第2話 妹、里香の作戦
(里香視点)
翌日、部活の朝練に行くと、さっそく堀尾先が
「香里ちゃん!おはよー!一緒に練習しよ?」
と言ってきたので一緒に練習した。堀尾先輩を冷たくあしらってお兄ちゃんから引き離す事は出来るかもしれないけど、四六時中お兄ちゃんを見張ることは出来ないし、仲良くしておけば私を協力者と認識してくれるかもしれない。そうなれば上手い具合にお兄ちゃんから切り離す事もできるだろう。それに会話してみてわかったのは堀尾先輩がお兄ちゃんにアタックしているのはまだ誰にも知られていない事のようだ。ならば尚更裏で協力するフリをして「失敗しちゃったー!」って剥がしてしまえば良いのでは?そんなわけで私のお兄ちゃんガード作戦がスタートした。
休憩中には
「里香ちゃんのお兄さんって普段何してるの?」
「うーん・・ゴロゴロしながらソシャゲしてますよ?」
とか
「里香ちゃんのお兄さんは今まで付き合った人とかいるの?」
「何人か兄に興味持った人いましたけど、本人が興味無いみたいで・・」
とかいろいろ聞かれたのをマイナス要素を盛り込んで答えた。これでお兄ちゃんの好感度が下がってくれれば良い。とにかく早めに諦めてもらおうと思ってた。しかし朝練終わりにスマホを見ていた先輩が
ピコン!
というrine(トークアプリ)着信音の後に
「あっ!」
と嬉しそうな表情をしたのが気になった・・まさかお兄ちゃんとrineのID交換してたとか?無いよね?あのビビりなお兄ちゃんにそんな度胸は無いはずだし・・。モヤモヤしたまま教室に戻ることになった。
(康政視点)
翌朝堀尾さんからもらったカードをポケットに入れて学校に行った。教室に入ると既に来ていた毒島と仲口が小声で
「おい、昨日のバレンタインの・・誰だった?」
と聞いてきたので平静を装って
「この人だったよ」
と二人だけに見えるようカードを差し出した。
「どれどれ・・は?・・堀尾!?」
「あの堀尾か?野球部のエース青木と怪しいって聞いてたぞ?」
「俺は生徒会会長の山田って聞いてた」
二人が盛り上がるのを横目に平静を装いながら手を眉毛の辺りに当てて外を眩しそうに見上げた。確かこんなシーンがアニメかドラマであった気がする(←実際は何も考えていない)
「いや、偽者じゃね?本当は堀尾じゃなくて堀毛とか?」
「いや、罰ゲームじゃね?」
「堀尾はきっと誰かに弱みを握られて脅されてこのような事に・・」
お前らの僕に対する評価が良くわかったよ。友達止めようかな?
「まぁ俺ら以外の他の奴らには知られていないのだろ?」
「なら堀尾ファンに知られないように動けよ?なんなら女バスの休みの日とか教えるから」
お前らと友達で良かったよ。
「このrineに何か送ったか?」
「いや、まだ何も・・」
僕はビビりなのだ。うっかり送ったら言葉巧みに宗教に誘われたりとか、クリックしたら「さて、またお前は騙されたようなのだが?」ってネットのページに飛ばされたりとかしそうで怖いし・・
「いや、早く送ってあげろよ!堀尾お前から送られてくるのずっと待ってるぞ?」
「いやね、送るにしても何て送ったらいいかわからないし、とりあえずお前らに相談をって思ってさ・・」
「よし、送るよ?バレンタインありがとう!お返し楽しみにしててね!っと・・これでよかった?」
僕のスマホをカシカシ操作しながら仲口が言った。
「事後報告だよね?いいよってまだ言ってないよね?あと操作早くね?」
僕はわかりやすくパニクった。
「まあお前はビビりだしなかなか送れないだろうからな。それに競争率の高い堀尾だから先手必勝だろ?それとも堀尾は好みじゃなかったか?」
「いや、まあ美人だし性格良さそうだし、僕には勿体無いぐらいだけど・・」
「じゃあ問題無いな!お前が堀尾をゲットしたら学校中がざわめくぞ?難攻不落の不沈艦堀尾を取り柄のないノーマーク男新田が落とす!ってな」
「取り柄の無いって酷くね?取り柄は・・まぁ無いけどさ・・」
言ってて悲しくなってると僕のスマホから「ピコン」とrineの着信音が!
