第48話
「やりましたね! バリアの魔法で装備を作れるようになるなんて!」
「うん。昨日、丸一日かけた甲斐があったよ」
昨日のことを俺は振り返った。
***
残り二日と迫った朝。
「おお! エル、凄いよ!」
エルから手渡された魔導書を使い、無事バリアの魔法を成功させたモユがそう言った。
「凄いですよ! 長方形のバリアが円で出来てます! これなら余計な部分を抑えられて魔力消費だって減りますよ!」
「研究の成果としてはまあまあなんじゃない?」
「まあまあどころじゃありませんよ! もしかしたら魔力の少ない人にだって使えるようになるかもしれません!」
「おっ、アルくん。魔法主義から科学を推進するようになったフラン王女への反逆かな? ボクは歓迎するよ」
「ち、違います!」
「じゃあスパイか」
「だから違いますって!」
「仕方ない、これはもう椅子に縛り付けて尋問するしかないね」
「それはもうされましたよ!!」
「え……」
「う、嘘です!!」
眉根を寄せたモユと慌てて誤魔化そうとするアルから目を逸らす。
罪悪感で胸が痛い。モユですら服をひん剥かないのだから、尚更胸が痛い。俺がひん剥いたわけではないけど。
「……まあいいや。何か大変な目に遭ったんだろうし、つつかないでおくよ。それよりレインくん?」
「うん?」
「一応、完成したわけだけど、これで終わりなのかな?」
モユに尋ねられて俺は首を振る。
「皆の激務のおかげで試験には出せるレベルになったと思う。でも……」
「まだ勝てないよね?」
今度は首を縦に振った。
たしかにアルの言う通り実用性はあって決して小さな功績ではない。
だが、余りに地味すぎるのだ。
他の三人はきっと俺たちより優れたものを出してくる。仮にそうでなくとも、勝てばOKのゲームではないので、勝ち方には拘らないと本当の勝利とは呼べない。
「ならどうするつもりだ?」
エルに尋ねられて俺は答える。
「演出に拘る。バリアの形を円じゃなくて、もっと別の形にしたい」
今日を含めれば本番まであと二日。別の魔法への移行は愚か、大幅な機能改善は見込めないので見せ方に焦点を当てようと考えていた。
「それは……どうなんでしょう? 今は円形ですけど、それがハート型だったり雲型だったところで勝てますかね?」
「多分、無理。あと形が可愛いな」
「それはいいじゃないですかっ!」
「まあ形を沢山用意して数で押すって手もあるけど、もっとインパクトが欲しいね。例えば、バリアで装備になる、とかかな?」
モユがそう言うけれど、エルが渋い顔をする。
「単純な形に変えるだけですら、これだけ時間が掛かったんだ。装備、となると複雑な魔法陣を用意しないといけない」
エルは「なあ」と続けた。
「もうこれで完成でいいんじゃないか? 合格点が固いなら、また別の分野で勝負をして今回は勝ちを譲ればいい。連日連夜働き詰めでろくに休めていないし、疲労も限界だろう? 倒れてしまっては意味がないと思う」
そんなエルの言葉にモユは悲しげに眉尻を下げた。だけど、それも一瞬でいつものモユに戻る。
「そうかもね、でも頑張るよ。エル、付き合ってくれるかな?」
「……わかった」
どこか湿っぽい空気が流れ、それを断ち切るようにアルがパンと手を叩いた。
「じゃっ装備の形にするってことで良いですよね!」
頷かないでいると「ね! レインさん!?」と助けを求める目を向けてきたので、助け舟を出してあげる。
「うん。じゃあそうしようか」
アルはほっと安堵の息をついて尋ねてきた。
「でもどうするんです?」
「円柱に内接する球を増やせば、その分魔法陣を追加できるかもしれない」
「えっとそれ、魔法陣を書く数を増やすっことですよね。一ページ一ページに点を打って……」
「うん」
「うぅ……果てしない」
皆苦い顔を浮かべたが、すぐに作業を始めた。
***
そうして出来た結果がアルの魔導書だ。役割を分担し、一日休まず制作したものである。
「レインさん、どうでした? 上手く行きました?」
「いや、まだ試してない。けどまあ理論的には成功はすると思う」
「そうですか! じゃあ僕が試してみてもいいですか!?」
嬉しそうに言うアルに俺とモユは頷く。
「わかりました! 早速……ってエルさんがまだ来てませんよね?」
「んー、そうだね。かなり疲れてそうだったし、ちょっとボク寮の部屋を見てくるよ。あっ、ボクらに構わず試しておいて。問題があるなら早くわかっておいたほうがいいし」
「そうですね。わかりました、じゃあモユさん、エルさんのことはお願いします」
モユはうんと頷いて研究室から出て行った。
「レインさん、じゃあ早速発動してみますよ。うふふ」
「どうしたのアル?」
突如笑い出したアルにそう尋ねると、アルは目を輝かせた。
「だってバリアの装備ですよ! 浪漫じゃないですか! 格好いい!!」
「子どもっぽいなあ」
「いいじゃないですか! かっこいいのはかっこいいですよ!」
アルはバリア装備を身につける自分を想像してかうっとりとしている。
きっと勇者みたいな装備を思い浮かべているだろう。
だがこれはモユ用。
ただ単に作業を命じられたアルにはわからないだろうけど、目を引くドレスとなっている。
可愛い格好をさせられたアルの反応が楽しみだ。
「じゃあ行きますよ!」
「うん」
「本当にいきますよ〜!」
「うん」
「さあ見てください! 僕の格好いい姿を!!」
そう言ってアルは手をかざして魔導書に魔力を流す。
魔法陣が白く光り、アルに光が集まっていき……光が弾け霧散した。
そしてついでに服も弾けた。
アルの身体は前と変わらず熟れ始めた若い桃みたいなまま。情けなかったものも全く成長しておらず、情けないままだった。
「きゃあああ!?」
女の子の悲鳴を上げるアルから目を逸らしたあと、発表前日で失敗したことの方に意識を持っていかれる。
理論的には良いはず。何故こんな結果になった?
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