第9話:傭兵には実績が必要

「こんちはー」

〔こんにちはー〕


俺たちはギルドに来た。

そのまま、なじみの受付嬢さんのところに行く。


「どうも、セレンさん」

「レ、レイクさん!? ガイチューさんから死亡届が出されるし、帰ってこないから死んだかと思ってましたよ!」


セレンさんは俺を見ると、めちゃくちゃに驚いた。

マジか、死亡届まで……あれ、ガイチューって誰だ?

…………そうだ、あいつだ。

元パーティーリーダーじゃねえか。

いろんなことがありすぎて、忘れかけていた。


「なんとか、帰ってこれました」

「生きていたんですね。良かったぁ。ほ、本物ですよね? まさか、幽霊じゃ!?」


そのまま、俺の頬をぶにぶに触ってくる。

年を聞いたことはないが、たぶん俺より上だろうな。

ショートヘアの似合う、かわいい女性だ。


「ふぉ、ふぉんものですよ」

〔ねえ、ダーリンにベタベタ触らないでよ〕

「おや? こちらは、どなたですか? ずいぶんとキレイな娘ですね」


正直に呪い魔神です、って言った方がいいのか?

いや、悪手極まりない気がするな。


「ダンジョンで会った子で、ミウって言います」

〔よろしくね〕

「へえ、ミウちゃんって言うんですか。私はセレンです。よろしくお願いします。す、素敵な髪飾りですね」


セレンさんは、どうしてちょっと引いてるんだ。

こんなカッコいいのに。


〔私たち、結婚してまーす〕

「え!? 結婚!? どういうことですか、レイクさん!?」


だから、そんな軽いノリで言わないでくれ。

周りのヤツらがジロジロ見てるだろうが。

ミウは嬉しそうに、左手の薬指を見せる。

俺の手も隠そうとしたのに、あっさり出されてしまった。


「ほんとだ。何というか……前衛的な結婚指輪ですね。まさか、レイクさんがこんなに手が早い人だったとは……」

「ち、違いますから。そ、それに手が早いとか言わないでくださいよ。まだ何もしてないし」

「何はともあれ、無事で良かったです」

「あとセレンさん。俺を傭兵として登録してくれませんか?」

「傭兵ですか? どうしてまた」

「まぁ、何というかそっちの方が向いてるかなって。変ですかね?」

「それは別に構わないんですが、傭兵になるには実績が必要です。冒険者パーティーから依頼を受けるには、それなりの実力がないと……」


たしかに、そりゃそうだ。

誰も素人まがいのヤツに頼んだりしないよな。

となると、まずは強いことを証明しなければならないが……。


「どのくらいの強さがあれば大丈夫ですかね?」

「そうですねぇ、高ランクモンスターを倒せれば文句なしだとは思いますが。SランクやAランクを倒せれば、十分でしょう」


Aランクって、もう達成してんじゃねえかよ。

でも、あのデュラハンは適当に倒したヤツだ。

正式なクエストじゃないから、認められないだろうな。


「セレンさん、少しクエストを探してみますね」

「あっ、ちょっと、レイクさん」


俺たちはクエストボードの前に来た。


「なんかいいのねえかなぁ」

〔ダーリン、ここにAランクって書いてあるわ〕

「おっ、どれどれ」


『Aランクモンスター、マジックドラゴンの討伐』

魔石鉱山内に棲みついた、マジックドラゴンを討伐せよ


〔これにしましょう〕

「よし」


俺たちは依頼表を取って、受付に戻る。


「じゃあ、セレンさん。このクエストお願いします」

「はいはい、わかりましたって、Aランククエスト!? いけません! そんな危険なクエストを任せられませんよ! だって、レイクさんはFランクじゃないですか!」


ああ、そうだった。

俺はまだFランクだった。

ガイチューたちが手柄を横取りするので、いつまでも昇格できなかったのだ。


「このクエストは、何人も失敗しています! 魔石鉱山だって、そもそも行くのが大変なんですよ! 二度と帰ってこれない、死の入り口なんて言われています!」

「大丈夫ですよ、セレンさん。俺、めっちゃ強いアイテムゲットしたんですから。呪われた即死アイテムって知ってますか? 全部SSSランクで……」

「そう言って、みんな死んじゃうんですよ!」


セレンさんは、全然話を聞いてくれない。

実際に見せた方が、早いかもしれん。

呪われた即死アイテム、来い!