「おっ!返事来たか?何て?」
「ちょっと待ってね」
仲口が相変わらず僕のスマホをカシカシしながらrineを開いた
「いや、僕のスマホ使っていいって言ってないよね!?あと操作速っ!」
「えっと『rine送ってくれてありがとう!正直昨日送って貰えなかったからダメかな?って思ってました!よろしくね♪』だって!良かったな!」
「これは・・完全に脈アリですわ!じゃあ返事しておかないとな!」
といいつつ毒島が僕の体をガッチリホールドした。嫌な予感がする
「オッケー!じゃあせっかくだからお昼一緒に中庭とかで食べない?って感じオッケー?」
「ちょ!待って!いきなりはダメ!引かれるから!」
「よし、送れ!」
毒島が相変わらず僕をホールドしながら指示する。
「待って待って!お前が黒幕か?そうなんだな!?モテる奴の遊びだな!?」
再び僕はわかりやすくパニクった
「脈アリならこれぐらい攻めて大丈夫っしょ?はい、返すよ」
やっと返ってきたスマホの画面には
『わかった!昼休みになったら迎えに行くね♪』
という文章が表示されていた。
「よっしゃ!イエーイ!」
画面を見た毒島と仲口がパン!とハイタッチした
それから1限目から4限目の記憶はほとんど無かった。ただ気が付いたらノートの片隅に「大量のマナティ排水管に詰まる」と書かれていたり、シャーペンの芯が全て出ていたり、消しゴムが全てケシカスに変わっていたのには驚いた。
キーンコーンカーンコーン
昼休みを告げるチャイムが鳴ると毒島は部活の集まりだとかで出ていってしまい、仲口は下級生の女の子に呼ばれて出ていってしまった。・・心細い。落ち着かない俺はガラッと教室の扉が開けられる度にビクッとして弁当の入った袋を取っては置いてを繰り返していた。呼ばれたら弁当を取ればいいのか置けばいいのかわからなくなった頃に
「新田君?」
と声を掛けられた。教室の後方出口を向くと何故かフワっとピンク色纏ったまま小さく手を振る堀尾の姿が!ピンク色?何故ここで?そんなことよりも、これはダメでしょう・・
「えっ?なんで堀尾さんがこの教室に?」
「新田の名前呼ばなかった?」
ほら、もう変なざわめきが・・
「新田って堀尾の弱みとか握ってるの?」
「だよね?それ以外ありえなくない?」
とりあえずクラスメイトと縁を切ろうと思うよ?
とにかく良からぬ噂が立つ前に堀尾の元に行き教室を出た。
(里香視点)
お昼になった。ふふ、私はさらに手を打っておいた。お兄ちゃんに持たせた弁当には思いっきりハートのデコレーションがされているのだ。お昼に毒島先輩のいる男バスはミーティングがあるのは知っていた。さらにクラスメイトがお兄ちゃんグループの仲口先輩を誘うのも知っていた。つまりお兄ちゃんは一人!そこに弁当を間違えたって私が訪ねたところにぼっちのお兄ちゃんを見て「仕方ないわねー。付き合ってあげる」って一緒にお昼って流れになる予定。もしお兄ちゃんが気にせずデコ弁当を食べたとしても、あのハートデコは明らかに女子作、他の女子への牽制になるはず!そんな考えを巡らせながらお兄ちゃんの教室に向かった私の目に入ったのはお兄ちゃんと一緒に歩く堀尾先輩だった。
「へ!?何で?」
思わず声が出た。まだお兄ちゃんとは会話もままならなかったはずなのに・・誰か手引きをした?それとも堀尾先輩が強気にアタックした?とにかく後手に回った!
