第6話:無双しながら地上へ戻る

『コオオオオオ!』

「な、なんだ!?」

〔何か聞こえるわね〕


ダンジョンを歩いていると、不気味な音が聞こえてきた。


〔ダーリン、あそこに何かいるわ〕


ミウが奥の方を指す。

すると暗がりから、首のない騎士系モンスターが出てきた。


「うおっ、デュラハンじゃねえか! やべえ! こいつは、Aランクだぞ!」


そうだ、ここは<呪い迷宮>だ。

こんな大物が出てきても、おかしくはない。


〔でも、Aランクでしょ? たいしたことないわよ〕


ミウはそんなことを言っているが、そんじょそこらのヤツらとはわけが違う。

剣技は超一流な上に、魔法攻撃だって強い。

Aランクパーティーでも、全滅の危険があるほどだ。

というか、デュラハンなんて倒せたら、ギルドのエースになれる。


「に、逃げよう!」

〔だから、ダーリンなら大丈夫だって。それにしても、不思議ねぇ〕

「な、何が?」


ミウはしきりに考え込んでいる。


〔頭がないのに、どうして動けるのかしら〕

「そうじゃなくてだな」


その間にも、デュラハンはのっしのっしと、近づいてくる。

こいつは騎士道精神にあふれているので、不意打ちとかはしてこないのだ。


「しょうがない、やるしかないか」

〔ダーリン、そのままじっとしてて〕

「いや、【悪霊の剣】で倒すよ」

〔それより、もっと楽な方法があるわ。【怨念の鎧】があるじゃないの〕

「え? ああ、666倍の反射か」

〔ダーリンは何もしなくても、あいつは勝手に死ぬわ〕

「そうかなぁ」

〔ほら、あいつの前に行って〕


いや……いけるのか?

やっぱり、緊張するんだよな。

ちょっとドキドキしながら、デュラハンに近づいていく。

すると、相手も俺を敵だと認めたらしい。


『コオオオ!』


す、すごい勢いで剣を振ってきたぞ。

ほ、ほんとに大丈夫か?

ブウン! っと斬りかかった剣が、俺の鎧に触れ……。


『ズギャアアアアアア!!!』

「うおおおお!」


た瞬間、デュラハンの体がめった打ちにされた。

秒もたたずに、無数の傷が刻まれる。

そのまま、床に崩れ落ちてしまった。

ピクリとも動かない。

おいおいおい、こいつはAランクだよな?

死んじまったぞ。


〔さすが、ダーリン! 何もしないのに倒しちゃったわ!〕

「す、すげえ……さすがは666倍だな……」


ミウはウッキウキで、俺にくっついてくる。

というか、呪われた即死アイテムが強すぎる。

どんなモンスターも、秒で倒しちしまう。


〔じゃあ、ダンジョンから出ましょうか〕

「そうだな、もう十分だろう」



□□□



「おっ、地上に出てきたぞ」

〔ここがダーリンのいた世界なのね! 空気がおいしいわぁ〕


思ったより、早く外についた。

ここに来たときは、めちゃくちゃ大変だったのに。

帰り道は、拍子抜けするくらいあっけなかったぞ。


「う~ん、<呪い迷宮>はグランドビールからちょっと離れてるんだよなぁ」


歩くと数日はかかるかもしれない。


〔闇魔法を使ってみたら?〕

「たしかに」


俺たちは、【闇の魔導書】を見てみる。

ちょうどよさげな魔法があった。


〔あら、これがいいんじゃない?〕

「ふ~ん、《ダークネス・テレポート》か。世界中のどこにでも、自由に行けるって書いてあるぞ。今日はもう遅いから、家に帰るかな」

〔ダーリンのお家なんて、楽しみね〕

「魔法名を言うだけでいいのかな?」

〔たぶん〕

「じゃあ、《ダークネス・テレポート》! 行き先は俺の家!」


しゃべり終わったとたん、見慣れたところに来ていた。

ボロ宿にある、俺の部屋だ。


「え、もう着いたの?」

〔はや~い!〕


もちろん、全身から出血していることもない。

いたって健康そのものだ。


「その……狭くて悪いな」

〔ダーリンとくっついていられるから、私は幸せだわ〕


俺の安宿は、ギルドからいっっちばん遠くにある。

ガイチューたちが、無理やり決めたのだ。

だから、俺だけいつも早起きさせられていた。

というか、女の子を部屋に入れるなんて、生まれて初めてだ。

もっと片付けておけば良かったぞ。

不健全な物は置いていないのに、緊張するのはどうしてだ?


「呪われた即死アイテムを飾っとくスペースはないな。どうやってしまうんだろう?」

〔念じるだけで大丈夫よ〕

「そうか、ずいぶん簡単だな」


亜空間で待機していてくれ。

こんな感じか?

と思ったら、呪われた即死アイテムは消えていた。


「今日はしかたないけど、そのうち引っ越しも考えるかな」

〔私はこのままでもいいけど〕

「いや、やっぱり申し訳ないから」


俺しかいないときは気にならなかったが、ミウもいるとやっぱり狭かった。

二人で暮らすには、もっと広い部屋がいいかな。

呪われた即死アイテムも飾りたいし。

どうせなら、家具とかにもこだわりたい。

そういや、ミウはどんなのが好きなんだろう?

いや、ちょっと待て。

いつのまにか、夫婦みたいになってる気がするんだが……気のせいだよな?


〔ダーリンはまた冒険者やるの?〕

「う~む、冒険者か」


俺はあまり気乗りしなかった。

また再開するにしても、誰かと組んだ方がいいだろうな。

しかし、ガイチュー事件があって以来、パーティーにあまり良いイメージがないのだ。

またあんな面倒があるのは、さすがにごめんだ。

だが、せっかく呪われた即死アイテムをゲットしたのだ。

使わずに引退なんて、つまらなすぎる。

となると、冒険するのが一番なんだが。

どうしたものかな。


〔ダーリンは、冒険者やりたくない?〕

「いや、そういうわけじゃなくてな」

〔じゃ、傭兵とかどう? ダーリンの強さなら、どんな依頼だって完璧にこなせるわよ〕

「………………傭兵かぁ」


なかなかに、カッコいい響きじゃないか。

どこにも属さず、依頼のあるときだけ人と関わる。

淡々と仕事をして、終わったら姿を消すのだ。

何人たりと群れることもない、孤高の一匹オオカミ。

俺の生き方にピッタリだ。

それに、何となくのんびり暮らせそうじゃないか。


〔あっという間に、ダーリンのウワサで持ち切りになっちゃうかもね〕

「そんなまさか」


冒険者として有名になるのもいいだろうが、俺はあまり目立ちたくない。

気楽に傭兵しつつ、カッコいいアイテムを集めていくか。


「じゃあさっそく、明日ギルドに申請しよう」

〔イエーイ!〕


俺たちはぎゅうぎゅうになりながら、ベッドで寝る。

正直言って、例の休憩室より狭い。

でも、俺は幸せだ。

もう一人じゃないんだからな。

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