「なにやってんの?」「……推し活」

さーしゅー

「なにやってんの?」「……推し活」

「——でさ、最近、なんか俺のストーカーがいるみたいなんだよね? ついにモテ期がきたのかも…………って聞いてる?」


 短い髪を垂らしながら、真剣な顔でプリントに向き合う。

 教室には、彼女の相槌あいずちも響かない。

 


「放課後、委員会の話をしよう」

 

 その提案で集まったのに、一言も喋ってくれない。

 彼女曰く、「今、忙しい……」らしい。

 向かい合わせの机で、ひたすらプリントに向きあって、シャーペンを滑らせる。

 


 ——俺は耐えかねて、ぶっきらぼうに尋ねた。

 


「なにやってんの?」 


 

「……推し活」

 

 数秒後、そっけない返事が返ってきた。『邪魔しないで』そんな心の声まで聞こえるようだった。

 

「大本さん、アイドル好きだったんだね?」

 

 否定か肯定か、彼女の返事は返ってこない。

 


 俺の手元、委員会の紙は未だに白紙。

 静かな教室に、オレンジの夕陽が差し込んでくる。


 


「ちょっと、見せて?」

 

 椅子をズズッと引き、立ち上がると、俺は彼女の後ろに周りこむ。

 隠すように傾いた背中から、強引に手元を覗き込む。



「えーっと、…………手紙?」


 彼女の可愛らしい文字を、上から下まで追っていく…………。

 

 

 




「なにやってんの!?」

 

 俺の声が教室中に響く。ところどころに裏返っていて、とてもマヌケな声。

 

「…………推し活」

 


 数秒後、消え入りそうな声が聞こえる。

 彼女にとっては必死な声で、所々震えている。



 そして、教室から声が消えた。



「ま、まあ……その、あ、ありがとう…………」

 




 この日から、ストーカーはいなくなった。

 

 

 

 

 

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「なにやってんの?」「……推し活」 さーしゅー @sasyu34

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