「聞いてるんですか、レイクさんって、うわぁ! なんですか、それ!?」


瞬時に、俺はフル装備になった。

全身からどす黒いオーラが出ている。

セレンさんは、タジタジと言った感じだ。


「これが俺の言ってる呪われた即死アイテムですよ。めっちゃカッコいいでしょう?」

「た、確かに強そうですね」


なぜかセレンさんは、カッコいいとは言ってくれなかった。

だが、まぁ別にいいだろう。


「それに、ミウだってクソ強いんですから、大丈夫ですよ」

〔ダーリンは誰にも負けないわ〕

「そ、そうですか? なら、別に止めようとはしませんが。では、これだけは約束してください。少しでも危険を感じたら、すぐに帰ってきてください。自分たちの命を、最優先に行動してくださいね。レイクさんに何かあったら、私おかしくなりそうです」

「ええ、わかりました。セレンさんは優しいですね。でも、きっとクリアしますから」

「じゃあ、魔石鉱山への地図を渡します」

「いや、それには及びません」

「え? でも……」


まぁ【闇の魔導書】があればすぐに着くだろう。


〔ダーリン、行きましょうか〕

「よし。じゃあ、《ダークネス・テレポート》! 行き先は、魔石鉱山のマジックドラゴンがいるとこ!」

「ちょ、ちょっとレイクさん!? ミウさん!?」



□□□



「あいつか」

〔なんか、変な色してるわ〕


まばたきしたら、魔石鉱山に着いていた。

洞窟っぽいところだ。

この辺りは良質な魔石が採れるので、人もモンスターもよく集まる。

少し離れたところに、マジックドラゴンが一匹いた。

特徴的な紫と黄色のしま模様なので、間違いない。

バリバリと魔石を喰っていた。


「さっさと倒してギルドに戻るか。ミウは、ここにいて良いからな」

〔優しいのね、ダーリン〕

「そうじゃなくてだな」

『ガアアアアアアア!』


マジックドラゴンは俺たちを見つけると、大声で叫んだ。

威嚇しているのだ。

普通の冒険者たちは、震え上がるだろう。

だが、俺はちっとも怖くない。

そして、マジックブレスを吐いてきた。

紫と黄色の火球で、当たると体がしびれる。

【怨念の鎧】で何もせず倒してもいいが、ちょっと試したいことがあった。


「おお! 体がめっちゃ軽いぞ!」


俺はブレスをどんどん避ける。

【悪魔のポーション】でパワーアップしているので、簡単にかわせる。

さすがは、666倍だ。

ちょっと力を入れただけで、とんでもない速さで動けるぞ。


〔キャー、ダーリンすてきー!〕

『グルル!?』


マジックドラゴンも驚いている。

こんなに早く動けるヤツなんて、そうそういないだろうしな。

とはいえ、ミウの応援がめっちゃ恥ずかしい。

さっさと仕留めるかな。

図体がでかいから、簡単に【悪霊の剣】で斬れそうだ。

俺はマジックドラゴンの背中に飛び乗る。

そのまま、愛用の剣を突き刺した。


「ほいっと」


『ゲギャアアアアアア!!!』


マジックドラゴンは、洞窟が壊れそうな叫び声をあげて、あっさり死んじまった。

難しいと言われている討伐は、ものの数分で終わった。

やっぱり、秒で倒しちまう。


「さて、ギルドに戻るか」

〔ダーリンは強いわねぇ〕


ということで、俺たちはギルドに戻る。

早く傭兵になりてえなぁ。

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