恋愛は後手に回るとかなり不利なのだ!無意識に気配を消して二人の後をつけた。二人は中庭に行くようだ。
「どうしよう・・」
考える暇は無かった。中庭のベンチに腰かけた瞬間、私はそっと二人に近づいた
「あの・・」
「あっ、里香ちゃん!どうしたの?」
「えっと・・兄さんの弁当を私のと間違えてたみたいで・・」
私は戸惑いと怒りを隠しつつ二人に話し掛けた。
「ああ、だからめちゃくちゃデコってたのか」
大きなハートデコ弁当に驚いたのか目を丸くしながらお兄ちゃんが顔を上げた
「はい、兄さん」
弁当を取り換えるとさりげなくお兄ちゃんの横に座る。
「あの・・私もいいですか?今から教室戻るのも時間掛かるし・・」
「うん、もちろん!」
堀尾先輩は笑顔で私を受け入れてくれた。はぁ・・私だったらお兄ちゃんと二人でお昼♪ってとこに他の女来たら露骨に嫌な顔してしまいそう・・これだから堀尾先輩は人気出るのよね。
私は少々がっくりしながら顔を上げられず弁当を食べた。
(康政視点)
ピンクだな?めちゃくちゃピンクだな?
ベンチに座って弁当を開けたらめちゃくちゃピンクの桜でんぶでハートがデコられていたが、そうではない!視界の隅にめちゃくちゃ赤い怒りオーラ色が見えてビクッとなって顔を上げたら里香の姿が見えたのだ。しかも赤色がスーッとピンク色に変わっていった・・あと「キモ兄貴ではなく兄さん」って言った!?何のプレイだ!?なんか僕の隣に座ったし!でも助かった!二人っきりでなんて何を話したらいいのかわからないから・・
「確かにこれは新田君が食べてたら驚くよね」
「はは・・確かに」
思いっきりハートでデコられた弁当をみて堀尾が笑った。
「里香ちゃんはいつもお昼はお兄さんと?」
「いえいえ!いつもは友達とです。今日はたまたまた・・」
「うん、いつも里香は僕が近付くと嫌な顔するしね」
ガッ!(堀尾から見えない角度でスネを蹴る音)
「おうっ!?」
ああ、里香から怒り色(赤色)が見える。正直に答えただけなのに・・
「・・私の周りの女が兄さんに近付くのが嫌だっただけだし・・」
「ん?何て?」
「何も!はは、兄さんたら照れちゃって・・いつも私のお弁当楽しみにしてるくせに」
「まあ、それは確かに楽しみだけどな」
「うっ・・そ、そうよね・・」
再び里香が赤色からピンク色に移行した。
なるほどね、ピンク色は照れている時の色とか?
「ただ、里香は部活もあるし毎日大変だろうから、時々購買のパンにしてるよ」
「別に私は大変って思ってないわよ・・」
再び里香が赤に移行した。里香に負担かけないようにしたのだけど、なんか怒ってる?
「それならさ・・里香ちゃんのお弁当がお休みの日は私が作る・・とか?どうかな?」
「は!?」
珍しく僕と里香がハモった。里香の色が黄色(警戒色)に変わる。さっきから赤になったりピンクになったり黄色になったり忙しい奴だな・・
でも僕からも色が出ていたら黄色が出ているだろう。あの人気の堀尾が僕に手作り弁当を!?そりゃあ何か裏があるに違いないって警戒するよ?
「いや、変な意味は無くてね!その・・一人分作るのも二人分作るのも大して変わらないし!」
両手をバタバタしながらピンク色を纏って早口になる堀尾さんを見て素直に可愛いな・・と思った。なので
「じゃあ・・一回お願いしようかな?」
と言うと
「本当に!?じゃあ明日でも大丈夫かな?」
とベンチから体が一瞬浮くぐらい喜ぶ堀尾さんをみて思わず笑ってしまった。笑いながら里香の方を見ると
「赤っ!!!」
思わず口に出た。里香様怒ってらっしゃる。姿が見えなくなるぐらい赤色に埋まっていた。逃げよう。とにかく逃げよう。
「そろそろ予鈴だから教室に戻ろうか?」
「うん!」
笑顔で戻る堀尾さんと全体が真っ赤になり過ぎて表情が見えなかった里香も静かに教室に戻って行った。
それから教室から中庭を見ていた毒島や仲口に冷やかされつつ期待(堀尾)と不安(里香)を感じながらその日を過ごした。
そして放課後、家に帰ると無色の里香が僕を迎えてくれた
「今日は部活早く終わったのか?」
「うん、今日は私が夕食当番だしね」
ああ、良かった。怒りのままだと夕食にありつけない可能性がある。
「はい」
ドンと目の前に大きめの皿が置かれた。
「これ、何?」
「何ってソーメンよ?素材のままの味を味わってもらおうかと♪」
茹でる前のソーメンがバッキバキのままレモンが添えられて出てきた。
「明日美味しい物が食べられるから大丈夫だよね?」
里香とソーメンから赤色が吹き出した。ソーメンさんも怒ってらっしゃる!!
