第49話

「レインさん! レインさん!!」


 しばらく考えに耽っていた俺だったが、俺が使っていた毛布にくるまって赤い顔のアルに声をかける。


「何か出来ることある?」


「ありますっ! 服を取ってきてくださいっ!」


「そう言われても、アルの部屋に入るのもなあ」


「こ、この際いいですからっ! 鍵、鍵がカバンに入っているのでお願いしますっ!!」


 そう言ってアルはカバンを指差した。


「うぅ……何でそんなに平静なんですかあ」


「それはだって、もう明日には発表しないといけないのに失敗したっていうのは不味いからそっちに意識を持ってかれるよ」


「それは……そうです。正直、本当に不味いです。流石に今から魔法の変更ってなると時間が足りませんし。ただ、今僕は危機的状況にあります」


「うん。問題があるとしたらアルの魔法の練度が足りないとかか。いや魔法の発動自体はしていたから……」


「あー! あー! また思考の海に潜っちゃった!! 大変なのはわかってます! 僕も同じ気持ちです! でも今すごく大変なんです!!」


「ごめん、そだね。どうしよう? モユとエルが戻ってきてアルが女だとバレるわけにはいかないし、早く服を……服?」


 服、か。魔法の座標指定は服と被る。とすれば、制服と相性が悪く魔法の解除と合わせて同座標の服まで分解されたのかもしれない。そう考えると上手く魔法が形成されなかったのも、服との相性か?


 だとしたら今から新たに位置関係に関わる魔法陣を追加しないといけないが、そんな時間はない。昨日、一日使ってようやく完成させた魔導書を更に複雑にするとなれば、物理的に時間が足りないのだ。


 ならば外的な要素を追加すべき。魔法が服にまで影響を及ぼすのなら、魔法の干渉を受けない耐性を持つ衣服を着用すれば問題ないと言える。


 だがそれは相当に魔法耐性のある装備でなくてはならず、今日街に出て都合よく買い求められるかはわからない。そもそもある程度魔法耐性が高い制服でダメなのだから、ダンジョンで得られるレアドロップクラスの装備でもないと……あ。


「アル」


「な、なんですか?」


「どんな服を持ってきても怒らない?」


「え、怖い。何着させる気なんですか?」


「えっちな下着」


「本当に何着させる気なんですか!? 変態!!」


 顔を赤らめ、うう〜と睨んでくるアルに着せたい気持ちはある。だが、至って真剣に言っているのだ。


「アル聞いてくれ。これは真面目な話なんだ」


「えっちな下着の何処に真面目な要素があるんですかっ! 頼む立場で何ですけど早く服をください!」


「わかった」


 衣服がないことによる危機感で話を聞く余裕がなさそうなので、俺は自分の白シャツを脱ぐ。


「ちょ、ええ!? な、なんで脱いでるんですか!?」


 手で目を覆うアルの指の隙間は空いていたことは気にせず、インナーを見てちょっとガッカリしてそうだったことは気にせず、脱いだ白シャツをアルに渡す。


「取り敢えずこれを着てくれ」


「え、と、は、はい。ありがとうございます?」


 受け取ったアルは戸惑いながらもシャツを着て立ち上がる。サイズ的には大きめなのでアルが着ると太腿のあたりまで丈があり隠れてはいたが、裸より逆にえっちかった。


「えと、ありがとうございます。その、下は?」


「勿論、俺が着ているのを渡す。俺は毛布でも巻いて取ってくるし、なんなら俺の服を着たアルが取りに行っても良い。が、その前にえっちな下着についての話を聞いて欲しいんだ」


「わ、わかりました」


「ありがとう、じゃあ手短に説明するね」


 と、俺はえっちな下着を身につけることでの仮定についてアルに話す。


「なるほど。そうなのかもしれません、でも僕がつけなくてもいいですよね? 結局発表者はモユさんですし、モユさんがすべきでは?」


「それはそう。だけど、俺がモユにえっちな下着をつけて欲しいって言いたくない。なんかもう、それを言質として色々されそうで怖い」


「それは……まあわかりますけど、レインさんって本当にアレですよね。いつか酷い目に遭いますよ」


「まあそんなことより、アル。そういうわけだから着てくれるよね?」


「……はい」


 渋々頷いたアルは重い足取りで歩き出し、自分の鞄をごそごそとあさり始めた。


「? 何してるの、アル?」


「え?」


 どうして急に漁り始めたのかわからなかったが、アルがカバンから出した物を見て理解した。


 来るべきときに持ってないと恥ずかしいって言葉を間に受けて、カバンに常備してたんだ。レインコートみたいに常備してたんだ。ちゃんと丁寧に畳まれているし、しっかり洗濯もしてあるし……なんて健気、いや健気?


「ごめん何でもない」


 何か言うのも憚られそう言うと、アルはわかりましたと下着をつけ始めたので俺は背中を向ける。


「いいですよ、レインさん。それじゃあやりますね!」


 準備が出来たアルが早速魔法を発動する。


 さっきと同じく光が集まり、そして……目を奪われた。


「わあ……」


「凄いな……」


 魔法が解ける。


 しばらく余韻に浸っていたが我に返る。


 アルの服は無事。艶かしい生脚を惜しみなく出す彼シャツ。中のえっちな下着の色が濃いので透けて見え、無事が確認できる。


 成功だ。


「やりましたね! レインさん!!」


 感動しているのか目の端に涙が光るアル。


 痴女と感動の組み合わせは余りにも悪く、いまいち感動できなかった俺はすぐさま履いていたズボンを渡したのだった。


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