ある少女の秘密

兄さまへ。

そちらの様子はどうですか。木を売る仕事はうまくいっていますか。

またこちらに帰って来てください。私も母さまも兄さまの帰省を心待ちにしています。


ここからは、いつものように近況です。


ある朝のことでした。

一人の勇者様が不意に現れて、「この国の魔王を倒したぞ、もう君たちは大丈夫だ」と仰ったのです。


私と母さまはカボチャのスープとシャインマスカットをいただいている最中でした。


人々が通りからぞろぞろと飛び出してきて、勇者様に詳細を尋ねていました。


勇者様は御自分を、隣国からやって来た正義の味方だと仰っていました。


金色の兜と鎧はぴかぴかに磨き上げられていて、燃えるような赤毛が女の人たちの噂の的になりました。勇者様の凛々しい御姿はとても格好良く、美しいものでした。


「ヒッデーナ国」では、人々は皆泣いています。


魔王様が勇者様によって殺害されたという事実を、人々は決して忘れないでしょう。



(先日、勇者を悪く言った青年が暴行を受けました。一部の人は勇者様の正義に熱せられて、勇者様を国の王にしようと動き始めているようです。母さまはそのことに対してひどく怯えています)



最後に、一つ詩をかきました。




ゆうかんな勇者様

うつくしい勇者様

シャインマスカット

とって

めしあがれ

てをお汚しにならぬように



兄へ送る手紙の最後の一文字を書き終えた少女は、便箋に涙が滲んだことに気づく。ぽたりぽたりと、インクのように。


「・・・ああ、どうかお願いですから」


少女はこの世界の結末を恐れ、泣くのだった。

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ある王国の秘密 お餅。 @omotimotiti

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