「いや、まあ少し弁当をいただくだけだよ?里香もちょっと楽になるだろうかと思っただけだし」
「堀尾先輩も言ってたでしょ?一人分作るのも二人分作るのもそんなに変わらないの!」
「う・・ごめん・・」
「いいよ・・次からまた私が作るし・・私のお弁当がお兄ちゃんには一番なんだから・・」
最後の方がゴニョゴニョ言ってて聞き取れなかったけど、目の前に里香特製スタミナ丼がドンと置かれた。
「おお!ありがとう!里香愛してる♪」
「うっさいキモ兄!」
フワッとピンク色が吹き出した。照れてるね~
「でも今回だけだよ?堀尾先輩は部活も忙しいから負担かけないようにね!女バスのエースなんだから!」
「おう!大丈夫!」
そんな事を話ながら二人の団欒を過ごした。
翌日、昼まで緊張のあまり記憶が殆ど無い。三色ボールペンが全部青色に換えられてたり、ノートの端に食物連鎖表が書いてあり、頂点に「マナティ」と書かれていたりしたのには驚いた。
キーンコーンカーンコーン
昼休みのチャイムが鳴ると気配を消して教室を出ようとした
「おいヤス?昼休みなのに体育館シューズ持っていくのか?」
「あと絵具のぐんじょう色も必要か?」
「いや!何でもない!」
毒島と仲口に指摘されて初めて気が付いた僕はバーンと両手の物をロッカーに投げ込むと教室を出て中庭に向かった。想像以上に緊張していたようだ。
「あいつ今日も堀尾と一緒なんだよな?・・」
「ああ、でも手ぶらだったよな?ボケの品はもってたが・・」
「購買だったら逆方向だし・・」
「それはそうと、今日は下級生の子達と昼なんだよな?」
「ああ里香ちゃんの友達が来るって」
二人は康政<女の子になっていた
(里香視点)
はぁ・・ついに昼休みになってしまった。今日もお邪魔するわけにはいかない。なのでお兄ちゃんグループの仲口先輩に熱を上げるクラスメイトのナナコにくっついてお兄ちゃんの教室に行くことにした。お兄ちゃんは居ないけど、そこの教室からだと中庭がよく見えるのだ。
仲良くベンチに腰掛けて二人で弁当を食べる二人を見ながら弁当を食べたけど、つい力が入って箸で掴んだ豆がトゥーーン!と窓の外に飛んで行ったのには驚いた。
「里香ちゃん?気になる?」
「いや、その・・」
「大丈夫だって!ヤスなら堀尾とは釣り合わないからw」
「そうそう、兄貴取られないから安心しなってw」
「はい・・取られたくないって言うか、私が面倒見ておかないとって思ってて・・」
毒島先輩と仲口先輩なら私の本音をお兄ちゃんに伝えたりしないから安心はしてる。
「まぁ堀尾は今まで高スペックの男からしか言い寄られて来なかったから、普通のヤスが気になっただけだと思うぞ?」
「普段は里香ちゃんの弁当を旨い旨いって言いながら食べてるしな」
ちょっと安心した
「そうですか!ならいいです♪」
「ヤスもめっちゃシスコンだけど里香ちゃんもブラコンだよな」
「ああ、危険な両想いだねw」
私には聞こえないように話した内容もバッチリ聞こえてたけど聞こえないフリをすることにした
(康政視点)
「はい!ちょっと頑張ってみたんだー」
ベンチに座ると堀尾さんが弁当を広げた。
「おお!旨そう!」
rineで好きなおかずを聞かれていたため、僕の大好物で埋め尽くされていた。
「でも野菜も大事だからちゃんと食べてね」
「ありがとう!大好物に野菜にバランスもいいし、最高だね♪堀尾さんいいお嫁さんになるよ!」
「へっ!?そそそ、そう?そんなことないよー」
両手をバタバタしながら堀尾さんがピンク色を放った。照れてるな~
「やっぱり喜んで食べてもらえるの嬉しいから、また作って来てもいい?」
「うん、もちろん!」
二人っきりだと緊張するかと思ったけど意外と打ち解けた。それから他愛もない話をして楽しい昼休みを過ごした。
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