ある魔王の秘密

 あの森に住んでいたドラゴンが殺されたらしい。

彼女とはもう10年の付き合いだった。

毎晩森に足を踏み入れ、彼女に餌を与えた。

人々に攻撃された彼女を時には看病し、子育てを時には手伝った。


私は自国「ヒッデーナ国」の様子を窓から見下ろす。

私の父は、よい統治者とはいえなかった。

あの時代、国は堕落し、貧しい人々が通りに溢れた。


死者の匂い、飢餓に苦しむ民、泣き叫ぶ子供たち。

幼かった私には、それらはとてもショックなものだった。


だから私は厳しさを選んだ。


堕落した民主主義が行われるぐらいなら、

すぐに政策の行き届く独裁政治を。


政治が地位に縋る貴族たちの溜まり場になるぐらいなら、粛清を。


子供たちが泣くくらいなら、政策のリセットを。


何度も何度も、私はそれらを行った。


人々の貧しさは以前に比べて大分改善された。

その代わり、皆が私の評価に怯えるようになった。


もうじき勇者が、私を殺しにやってくるという。


私は壁にかけられた、自国の旗を見上げた。

私がいつか、誰かによって殺されるであろうということ、


それを思わない日はなかった。


ああ、ドラゴンよ。

お前はどれほど辛かった。

苦しかった。


子供もろとも殺されて、どれほど悲しかっただろう。

私にももうじき、来る痛みだ。


受け入れよう、新たな統治者が生まれる瞬間を。


私の名前が残るより、私が愛されるより、貧しい子供が一人でも多く笑顔になる方へ。

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