慢の髪の毛は、ちりぢりになっていた。

というか、爆発頭みたいになっている。


「こ、この野郎!? ふざけんな!」

「いい加減にしろ、ガイチュー」


ミウを殴ろうとしたので、俺はガイチューの腕を掴んだ。

ギリギリと締め上げていく。


「ぐっ……てめえ、いつのまにこんな力を……!」

「もう早く帰ってくれ」


さすがに折るのはまずいよな?

どうするかな。


「へっ、調子に乗んじゃねえ! 戦闘力ゼロの、クソゴミカス無能が!」


考えていると、あの日のように、ガイチューは腹を蹴ってきた。

とっさに、俺は腹筋に力を込める。

ガイチューの膝が当たったかと思うと……。


「おぎゃああああああ! なんか、バキって言ったああああ!」

「「ガイチュー様! 大丈夫ですか!」」


ガイチューは足を抱えて、床を転げまわっている。

呪われた即死アイテムはしまっても、【悪魔のポーション】の効果は残っているからな。

身体能力666倍だ、タダでは済まないだろう。

周りの冒険者たちは、失笑している。

誰も助けようとしないのが、嫌われている証拠だった。


「こ、この野郎! 覚えてろ! 今度あったらタダじゃおかないからな!」

「お大事に、ガイチュー」

「う、うるせえ! お前だけは許さないぞ! ブヒャヒャヒャヒャ!」

「ガイチュー様、お早く!」

「この仕返しは絶対にするから」

「逃げるんじゃないわよ」


取り巻き女に抱えられ、ガイチューは出ていった。

ヒューヒュー、パチパチと、冒険者たちが拍手している。


「いいぞ! 俺たちもあいつらに、心底ムカついていたんだ!」

「次会ったときは、それこそボコボコのグチャグチャにしてやれ!」

「殺しちまっても良かったんだぞ!」


どんだけ嫌われてたんだ……。

とそこで、ミウがぎゅっと飛びついてきた。

目がキラキラしている。


〔さすがね、ダーリン! 私を守ってくれたのね! カッコいいわ!〕

「ちょ、ちょっとミウ!? そ、そんなにくっつくと周りの視線が……」


やがて、セレンさんとマギスドールさんもやってきた。


「だ、大丈夫ですか、レイクさん!? 大変でしたね!」

「レイク、ケガはないか!? まったく、あいつらめ!」

「ええ、俺は大丈夫です。すみませんね、慌ただしくて」

〔変な人たちだったわ〕


ガイチューたちも、これで懲りてくれれば良いのだが……。

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